ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

中村航・中田永一「僕は小説が書けない」/森晶麿「かぜまち美術館の謎便り」

どうもどうも。こんばんはです。
今日はお休みでしたが、一日雨だったので、一度も外に出ることなく
引きこもって本読んでました。
というのも、現在いろいろ手違いがあったせいで、一気に図書館本が
手元に来ることになってしまい、最大のピンチを迎えているからです・・・。
あと12日の間に読まなきゃいけない本が6冊と残り100ページほどの本が一冊。
2日で一冊・・・いやー、どう考えても無理ですよね・・・。うち何冊読めるかなぁ。
やっと予約が回って来た本もたくさんあるのだけども。
とにかく、読めるだけは頑張って読もうかと思います・・・(東川さん、畠中さん、
坂木さんは最低でも読みたいところだ)。


まぁ、愚痴はそれくらいにして。今回は二冊です。

では、一冊づつ感想を。


中村航中田永一「僕は小説が書けない」(角川書店
二人の共作による青春小説。どちらも青春小説の名手ですから、楽しみに
していました。まぁ、個人的にはほぼ中田さん目当てで手に取ったのですが^^;
ある理由から家族とうまく行っておらず、学校でも引っ込み思案で人付き合いが
苦手なため、空気のように存在感のない高校一年生の高橋幸太郎が主人公。
この幸太郎くん、生まれながらにして人並み外れて運が悪い。不幸を引き寄せる
『不幸力』という変わった体質を持った少年。一日に三度自転車に轢かれる、
店に行くと万引き犯と間違えられる、レストランでは自分の分だけ料理が来ない、
定期券や財布をかなりの高確率で落とし、その上それらが高確率で排水口に
吸い込まれる――書いてるだけで気の毒になってきます^^;
そんな幸太郎くんですが、以前は、唯一の趣味が小説を書くことでした。けれども、
あることがきっかけで、小説を書くことを辞めてしまいました。
新しく入った高校でも、心の中では文芸部に惹かれながらも、入るつもりはありません
でした。けれども、そんな幸太郎に目をつけた文芸部の佐野七瀬先輩は、人数不足で
廃部寸前の文芸部の人員確保のため、幸太郎に文芸部入部を勧めます。始めは抵抗していた
幸太郎でしたが、紆余曲折あって、結局文芸部入部を決意するのでした。
しかし、入部したはいいが、一度辞めてしまった小説を再び書くことがなかなか
出来ない。そんな中、生徒会に目をつけられた文芸部は、文化祭でいくつかの条件を
満たす部誌を出せなければ文芸部廃止という非道な条件を叩きつけられてしまいます。
その中のひとつに、『新入部員のオリジナル小説を必ず一つ入れること』があり、唯一の
新入部員であった幸太郎は、文芸部存続のため、否が応でも小説を完成させなければ
いけなくなったのでした・・・と、こんな感じのストーリー(あらすじ紹介が長くて
すみません^^;)。

『不幸力』を持つ幸太郎は、いかにも中田さんらしいキャラ造形だなーと思いました。
中村さんのお話はデビクロくんのやつしか読んでないのだけど、あれも割りと根暗系の主人公
のお話だったから、らしいと云えるのかも。人付き合いが苦手で、家族の中でもクラスの中でも
居場所がなくて非モテ系キャラ。でも、そんな幸太郎が、文芸部のみんなと触れ合う
ことで、少しづつ変わって行き、成長していくところが爽やかでしたね。彼らと
出会ったことで、家庭での問題にも向き合う勇気を持てたのだし。人を好きになることや、
失恋の痛みを経験したことも、彼の成長の糧となったのでしょう。そして、小説を書き
上げるという行為への努力も。
まぁ、中田さんにしてはひねりがなくて、割合『普通』な青春小説だったのは、ちょっと
肩透かしなところもあったけれど、さらりと読めて爽やかな作品だったのは間違いないと
思います。小説を書くという『生みの苦しみ』みたいなものは、素人だろうがプロだろうが
同じなのかもしれませんね。
終盤の、幸太郎と父親との会話にぐっときました。いい父親だなぁ。っていうか、心広すぎ。
幸太郎が、こういう人に育てられてよかったなぁと思いました。
共作もいいけれど、次は中田さん個人名義の作品が読みたいかなー。っていうか、できれば
そっちよりも更にあっち名義の方を出して頂きたいところだけれど・・・。


森晶麿「かぜまち美術館の謎便り」
森さん最新作。東京から地方の香瀬町にやってきた佐久間親子と、彼らの隣に住む
保育士のカホリが織りなす、美術ミステリー。
佐久間は、香瀬町にある、<かぜまち美術館>の館長として娘のかえでと共に、この地に
やって来ました。謎めいた彼の言動に心を動かされるカホリ。そんなカホリは、18年前に
兄を失って父親との二人暮らしだったため、隣にやってきた親子の可愛らしい言動に日々
癒やされて行きます。
彼らの前に提示されるのは、18年前にカホリの兄ヒカリが描いた、いくつもの絵の謎。
有名な絵画にヒントを得て描かれたそれらの絵には、ヒカリが込めた想いが隠されて
いたのでした。そして同時に出て来る、18年の兄の死の直前に失踪した郵便局員
<ミツバチ>の行動の秘密も、徐々に明らかにされて行くのです。

なかなか構成が凝っていて、面白く読みました。美術好き人間としては、いろんな
名画とヒカリの描いた絵との対比や解釈なんかも興味深かったです。
あと、とにかく5才児のかえでちゃんの愛らしいこと!佐久間との会話にとってもほのぼの
しちゃいました。毎回、かえでの何気なく言ったひとことが、事件の謎を解く鍵になって
いるところも良かったです。父親に似て、将来すごく頭の切れる女性になりそう。5才の
今だって、幼児とは思えない発想力を持っていたりするのだからね。でも、言葉遣いは
5才児そのままのたどたどしい幼児言葉っていうギャップが、可愛らしかったです。
名前と連動した、風を感じる町の雰囲気も素敵でしたね。

ただ、ミステリーの部分では、なんとなく腑に落ちないものがありました。よく出来て
いるとは思うんですが、いくつかの部分でご都合主義的に感じてしまうというか。
森さんの作品って、結構そういうことが多い気がするなー。私がひねくれて読んでる
だけかもしれないけれど^^;
郵便物から、そんなに脅迫ネタがいくつも上がるもんかなーとかね。せまい町の中での
ことなのに。佐久間が、18年間も親友の死の謎に迫ろうとしなかったのも不自然といえば
不自然な気がするし。彼ほどの鋭い頭脳を持っていれば、もっと早く解決出来た気もする
のよね。まぁ、18年経って美術館に配属されたからこそ、再び謎と向き合う気になった
のでしょうけれど。

いや、十分面白かったんですよ。でも!最後のあのオチはひどい。佐久間のキャラ、
すごく気に入っていただけに、ショックが大きかった。何なの、あの思わせぶりな態度はーー!
って叫びたくなりましたよ・・・。
そこが森さんなりの最後の仕掛けの一つだったのかもしれませんが、個人的には、あの
展開であのオチはないよー!ってガッカリしました。
かえでにとっては良かったのかもしれないですけど・・・むー。
なんだかちょっと、すっきりしない読後感でした。好みの作品だっただけに、最後がほんと
残念だったな。あーあ(嘆息)。