ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮部みゆき「刑事の子」/彩瀬まる「骨を彩る」

どうもどうも。先日の大雨、みなさまは大丈夫でしたか?
関東も土砂降りの雨で、通勤の時悲惨な目に遭いました^^;;
帰りはともかく、行きにそれだと仕事する気なくなりますよねぇ・・・はぁ。


今回は二冊。うち一冊は再読ですが。たまには再読もいいものですね。
・・・っていうか、内容全く覚えてなかったので、ほとんど初読のようなもの
だったんですけどね(苦笑)。


では一冊づつ感想をば。

宮部みゆき「刑事の子」(光文社文庫
図書館の新刊案内のところに出ていて、知らないタイトルだったのでてっきり
新刊かと思って予約したらば、昔に出た『東京下町殺人暮色』がタイトルを
変えて新装版になって出版されたものでした。
当然昔に読んでいるし、おそらく実家には『東京~』の文庫版が本棚に眠っている筈
ですが、さっぱり覚えてないので、いい機会だと思って再読。
初期の宮部作品らしく、聡明な少年が活躍する下町ミステリーで、とても楽しめました。
出たのが相当昔なので、当然時代背景は古臭い感じはあるものの、舞台が下町という
こともあり、それほど違和感なく読めました。まぁ、出て来るカップルをアベックと
表現したりという時代のズレはちょこちょこありましたけれど^^;
主人公はタイトル通り、刑事の息子で13歳の中学生、八木沢順くん。両親が離婚して、
父親と共に、近年ウォーターフロントとして注目を浴びる下町のある町に引っ越して
来ました。気の合う友人も出来て生活に慣れ始めた頃、町内である家にまつわる奇妙な
噂が流れ始めます。その家に入って行く若い女性を見たのに、誰も出てこない、さらに、
家の主が庭で何かを燃やしていた――など。そんな矢先、荒川でバラバラ死体の一部が
発見されます。直後、捜査本部に犯人と見られる人物からの犯行声明が届けられるのです。
そして、順の家にも同じような筆跡の奇妙な手紙が――刑事の子、順は友人と共に調査に
乗り出すことに――という感じ。
町内の噂と、世間を騒がすバラバラ殺人事件がひとつに繋がって行く過程の面白さは
さすが。合間に、戦争の恐ろしさ、悲惨さなども、重くなりすぎず、けれども忘れては
ならない出来事の一つとして挟まれており、それを主人公の順がしっかり受け止めている
ところに好感が持てます。つい先日、広島の被爆者に対して修学旅行中の中学生が暴言を
浴びせたというニュースに胸を痛めていたところだったので、そういう子供たちにも、
こういう作品を読んで何かを感じ取って欲しいな、と思ってしまいました。まぁ、そういう
子たちが読んだとしたって、順と同じように受け取れるとも思わないけれども・・・。

バラバラ殺人を犯した犯人の動機には怒りしか覚えなかったです。あまりにも人間の命を
軽く考え過ぎていると思う。ネタバレになるので詳しく書けないのがもどかしいですが、
模倣犯』の犯人と同じようなタイプでしょうね。こういう考え方が出来ること自体、
モンスターとしか思えません。同じ人間だなんて、思いたくもないです。自分の欲望の
為だけに、何の罪もない人間を簡単に殺してしまえるなんて。その上、正当な罪にも
問われない。やりきれない苦い思いだけが残りました。

家政婦のハナさんと、画家の篠田氏のキャラがとても良かったですね。そうそう、初期の
宮部さんは、老人と少年の交流に心温まるお話が多かったんだけ~と嬉しくなりました。
ハナさんみたいな博識なおばあさんにいろんなことを教えてもらえるのは、順にとって
一生の宝になるでしょうね。順がまたそれを素直に吸収するところが微笑ましかったです。
久しぶりに再読出来てよかったです。やっぱり初期の宮部作品は傑作が多いな~。
また機会があったら他の作品も再読してみよう。



彩瀬まる「骨を彩る」(幻冬舎
実は以前から気になっていた作家さん。書店で見かけて今度読もう、とチェックは
していたものの、家に帰ると書名を忘れて結局予約出来ずに終わってしまい、
なかなか読めずにいました。
ブログ友だちのsinobuさんもお薦めされていたので、本書が出た時新刊案内で見かけて
予約してみました。実はその後に出た作品もちょうど手元に回って来ているところ。
うん、なかなか良かった!読んでて、誰かに似ているなぁと思いながら
読んでいたのだけど。こういうタイプの作品を書かれる作家さんて、割といるような。
窪美澄さんなんかとも近い感じかな、と思ったのだけど、それもそのはず、デビューが
窪さんと同じ文学賞(「女による女のためのR-18文学賞」)からなのですね。
純文学っぽい文章なのだけど、純文学よりもとっつきやすい内容なので、とても
読みやすかったです。実は、一作目はなかなか乗れなくて、こりゃダメかも・・・と
思いかけたんですが、二作目以降、俄然面白くなって印象が変わりました。一作ごとに
主人公は変わるけれども、それぞれに微妙なリンクがある連作短編形式。特に最初と最後の
作品は内容が呼応していて、同じ情景を違う人物が体験することによって、よりその情景の
印象を強くさせる視覚的効果が生まれていて、巧いな、と思いました。表紙がその情景ですね。
どの主人公も内面に何らかの鬱屈を抱えて生きています。どこか病んでいて、読んでいて
胸苦しい気持ちになりました。一作目の津村は、死んだ妻が度々夢に出て来て、
その度に一本づつ指の骨がなくなって行っていることに気付きます。亡くなってからはもう
十年も経つのに、未だに妻の死と向きあえていない様が伺えます。二作目の光恵は、元夫と
離婚してから、千代紙で小物を作ることを止められません。部屋には光恵の作った千代紙の
小物が溢れ返っているのです。彩りのある千代紙だけが、自分の心に色をつけてくれる。
何か心が動揺する出来事があると、光恵は意識せずに千代紙を手にしているのです。心を
落ち着かせる為に。三作目の玲子は、息子がいじめを受けていることを知り、息子を
問い詰めたことで、息子から距離を置かれてしまいます。心に傷を負った玲子は、幼い頃に
離婚して疎遠になり、再会することもなく亡くなった父の墓参りの為に仙台に行くことに。
けれど、実の父の墓参りに行きながら、旅の途中に出会った女子高校生との交流の中で、
ぎくしゃくした関係だった義父の優しさに気付くところが良かったです。
四作目は、その女子高生と何年間もネットで交流している不動産事務所に勤める浩太郎が
主人公。付き合い始めた女の子と上手く行かず、職場では若い女性が賃貸物件のトラブル
を訴えて来る。最終的には明るい結末になってほっとしました。浩太郎が、心から愛せる
女性と出会えて良かったです。
最後の5話目は、一作目の津村の娘、小春が主人公。中学二年になって転校してきた葵は、
食事の前に奇妙なお祈りを捧げる、ちょっと宗教がかった変わり者でした。周りの同級生
たちは、その奇妙な仕草に、葵を遠ざけるようになります。けれども、小春はちょっとした
きっかけで葵と仲良くなりたいと思うようになります。葵の食事時のお祈りを止めさせようと
忠告しても、葵は頑なにそれを拒む。ちょっと普通じゃない女の子との友情。
けれど、何が普通で何が普通じゃないのか、宗教をやってる子が普通じゃないのか、
いろいろ考えさせられました。私の友人にも信仰している特別な宗教を持っている子がいた
ので、当時のことを思い出しながら読みました。宗教の問題は根が深いから、一概に
いい悪いなんて言えないところはあると思うんだけど。でも、先入観なしに見ることが
できないこともわかるし。それでも、小春が葵との友情を貫いたところが嬉しかったです。
最後、葵と一緒に見る景色の美しさが、一作目のラストと重なり、とても感動的でした。
葵の入信している宗教が、一つ前に出て来た宗教団体だとわかる伏線の張り方(ある小道具
を持っていること)なんかも、非常に巧いな、と感心させられました。全部の話が、絶妙に
重なって一つの作品となっているところが秀逸ですね。
まださほど作品を出していない方だと思うのですが、非常に才能を感じました。
情景描写や登場人物の心理描写なんかも巧みで、かなり文章力のある方だな、と思いました。
手元に来ている新作を読むのが楽しみです。