ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

薬丸岳/「友罪」/集英社刊

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薬丸岳さんの「友罪」。

「凶悪犯罪を起こした過去を知ってもなお、友達でいられますか?」─ミステリ界の若手旗手である
薬丸岳が、満を持して「少年犯罪のその後」に挑む、魂のエンタテイメント長編(紹介文抜粋)。


最近の作品は少し路線を変えつつあるものが多かったですが、この作品は久しぶりに薬丸さんらしい
テーマを選んで来たな、と思いました。500ページを超える大作ですが、読みやすいのと先の
展開が気になるのとで、あっという間にページが進んでました。
物語は、ジャーナリストの夢が破れて金も住む場所も失くした主人公の増田が、給料は安いが
寮つきの町工場で働く所から始まります。増田はそこで、全く同じ時期に採用され、寮に入ることに
なった鈴木という男と知り合い、次第に親しくなって行きます。鈴木は始めこそ人を寄せ付けない
とっつきにくい男でしたが、増田と出会ったことで次第に寮の他の住人たちとも打ち解けて行き、
明るい面も見せるようになっていました。けれども、ある日増田は、ふとしたきっかけから、
鈴木が、昔世間を震撼させた連続児童殺害事件の犯人ではないかと疑い始めます。鈴木との友情
が深まるにつれ、その事実を確認するべきか苦悩するようになる増田。鈴木は、ある時、増田に
「僕のすべてを知っても友だちでいて欲しい」と告げ、ある告白をしようとしますが、増田は
はぐらかして寝てしまいます。鈴木が益田に告げようとしたこととは――。
と、こんな感じ。友人や恋人だと思って気軽に接していた人物が、もし過去に凄惨な事件を起こした
犯人だったら。増田や、鈴木に仄かな思いを寄せる美代子のように、やっぱり今までと同じような
態度ではいられなくなると思う。まだ、情状酌量の余地があるような犯罪だったら違うかもしれない
けれど、今回鈴木が過去に犯したかもしれない犯罪は、情状酌量の余地など微塵もない、恐るべき
猟奇的な凶悪犯罪。どんなに表面上で改心したように見えても、心の中まではわからないですもの。
でも、かといって、過去に起きた事件の犯罪者をここぞとばかりに見つけだして食い物に
するマスコミたちのやり方にも反発心を覚えたし、彼らに鈴木のことを売ろうとした増田の行為
にも嫌悪感を覚える自分もいました。鈴木が犯罪者かもしれないとわかった時の同僚たちの手の平
返したような態度にもまた。美代子の過去を知った時の彼らの態度にも、吐き気がする程怒りを覚え
ましたけれど。下衆な男って、どこまで行っても下衆なんですね・・・。こういう時に、人間性って
出るんだな、と痛感させられました。唯一、山内の存在だけが救いでした。ただ、彼もまた、重い
枷を負って生きている人間ではあるのですが・・・。犯してしまった罪の償いって、本当に
容易に答えが出ない難しいものだと思います。どんなに償っても、やってしまったことは覆せ
ないし、失くなってしまった命は戻らない。遺族の気持ちが癒える日なんて一生来ない。それでも、
償いの気持ちは見せなければいけない――鈴木と山内の立場はいろんな意味で全く違うとは思う
けれども、償いという部分で苦しんでいるのは同じ。主人公の増田もまた、過去の枷に苦しんで
いる一人なんですね。犯した罪の種類や重さは違っても、自分の過去の過ちに苦しめられている。
増田が鈴木の正体に気づかなければ、二人はずっと友だちでいられたのでしょうか。
その答えは、ラストを読めばわかると思います。増田は、最後に正しいことをしたのだと思いたい。
中学の時には間違ってしまったけれども、今度は間違えなかったと。ただ、そうすることで、彼の
今後が心配ではありますが・・・。これからどうやって生きて行くのでしょう・・・。
いつか、鈴木と再会する日が来るのでしょうか。一生会わない可能性の方が高いと思うけれど、
増田の思いが鈴木に伝わっているといいな、と思いました。

毎度ながら、いろいろと考えさせられる作品でした。本書で取り上げられている猟奇犯罪に
ついては、誰もがあの事件を彷彿とさせられると思う。もし、あの事件の犯人が鈴木のように
なっていたら。そう考えると、どうしたって気持ちは鈴木よりにはなれなくなってしまうけれど。
でも、現在の鈴木の言動を読むにつれ、彼に好意的な気持ちを抱いていく自分がいました。
鈴木が犯罪者かもしれないと知って態度を変えて行く増田に嫌悪を覚える自分も。
そういう意味では、凶悪な犯罪を犯した犯人は改心なんかしてない方がいいのかもしれない。
憎悪の対象でいてくれた方が。改心していい人になっているのに、受け入れられない自分の方が
悪い人間のような気がしてしまいそうで。
今回の事件では、犯人が未成年だったが為に、死刑になることもなく、数年後には普通に社会に
復帰出来てしまった。現実に、増田のような立場に置かれることが、自分にもないとは言い切れない
ということでもありますね・・・。自分の身近な人にも、そういう過去を持つ人間がいるかも
しれない・・・。


久しぶりに薬丸さんらしい読み応えのある長編でした。うんうん、薬丸さんに期待してるのは
こういう作品なんだよねー、と思いながら読んでました(なぜ上から目線^^;)。
最後の増田の手紙に一番ぐっと来たな。いろいろと気になる部分も残っているけれど、
こういうテーマの作品ですっきり終わるって無理なんだと思うし、消化不良な感じはなかった
です。犯罪を犯した人間がその後の人生をどう生きるのか。この作品は、十人いたら、十人の
捉え方があると思う。読んだ人と意見を交わしてみたいですね。