ミステリ読書録

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里見蘭/「ミリオンセラーガール」/中央公論新社刊

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里見蘭さんの「ミリオンセラーガール」。

彼氏にはフラれ、アパレルショップはクビになった沙智。心機一転、ファッション誌の編集者を
目指して出版社へ転職するが、配属されたのは、書店営業を行う販売促進部だった。しかも、初版
1万部にも満たない無名作家の小説を『ミリオンセラーにせよ』との特命まで課せられた!営業、
編集、取次、そして書店員をも巻き込んで、沙智は次第に火をつけていくが…(紹介文抜粋)。


新聞広告で新刊案内を見て、面白そうだなーと思って予約した本。作者さんにも全く見識が
なかったのですが、ミリオンセラーの仕掛け人が主人公なんて、本好きにはたまらない内容
っぽいのですもの。
ただ、読み始めは主人公の性格がどうにも受け入れられなくて、結構イライラさせられました。
主人公沙智は、アパレル会社をクビになった後、お洒落なファッション雑誌の編集者になりたいと
出版社を受けるのですが、その時の面接の受け答えとか、ありえない位酷い。あれで受かっちゃう
っていうのがどうにも理解出来なかったです。まぁ、社長がワンマンな会社ならあり得なくも
ないかもしれませんが・・・。配属決定の辞令の時も、不満たらたらで上司に直談判って・・・
もう、新人類としか思えません^^;;今の新人ってこうなのかなぁ。怖いもの知らずって
いうかねぇ。

ただ、そうして嫌々ながら販売促進部に配属された沙智が、先輩たちや書店めぐりで出会った
書店員たちと触れ合ううちに、少しづつ仕事に意欲が出て来て、果てにはタイトルのように
ミリオンセラーを生み出す為に動き出し、成長して行くところは良かったですね。内容的には、
少し前に読んだ大崎梢さんの『クローバー・レイン』に似てるかな。沙智が書店で研修する
くだりは成風堂シリーズみたいだったし。まぁ、本に纏わるお話は大抵似た感じになっちゃう
のかもしれないですけども。書店の営業がどれだけ大変かも良くわかりました。出版社と
書店のシステムって、かなり特殊な世界なんですねぇ。返本制度とか、ちょっとわかりにくい
部分もありましたが、勉強になりました。
とはいえ、この手の作品を読むと、本を買わずに図書館で借りている図書館ユーザーとしては、
ちょっと耳が痛いんですけどね・・・(買えよ!って声が聞こえて来そうで^^;;)。

残念だったのは、登場人物が多いので、誰が誰だかちょっとわかりにくかった点。その時々で
出て来る脇役キャラが、いまいち誰なのか把握しづらくて。
元カリスマ書店員だった辰巳なんかは個性的で良かったですけどね。個人的には、沙智と辰巳
さんがいい雰囲気になったりするのかなーなんて期待していたところもあったのですが、そういう
展開にはならなくて残念。でも、その後も付き合いは続いて行きそうな感じだから、今後そういう
雰囲気に発展する可能性がないとも言えないかな。

しかし、本を全く読まない人間だった沙智が、一冊の本をきっかけにどんどん読書にはまって
行くくだりがあるのですが、二冊目だか三冊目の段階で舞城王太郎を読ませるってどうなのよ。
読書初心者が舞城さんを読んで面白いと思えるとは到底思えないのですが・・・。下手すると、
本嫌いになりかねない気さえするんですが・・・^^;もうちょっと他の作家の方が説得力あった
気もするんですけどね。まぁ、それが理解(とまではいかなくても、なんとなく好きっていう)
沙智の感性があるからこそ、ミリオンセラーガールになれたとも云えるのかもしれませんけど。
いや、もちろん私も舞城さんは天才だと思っているのだけどね(でも、とても素人向きの作家とは
思えないんで^^;;)。


若干説明描写がくどい部分もありましたが、本好きにとってはかなり楽しめる一冊でした。
書店や出版業界の内情が赤裸々に描かれていてとてもリアル。
なんだかんだでのめり込んで一日くらいで読んじゃいましたからねー。本に纏わる作品って
ほんとにいくら読んでも飽きないですね。似たような小説たくさん読んでるんですけどね。
新人の作品がミリオンセラーへの階段を登って行く過程も、なかなかにワクワクさせられる
展開で面白かったです。作中で出て来る瓜生旬の小説、あらすじ読んだだけでも結構面白そう
だなーと思いました。

ところで、この作者さんって、日本ファンタジーノベル大賞出身の方なんですね。受賞した
作品もちょっと読んでみたくなりました。