ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

藤谷治「全員少年探偵団」/秋川滝美「居酒屋ぼったくり」

どうもどうも。今日は抜けるような青空が気持ちのよい一日でした。
昨日まですっきりしない天気が続いていたので、久しぶりの日差しが嬉しかった~。
どこのお家も盛大に洗濯物やらお布団やらを出しているようでした。
風は冷たかったけれど、真冬の風ともまた少し違う柔らかさを感じました。
寒い日々もあとすこしでしょうか。庭に植えたいちごが育つのが楽しみ。
今年は白いいちごを植えたんですよー。デパートとかで売ってる高い品種のやつ。
ちゃんと美味しい実がなるといいなぁ(お世話するのは相方だけれど・・・^^;)。


今回も読了本は二冊。二冊までならタイトル入れられるので、これくらいが
ちょうどいいんですよねー。記事にするのも二冊くらいまでが一番楽だしね。

というわけで、一冊づつ感想を。


藤谷治「全員少年探偵団」
ポプラ社から出ている、『みんなの少年探偵団』シリーズ第二弾。言わずと知れた、
乱歩の少年探偵団シリーズへのオマージュ作品。前回読んだのはアンソロジーでしたが、
今回は藤谷さんだけの単独作品。
基本的な設定は元ネタの乱歩作品を下敷きにしていますが、違うのは時代が
現代に移っているということ。昭和っぽい雰囲気で書かれてはいるのですが、
携帯電話やインターネットが出て来たりするので、明らかに現代に近い時代の
出来事なのがわかります。つまり、現代版少年探偵団ですね。もちろん明智小五郎
ニ十面相も登場します。
発端は、小学六年生の吉田元気君のお父さんが最近元気がないことから始まります。
吉田君のお父さんは、宝石をデザインしてアクセサリーを作る宝飾デザイナー。
そのお父さんが、最近、いろんな外国へ行っては、高価でいわくつきの宝石ばかり買い
集めるようになって、その頃から人が変わったように暗い顔をするようになったのです。
そして、お父さんは、そうやって買い集めた高価な宝石を使って、とても高価な首飾りを作りました。
その首飾りを狙って吉田君の家に近づいて来たのが、カクイという謎の紳士。全身グレーの
スーツを来た、不気味な男です。不審な男に付きまとわれて不安に思っていた吉田君は、
同じクラスの友人ノロちゃんと井上君にそのことを相談します。すると、二人は吉田君の
悩みを名探偵の明智先生に相談してみようと言い出します。そう、二人は明智先生の下で
活動する少年探偵団の一員だったのです・・・!

元ネタを尊重しつつも、いろんな設定を現代に直すことで、今の子供たちでも違和感なく
読めるよう工夫したのでしょう。ただ、元ネタを知っている人間が読むと、明智や二十面相と
携帯電話やPCといった現代風の小道具が共存していることにこそ違和感を覚えそうではありますが
・・・。二十面相がCGを使ってDVDを編集したりとか、あり得ない場面が登場します(苦笑)。
話の流れとしては、いかにも少年探偵団ものといった内容で、子供たちの探偵活動にワクワク
しながら読めました。終盤、少年たちだけでなく、事件に関わった人々が総出で事件解決に
協力し、タイトル通り、みんなが少年探偵団として活躍するところが良かったですね。
前作のアンソロジーの中で、藤谷さんが書いた二十面相のコミカルなキャラが気に入って
いたので、今回も同じ二十面相が登場するかと思って楽しみにしていたのですが、二十面相の
キャラは全く違っていて、どちらかというとシリアスよりだったのがちょっと残念でした。
できれば、あのキャラで一冊書いて欲しかったなぁ。
もちろん、こちらはこちらで、楽しく読めたのですけれどもね。
第三弾の小路さんのも予約中なので、そちらも楽しみです。


秋川滝美「居酒屋ぼったくり」
タイトルに惹かれたのと、新聞広告でかなり褒めちぎって宣伝していたので、気になって予約して
みました。かなり評判になっているようで、回って来るのに大分時間がかかりましたが^^;
もともとインターネットで連載が開始された作品のようですね。ネットでじわじわ人気が出て、
単行本化されて一気にブレークしたって感じでしょうか。
でも、評判になるのも頷ける作品でした。とにかく、出て来るお料理が美味しそう!居酒屋料理
なので、それほど敷居が高い感じもしないけれど、家庭料理よりは遥かに美味しそうなお料理の数々。
お腹が空いた時に読むと危険です・・・。
主婦としては、ちょこちょこお料理を美味しく作る技が出て来るのも勉強になりました。
枝豆は枝ごと茹でると甘味のある仕上がりになるとか。まぁ、枝豆家で茹でたことないんですけど^^;
あと、私はゴーヤが苦手なんですが、ゴーヤを苦くならないように料理する方法は試してみたく
なりました。美音さんのレシピだったら、もしかしたら私にもゴーヤが美味しく食べられるかも・・・
と思えました。
舞台は、下町の商店街の一角にある『居酒屋ぼったくり』。若き女店主の美味しい料理とお酒を
目当てに、常連さんがこぞって詰めかける。恐ろしげな店名の由来は、店主の亡き父親の、
『誰でも買えるような酒や、どこの家庭でも出て来る料理で金を取るうちの店は、それだけで
ぼったくりだ』という自嘲の言葉から。でも、実際はぼったくりとは程遠い、採算ほぼ度外視の、
優良会計がこの店の特徴。だから、一度店主の料理を食べた人間は、このお店の虜になって
しまうのです。女店主の美音は、亡くなった両親から引き継いだこの店の味を真摯に継承しつつ、
常に新たな料理を生み出す努力を惜しまない、生真面目だけど負けず嫌いで努力家の女性。
妹の馨と共に、この店を営んでいます。そこにやってくる常連さんたちとの軽妙で温かみのある
会話も魅力のひとつ。下町人情溢れる連作短篇集です。
私はお酒が飲めない体質なので、お酒の方はピンと来なかったのですが、お酒好きの方ならば
より楽しめる作品でしょうね。いろんな銘酒も出て来ますから。美味しいお酒と美味しい料理の
絶妙なコラボレーションは、絶対に人を幸せにするものですよね。
出て来る常連さんたちもみんな素敵な人ばかりなので、読んでいてとても心地がいい。悪い人間が
出て来ないので、安心して読めます。若干ご都合主義に感じないでもないけれど(全員が全員
いい人ばかりなので)、でも、そういう心地よさを楽しむ作品だと思うので、これはこれで
いいのではないかと。小路さんの東京バンドワゴンシリーズみたいな感じかしらね。
明るく社交的な妹とは違って、お店ひとすじで生きて来て、恋愛沙汰とはとんと縁がない店主の
美音さんですが、閉店間際にやって来て常連となったサラリーマンの要とは、今後いい雰囲気に
なりそうな気配。謎の多い要の職業も気になるところですが。気になるのは、『夏休みの過ごし方』
の中で、要の携帯に電話をかけてきたひとの存在ですが・・・母親ですよね、たぶん。甘えた声の
正体は『あの存在』だった訳だしね。ただ、30半ばで母親と同居してるってのもどうなのかな、と
思わなくもないけれど^^;;二人の関係がどうなって行くのか、今後の展開が楽しみです。
二巻も予約中なので、早く回って来ないかなー。
世間では、現代版みをつくし料理帖と言われているそうですが、そちらのシリーズを未だに
読めていない私としては、北森鴻さんの香菜里屋シリーズの方を思い出しました。美味しいお酒と
お料理と、優しくて温かい店主の存在がね。
たまに、地の文で視点が急に変わったりするところがあって、ちょっと読みにくさを感じたり
したこともあったのですが、基本的には軽妙な会話と美味しそうなお料理描写で楽しく読めました。
こんな居酒屋家の近くにあったら通っちゃいたくなるだろうな~。ああ、お腹が空いた。