ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

沢村浩輔「夜の床屋」/門井慶喜「注文の多い美術館 美術探偵・神永美有」

どうもこんばんはー。いやー、今日はあったかかったですねぇ。
なんか、一気に春が来た感じ。来週になれば桜も一気に咲くでしょうね。
今年はお花見行けるかなぁ。去年は予定していた日があいにくの雨で、車の中から桜並木を走って
終わってしまったのだけど。みなさまはお花見されますでしょうか。


今回も二冊。
では一冊づつご紹介。


沢村浩輔「夜の床屋」(創元推理文庫
本屋でやたらとプッシュされていたので、予約してみました。
が、最後の解説でわかったのですが、これってミステリ・フロンティアで出てたインディアン・サマー
騒動記』の文庫化だったのですね。その時はなんとなく食指が動かなくてスルーしちゃったんです
よねぇ。それに、その時は対して話題にもなってなかったと思うんですが・・・。文庫化の際に、
こうして話題になってやたらと売れるってパターン、最近やたらと多い気がしますね。書店員さんに
よる仕掛けの賜物と言うべきでしょうか。まぁ、作者にとってはありがたいことでしょうけれど。

んで、本書。 タイトルにもなっている冒頭の『夜の床屋』から始まる、連作短編形式になっています。
主人公佐倉は、友人の高瀬と山登りに行った際、慣れない山道に迷ってしまう。さまよい歩いた末に
二人が辿り着いたのは、人気のない無人駅。仕方なくそこで一夜を明かす決意をした二人だったが、
深夜、トイレに行った高瀬が、駅前の床屋に明かりが点いていると言う。こんな真夜中に店を開ける
のは何故なのか、興味を引かれた高瀬は、佐倉の制止を振りきって店のドアを開けてしまう。すると
そこには、愛想の良い店主がいて・・・というのが大筋。
寂れた商店街の一角で、真夜中に店を開ける床屋の謎、というのはなかなかに魅力的で、文庫化の際に
タイトルを変更したのは大正解だったと思いますね。『インディアン・サマー~』じゃ、何が何やらですし。
ただ、謎の提示自体は魅力的なのですが、その真相はというと、正直強引さを感じずにはいられません
でした。説得力に欠けるというか。意外性は十分あるのですが・・・。それは、表題作以外の作品でも
感じたことなのですが。
ただ、本書が再評価されることになった最大の理由は、エピローグで判明する、全体を通したある仕掛け。
もともと後半三作は繋がった話なのですが、そこに至るまでの冒頭からの三作までもが、一つの線で
繋がり得ることがわかるのです。ただ、はっきりとそうだと断言されている訳ではなく、仄めかされている
くらいの書き方ではあるのですが。
ただまぁ、このエピローグ、人によっては蛇足と感じる人も多いんじゃないだろうか。かくいう私も、
どちらかというとそっちタイプかも・・・。普通だったらこういう仕掛けは大好きな方なのだけれど。
というのも、後半三作のファンタジー要素自体がいまひとつ受け入れられなかったことが大きい。
変にファンタジー要素を入れたことで、前半の作品との統一感がなくなってしまったのも残念だったし、
それを無理矢理最後のエピローグで繋げてしまった為に、感心を通り越して違和感ばかりを
覚えてしまった。確かにばらばらに掲載された作品を一つにまとめるアイデアは秀逸だと思うのだけど、
そこに感心させるだけの説得力が感じられなかったといいますか。ちょっと辛口ですみません。
個人的には、惜しい一作、という感じでした。
でも、作風的には好きなタイプなんで、それなりに面白く読めたことは間違いないです。
最近ようやく二作目が上梓されたそうなので、そちらも読んでみようかな。



門井慶喜「注文の多い美術館 美術探偵・神永美有」(文藝春秋
『天才たちの値段』'に始まる美術探偵神永シリーズ、久しぶりの新作。続編が読めてとても嬉しい。
門井さんの作品、やっぱりこのシリーズが一番好きだなぁ。美術の真贋を、舌で見極める神永の特技が
今回も随所で生かされていますね。本物だと『甘味』を感じ、偽物だと『苦味』を感じる、という珍しい体質。
全体的に、前二作よりもコメディ色が強くなっているように感じたのですが・・・。佐々木さんって、こんな
軽い性格でしたっけ?^^;イヴォンヌこと高野さくらのエキセントリックな性格も、前二作よりも強烈に
なっているような・・・。傍若無人過ぎる彼女の振る舞いには、正直ムカムカしっぱなしでした。佐々木さんも、
いくら教え子だからって、あそこまで振り回されなくても・・・。ペリーの蒸気機関車の件は、いくらなんでも
やりすぎだと思うけど・・・。そこでなぞもっと怒らないんだ!拒否しないんだーー!と叫びたくなりました^^;
この作品では、佐々木さん、お人好しというよりは、ただのアホなんじゃないか・・・と思ってしまいましたよ。
だって、せっかく購入を断るチャンスがあったのに、更に料金上乗せで買わされる羽目に陥るなんて・・・。
まぁ、この件に関しては、最終的には神永さんのおかけで収まるべきところに収まって良かったですけど。
それにしても、今回の佐々木さんは、余計な大金を払わされる羽目になったり、好きな相手に失恋した上に、
余計な辱めを受けることになったりと、踏んだり蹴ったりでしたねぇ(苦笑)。
最後の作品、神永さんが舌で真贋を見極められるようになるきっかけのエピソードが読めたのは
嬉しかったです。
最初は美術に全く興味がなかったのですねぇ。意外。佐々木さんのと出会いが読めたのも
嬉しかったけど、彼に感じた『苦味』の正体にニヤリ。神永さんがあれほどの苦味を感じた
ジョッキを嬉々として買ってしまう佐々木さんのアホさ加減にも笑ってしまいましたけど(苦笑)。
そんな人間が美術系の大学准教授で大丈夫なのかな^^;
今回は、あまり難解な用語が使われていなくて、以前に比べて文章が大分読みやすくなっているように
感じました。門井さんの作品、毎回無駄に難しい用語が使われているところだけがちょっといつも
引っかかっていたので。
美術薀蓄の部分も、わかりやすく説明されているので面白かったです。特に、最後の七五三の絵の解釈は
面白かったな。実際に実在する絵なのかわからないですけど・・・実在するなら観てみたいと思いました。
このシリーズ大好きなので、まだまだ続いて欲しいな。