ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮部みゆき「悲嘆の門 上下」/小路幸也「少年探偵」

どうもこんばんは。大分春めいて来ましたね。
花粉症の方は今が一番ピークで大変でしょうけれど^^;
我が相方も花粉症なので、毎日くしゃみと鼻水と目のかゆみで辛そうです。
花粉症じゃない人でも、ある年突然発症すると言われているので、毎年私も
戦々恐々としているのですが、今年もなんとか大丈夫そう(ほっ)。
個人的には、春は大好きな季節なんですけどね。


今回の読了本は、上下巻+一冊なので、二作。
上下巻の方は結構時間かかりましたねぇ。

では、それぞれに感想を。


宮部みゆき「悲嘆の門 上下」(毎日新聞社
宮部さんの最新作。新聞広告で出版情報を知ったので、慌てて予約したのですが、
思ったよりは早く回って来ました。
広告の説明文では連続殺人事件を扱った現代ミステリーっぽい書き方だったので、
すごく楽しみにしていたのですが、実際読んでみたら、思っていた内容とはかなり
違っていました。
そもそも、この本、ジャンルでいえば、ミステリーというよりは、ファンタジー
確かに、連続猟奇殺人事件という、いかにもミステリーっぽい設定は出て来るの
ですが、その連続殺人の真相はというと、ミステリー的な驚きはほとんどない。
というか、真相はかなり肩透かしな内容。というのも、作品の主旨がそこに
ある訳じゃないからなんですよね。個人的には、ここまでファンタジー色が強い
作品であるならば、連続殺人や指ビル(連続殺人鬼の俗称)といったミステリー的な
要素を入れる必要ってなかったんじゃないかと思ったんですが・・・。

んで、実はですね、この作品、『英雄の書』の続編なんですよね。で、自分でも
ほんとにアホだなぁと思うんですが、私がその事実に気付いたのは、下巻の途中まで
読み進めてからだったという・・・。上巻で主人公・孝太郎の前に友理子ことユーリが
出現した時点で気付いても良さそうなものだったのですが、その時は全く彼女のことを
思い出さなかったんですよね。でも、下巻で彼女が、彼女の兄のことを説明した時に、
あれ、この設定どっかで・・・とやっと記憶に引っかかったという。
まぁ、主人公も変わっているので、純粋な続編っていうよりは、スピンオフ的な作品
って感じですけど。同じ世界観で、違う話を持って来た、というか。
でも、それにしても、自分の記憶力のなさに愕然としました^^;;

内容は、大学生の孝太郎が、異形の存在ガラと出会い、ガラから授かった異形の力を使って、
連続殺人犯を追って行く、というもの(ざっくりしすぎな説明^^;)。こうして簡単に
説明すると、ミステリー色が強そうに感じるんですけどね。
問題なのは、孝太郎が、ガラから授かった力で、連続殺人犯を私的に罰することが出来て
しまうという点。感情の赴くままに、罪を犯したからといって、人間が人間を個人的に裁くことが
許されるのか。これは非情に考えさせられる部分だと思います。個人的には、孝太郎の感情は
理解出来るとはいえ、やっぱり彼がしたことは容認しがたいものがありました。彼がしている
ことも殺人ですし。許しがたい犯罪を犯した殺人犯だからこそ、社会的に断罪されるべきで
あると思いますから。それに、孝太郎が殺人犯を罰した後も、そのことに一片の罪悪感も
覚えないことに空恐ろしいものを感じました。彼がそうやって連続殺人犯を追いかけて行く
につれて、人間的な感情を失って行くのが悲しかったです。

終盤はちょっと駆け足に感じましたが、最後は救いのある終わり方で良かったです。
でも、最後のガラの裏切りには愕然としました。そういう目的があったからだったのか・・・。
でも、ガラは最初から孝太郎に『後悔するぞ』と告げていた訳だから、完全な裏切りとも
言えないのかもしれませんが。それに気づかなかった孝太郎の責任とも云える訳だから。
それと、なぜ最後だけ時間が逆行したのか、そこの謎は残りました。ちょっとご都合主義に
感じなくもなかったです。ガラが気を利かせてそうしてくれたのか。ガラの罪悪感が、
罪滅ぼしの為にそうさせたのか。孝太郎じゃないけど、それだったら、すべての犯罪が
行われる前まで戻してくれたらよかったのに・・・とも思ったけれど。戻せない過去が
あるからこそ、孝太郎に彼がしたことの現実を突きつけられるとも云えるのだしね。でも、
美香のことだけは間に合って良かったです。確かにご都合主義には感じたのだけど、やっぱり
ほっとしました。
あと、結局ガラの鎌の刃に閉じ込められた森永たちはどうなったのでしょうか。おそらく、
そのまま永遠に現代に戻ることはないのでしょうね・・・。

ぐいぐい読まされたことは間違いないのだけれど、やっぱり私は宮部ファンタジーとは
ちょっと相性が悪いみたいで、完全に入り込めたかというと、そうでもなかったと言わざるを
得ない。腑に落ちない設定も結構あって。物語や書物に力がある、という設定は面白かったし
好きだったのだけど・・・。
なんか、宮部作品というよりは、恩田作品を読んでいるような気分になりました。
正直、途中でファンタジー要素が出て来た時、かなりがっかりしたんですよね。宮部さんの
現代ミステリーが読める!と楽しみにしていただけに。
指ビルの真相にもガッカリしたしなぁ。できれば、次はちゃんとした現代版宮部ミステリーが
読みたいなぁ・・・。
もちろん、宮部ファンタジーが好きな方なら非情に楽しめる作品だと思います。ゲーム好きの
宮部さんらしい展開の作品とも云えるでしょうしね。



小路幸也「少年探偵」


※感想がネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい。




ポプラ社江戸川乱歩生誕120周年記念『みんなの少年探偵団』シリーズ。
小路さんにしては、ほのぼの要素がほぼ皆無の、珍しい作品かも。ま、少年探偵団シリーズの
オマージュ作品なのだから当然なのかもしれませんが。
明智探偵と、小林少年の意外な関係にびっくり。こんな設定作っちゃって大丈夫か?と
ちょっと心配になったくらい^^;
私、元ネタをほとんど読んだことがないので、明智探偵に文代さんという奥方がいたことも
実は知らなかったのですが、今回の作品では、その文代さんの設定も大幅に変えられている
ようです。こうなると、ほとんど別作品といってもいいような^^;
二十面相の正体には驚いたなぁ。でも、ちょっと受け入れ難い設定だったなぁ。そもそも、
いくら天才だからって、その年齢であれほどの犯罪のネタを考えて実行出来るものか?^^;
しかも、各方面に協力者を作れるってよっぽど人望ないと無理だと思うんだけど、その
年齢じゃ、それも説得力ない気がするし。しかも、初めての犯罪が○歳って・・・しーん。
恐ろしすぎる^^;
でも、小林少年は、死んで何を訴えたかったんでしょうか。別に、ニ十面相を止めるのに、
死ぬ必要はなかったんじゃ・・・。ちょっとその辺、彼の行動意味がわからなかったな。
あと、彼(小林少年)を探偵として鍛えたホワイト紳士って結局誰だったんでしょうか。
原作に登場する誰かなのかな??
明智探偵と文代さんが別れるきっかけになった事件も謎のままだし。最後、二十面相は
どうやって助かったのか?とか、何か、いろいろ消化不良のまま終わってしまったなーって
感じでした。
タイトルほど、小林少年が活躍した訳でもなかったしなぁ。うーん。長編でやるには、
この企画はちょっと厳しいのかもしれない。一作目の短編形式の方が楽しめた気が
するな。
ま、次の葦原さんで最後らしいので、図書館に入ったら予約するつもりです。