ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

読了本三冊。

大分秋めいて来ましたね~。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
今回は三冊読了。それぞれに全く毛色の違う三冊だったかな。うち二冊は
職場の人間(還暦超えのオッサン)に「表紙見ただけで読む気がしない本だな」
と言われてしまいましたが・・・(ほっとけ)。


では、一冊づつご紹介~。


湊かなえ「山女日記」(幻冬舎
タイトルずばりの、山に登る女性たちの物語集。一章ごとに山の名前がタイトルになっていて、
その山に登る女性がそれぞれの話の主人公になっています。各章の人間関係は微妙に
繋がっていたり、いなかったり。山という括りがあるし、ラスト一章では前に出て来た登場
人物が結構な人数再登場していたりもするので、それなりにまとまりのある短篇集になって
いるのではないでしょうか。
山に登る人々の悲喜こもごも、それぞれにドラマがあってとても面白かったです。
私自身はそんなに山登りに興味がある訳ではないんですが、山岳ミステリ読むのは
結構好きだし、読んだらやっぱり多少は影響を受けて、山に登ってみたくなったりするん
ですよね。山って、不思議な魅力がある題材だと思います。
もちろん、登山をするにはそれなりの装備や準備が必要で、素人が軽い気持ちで
登ると痛い目を見る、というのもよくわかるのですが。今回登場する女性たちは
登山経験者が多かったので、そういう危なっかしい雰囲気はあまりなかったですけどね。
(一話目の主人公と一緒に登る女性はそっち(素人)タイプでしたが^^;)。
それぞれの女性は、それぞれの目的を持って山に登ります。共感出来るタイプも
出来ないタイプもいましたが、心理描写が巧みなので、それぞれの悩みや心情が
とてもリアルに胸に響きました。山に登ることの辛さや楽しさもダイレクトに伝わって
来て、一作で山のいいところも悪いところも、十分に味わえる作品になっていると思います。
私が好きだったのは、お見合いパーティで出会った二人が山に登って心を通わせ合う
火打山富士登山に憧れるデパート勤務の女性が、付き合っている駆け出しの
劇団俳優に連れられて登った山で人生を再スタートさせる金時山、帽子職人の女性が、
かつて恋人と登った山に再登頂し自分を見つめ直す『トンガリロ』辺りかな。
最後の『トンガリロ』は、苦い気持ちで読み終えましたけれどね。元恋人の勝手な態度に
ムカっとしました。いつか彼女が見返してやれる日が来るといいのになぁ。過去の恋を
吹っ切る為に山に登るってのは、ある意味いいのかも。
山岳小説って、どうしたって男性が主人公ってイメージがあるので、こういう女性
視点の山岳小説もいいものだなーと思いました。


東川篤哉「魔法使いと刑事たちの夏」(文藝春秋
魔法使いマリィが活躍するトンデモミステリ第二弾。相変わらずクダラナイ・・・ところが
面白かったです(笑)。東川作品の好きなところは、ミステリ部分のひねりが効いている
ところ。ひねりっていうか、発想っていうか。いや、あり得ないだろー!!ってツッコミ
入れたくなるんだけど、大抵、そう来たかー!っていう驚きがあるんですよね。こんなアホな
ことよく考えるよなーと、ある意味感心しちゃうっていうか(褒めてるのか貶してるのか(笑))。
魔法使いのマリィというある意味反則キャラを持って来ながらも、ミステリ部分では魔法を使わず
勝負してるところがいいですね。
今回一番ビックリしたトリックは、二作目の『魔法使いと死者からの伝言』ですね。最後に
小山田刑事が明かしたダイイングメッセージにビックリ。そんな馬鹿な・・・とは思いました
けど^^;一日で、本当にこういう状態になるんですかねぇ?その辺りのリアリティには
疑問が残るところではありますが・・・でも、もしなるんだったらかなり斬新なアイデアだな、と。
ラストの『魔法使いと傘の問題』の傘のトリックも面白いですね。傘をこういう風に使う人も
いるのか、という所で盲点をつかれたといいますか。でも、降水確率0%、快晴続きの時は単なる
変人になっちゃいそうですけど^^;
小山田刑事の椿木警部に対する変態っぷりにも拍車がかかっていて、ドン引きでした(笑)。
それにしても、今回も椿木警部は何の役にも立っていませんでしたね(苦笑)。彼女のキャラに
いまいちはまれない自分がいるんですが^^;雇い主なのにマリィの言いなりな小山田父の
キャラは大好きです(笑)。
今回もつっこみ所満載でしたが(^^;)、楽しめました。


松崎有理「就職相談員蛇足軒の生活と意見」(角川書店
まったく予備知識のない初めましての作家さんですが、書店で見かけて、表紙とタイトルに
惹かれて予約してみました。タイトルから、就職斡旋の話なんだろう、くらいに思って
借りたんですが、内容はその通りの部分と、全く予想外の部分と両方でした。作風的には、
全く予想外でしたね。なんというか、とにかく摩訶不思議な世界。キャラも出て来る全員
ちょっと変わってるし。全体的なファンタジー味付けが、モリミーっぽいなーと思ったんですが、
案の定、日本ファンタジーノベル大賞に応募していた方だそうで。賞は獲られてないみたいですが。
新人さんなのかと思ったら、もう何作か出していらっしゃるのですね。SF系の短篇賞を獲ってデビュー
された方のようです。納得。
とにかく、へんてこな世界観。でも、私はこういうの嫌いじゃないですね。訥弁の主人公と、
嘘ばかりつく変人の雇い主。主人公の一番の仕事は池の金魚(ランチュウ)の餌やり。その他
雑用いろいろ。こんな楽な仕事で高い時給もらえるんなら、私がやりたいよ!
蛇足軒を名乗る変人の雇い主は、第二百二十五代目、百歩七嘘派免許皆伝を持つ。なんじゃらほい、
って感じですが、つまり、嘘つき名人ってことです。その嘘術の師匠と同時に、なぜか職安の
役人も兼ねているという謎の人物。この職安ってのは、私たちの慣れ親しんだ職業安定所・・・
ではなく、この世界では職業安全保証部局のこと。蛇足軒は、そこの特命相談員で、特殊求職者のみを
担当しています。特殊求職者ってのは、特殊な事情で職業に就けないひとのこと。この特殊な
事情ってのが、また人に言えない事情ばかりでして。不死身の男やら、吸血鬼やら、預言者やら。
そりゃ、就職出来ないよなーって感じの人物ばかり。そうした特殊な事情を抱えた人間に、その
人にふさわしい仕事を斡旋するのが特命相談員の仕事。こうやって説明してても、何だかなーって
感じですけど^^;
最初はちょっととっつきにくい感じもあったんですが、読み進めて行くうちに、なんとなく
この世界にハマっていく自分がいました。
しかし、終盤主人公のシーノがある事情で失踪してからの展開には目が点になりました。いくら
何でも極端すぎるだろ・・・とツッコミ入れたくなりましたよ^^;しかし、シーノが意外に
図太い神経なのには感心しましたけどね。あの性格であのサバイバル生活が出来るとは^^;
最後は収まるところに収まってほっとしました。研究者の道はいいのか、と思わなくもないけど、
蛇足軒のお世話出来るのはシーノくらいだろうしね(苦笑)。なんだかんだで、研究者よりも
合っているのかも。
丸いものなら何でも食べちゃうランチュウが可愛かった(ある意味不気味とも云えるが)。
あと、庭師のトクさんの秘密には、いろいろとビックリさせられました。奥さんとどうやって
知りあったんだ・・・。
ハマる人とそうでない人の差が激しそうな作風だなーとは思いました。私は結構好きでした。
他のも読んでみようかな。


ちなみに、職場の人間に『読む気がしない』、と言われた表紙の本は、東川さんと松崎さんでした^^;
東川さんはともかく(漫画みたいな表紙なんで)、松崎さんの表紙の雰囲気、私は好きだけどなぁ。
このシュールな作風や世界観にはぴったりな感じがしました。