ミステリ読書録

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北森鴻・浅野里沙子/「天鬼越―蓮丈那智フィールドファイルⅤ―」/新潮社刊

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北森鴻・浅野里沙子さんの「天鬼越―蓮丈那智フィールドファイルⅤ―」。

奇怪な祭祀「鬼哭念仏」に秘められた巧緻なトリック。都市に隠された「記号」の狭間に浮上する
意外な真相。門外不出の超古代史文書に導かれた連続殺人――。氷の美貌と怜悧な頭脳をもつ異端
民俗学者・蓮丈那智が快刀乱麻を断つ。単行本未収録の二編に、幻のプロットに基づく書下し
など新作四編を加えた民俗学ミステリー(紹介文抜粋)。


2010年に急逝され、もう読めないと諦めていた北森作品ですが、北森さんの遺志を継いだ
浅野さんのおかげで、前作の『邪馬台』に続き、また那智先生や三国さんに再会出来ました。
六作の短編が収録されていますが、うち二作は生前北森さんが書かれたもの、うち一作は
北森さんがテレビドラマ用に書かれたプロット作品を浅野さんが小説として焼き直ししたもの、
残りは完全に浅野さんのオリジナル作品ということだそうです。
返却期限の関係で手元に本がもうないので、細かい感想が書けないのですが(すみません^^;)。
基本的には、美貌の民俗学者・蓮丈那智とその助手内藤三國が、民俗学のフィールドワーク
の為に地方に出かけ、調査をする過程でなぜか毎回殺人事件に遭遇してしまうという、
民俗学とミステリーを融合させた作品がほとんどなのですが、ラストの『偽蜃絵』だけは少々
赴きが違っていました。ただ、作品的にはそのラストの一篇が一番好きだったかも。
殺人も起こらないし、民俗学というよりは美術ミステリといった雰囲気の作品なのですが。
作中に出て来る、蛤と美女の絵の謎解きがとても面白かったです。そして、最後で判明する、
この絵を描いた絵師に謎を解いてみせたと思われる人物の正体にあっと言わされました。
ちょっと他の作品とは雰囲気が違うけれども、殺人事件が起こらない、さくっと読める
こういう蓮丈作品もいいな、と思いました。
もちろん、その他の作品もどれも面白かったです。民俗学の謎と、ミステリーの謎、両方
が楽しめるところがこのシリーズの醍醐味。雰囲気が違うといえば、二作目の『奇偶論』
もちょっと変わった作風になっていました。那智先生がほぼ出て来ず、メインが三國
だからっていうのもあるのですが、那智先生に指名され、市民講座の担当になってしまった
三國の、ダメダメ民俗学者っぷりが読んでいて非情に哀れかつ楽しかったです(酷)。
市民講座に集まった生徒たちは、三國の説明もろくに聞かずに、近くの駅で起きた
女性の轢死事故の話で盛り上がってしまうのですが、最後にわかるこの事件の真相は
意外なものでした。でも、事件の謎を解明する為だけに関係者たちが三國の講座に集まった
ってのは、ちょっとご都合主義的に感じなくもなかったですけどね。民俗学的な要素は
ほとんどなかったのもちょっと残念でした。
冒頭の鬼無里、三作目の『祀人形』、四作目の『補堕落』、表題作の『天鬼越』は、
いかにも蓮丈シリーズといった赴きの作品。『鬼無里』は、犯人がどうやって神事の最中で
時間を計っていたのか、という部分の謎解きが面白い。しかし、それって唱えるテンポ
とかで変わるんでないの?とツッコミたくはなったのですが・・・^^;それも必ず一定
になるよう修行するのかもしれないですけれど。
ミステリ的には、表題作の『天鬼越』が一番秀逸だったかな。三匹の蛇が喰い合うウロボロス
の紋の真の意味にはぞぞーっとしました。こんな因習がある村には生まれたくないなぁ・・・。
地方に行くと、いまだにこういう閉鎖的な因習を持った村が残っていたりするものなんで
しょうか・・・。この作品は、ドラマ化の予定があったそうなのですが、結局はお蔵入り
になってしまったそうです。理由は謎だそうなのですが。きっと諸事情あったのでしょうね。
木村多江さんの那智先生は意外とはまっていた記憶があるので、是非観てみたかったなぁ。
三國は誰がやっていたのだったっけ。忘れちゃったな^^;木村さんの『ミ・ク・ニ』の声が
結構色っぽかった覚えが。

違う人間が書いているだけに、文章なんかはちょこちょこ違和感がある部分もあったりしたの
だけど(三國の三人称が作品によって内藤になってり三國になったりとか)、やっぱりこうして
また那智先生たちに会えたことは本当に感激でした。
偉大な作家の偉業を継ぐことは、相当の勇気が要ることだと思う。そういう意味で、公私ともに
パートナーだった浅野さんの勇気と努力は素直に賞賛に値すると思います。読者としても、
心からお礼を言いたいです。蓮丈那智を復活させて下さってありがとうございます、と。
きっと、北森さんも空の上から感謝されているのではないでしょうか。