ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

平山夢明「デブを捨てに」/恩田陸「ブラック・ベルベット」

どうもこんばんは。日が長くなりましたねー。
梅雨が明けたら、あっという間に夏がやって来ちゃいそうです。
今年の夏休みは今流行りの(?)金沢周辺に行こうかな、と考えています。
どこかお薦めスポットをご存知のかた、随時情報を募集しております(笑)。


今回も読了本は二冊。
一冊づつ感想を~。


平山夢明「デブを捨てに」(文藝春秋
久々平山さん。文芸誌のようなペーパーバックのような装幀でページ数も少ないので、
すぐに読み終わっちゃいました。
表題作を含めた四作が収録されています。相変わらずエグい描写がちらほら。
ただ、初期の頃よりは全体的に大人しくなったかな?という印象。
とはいえ、やっぱり鬼畜な話が多いのですけれど。それでも、なぜか不思議と
読後は爽快感を覚えるものが多かったです。うん、やっぱり面白いね、平山さんは。

一作づつ感想を書いておきます。

『いんちき小僧』
お金がなく、食べるものに困った男はコンビニでキャラメル一箱を万引きし、
店員の女に見つかった。しかし、女は男を公園に連れて行き、一発殴ると
キャラメルを放り投げて立ち去った。残された男は、公園に住み着いている
ジュンイチローという男と知り合う。ジュンイチローは、賢い十二歳の息子の
キチザの稼ぎで日々を暮らしていた。どこにも行くあてがない男は、ジュンイチロー
誘われて二人を手伝うことにしたのだが。

まともな生活が出来ない、しょうもない男たちの話ですが、狡猾な少年、キチザの
ラストの悲痛な叫びに胸が痛みました。どんなに達観したようでも、やっぱり子供は
親の愛情が欲しいものなんでしょうね。

『マミーボコボコ』
35年前に妻と共に捨てた娘から会いたいという手紙をもらい、会いに行くので付き合って
欲しいと現場仲間のおっさんに頼まれ、同行することになったおれ。高速バスに乗って
現地に赴くと、おっさんの娘はテレビ番組で定期的に取り上げられる程有名な大家族の
母親となっていた。とんでもない名前を付けた大勢の子供たちは皆素行が悪く、夫も
ろくでなしの穀潰しで、テレビ出演の出演料で家計が成り立っていた。しかし、ある
出来事を契機に、テレビ局の態度が激変して――。

これはもう、完全に痛快!ビッ○ダディを揶揄った作品ですね。なにせ、番組名が
『痛恨!ジャンボぱぴー』(笑)。子供たちの名前がまたぶっとんでる。ちょっと
前に沖縄の大家族を取り上げた番組を観たことがあって、そこに出て来る子供たちの
名前が全部とんでもないDQNネームだったことを思い出したのですが。今回出て来る
子供の名前は更に上を行くすごさ。一部を書き出してみますと、<愛永遠(まとわ)>
<銀朗(うるふ)><杏出泉(あんでるせん)><希助虎(のすとら)>
<聖琉翔(せるしお)><美波瑠璃(びばるり)><美神(びしぬ)>・・・
<心感染(しんかんせん)><可梨実(かなしみ)>
・・・一体、子供の名前を何だと思ってるんでしょうか・・・。おっさんの娘も
その夫も下衆過ぎてドン引き。それでも、最後まで彼らを見捨てられないおっさんが
可哀想でならなかったです。

『顔が不自由で素敵な売女』
ヘルスで出会った女は頭が禿げていた。女の名前はチョチョミだという。
禿げた頭を見ても態度が変わらなかった俺を気に入ったチョチョミは、また
指名して欲しいという。俺にその気はないが、俺が友人のマンキューと手伝っている店に
飲みに来いと誘うと、チョチョミは本当にやって来た。その日から度々チョチョミ
は店に顔を出すようになり、マンキューとも顔見知りになった。
ある日俺たちの店に閉店間際に奇妙な男の客がやって来た。辛気臭い男は、その日
から度々店を訪れ、店に嫌がらせをするようになるのだが、マンキューの態度は
男の振る舞いに異を唱えることもなく、どうやら訳ありのようなのだが――。

タイトルほどにはチョチョミが活躍しないよなーと思いながら読んでいたのですが、
ラストで納得。これはもう、チョチョミバンザイ、の物語ですよね。チョチョミが
したことは倫理的に絶対に褒められることじゃないんですが、正直スカっとしちゃい
ました。

『デブを捨てに』
借金を払えない俺は、借金取りのゴーリーから『腕とデブどちらがいい?』と聞かれ、
腕を折られたくないばかりにデブを選択してしまう。すると、ゴーリーが囲っている女が
産んだデブの娘を持て余しているから、捨ててこいと言う。かくして、俺はゴーリー
デブ娘を連れて、彼女を捨てに行くことになるのだが――。

なんとまぁ、下衆なお話で(苦笑)。主人公が捨てに行くデブ娘のキャラがなかなか
個性的で面白い。言動にイライラさせられるのだけど、ある場面になるとものすごい
頼りになる存在になったりして、不思議と憎めないキャラ。ただ、お腹が空き過ぎた時や、
茶饅頭の大食いで店側がズルして腹を立てた時に○○するシーンは読んでて本当に
気分が悪くなりましたけど・・・うげー^^;;
でも、終盤、彼女がある人物を助ける為に身体を張って踏ん張るシーンには胸が
熱くなりました。最初は鬱陶しくてイライラさせられるキャラだったのに、読んで
いるうちに不思議と彼女に情が湧いて行きました。多分それは主人公も同様だったのじゃ
ないのかな。最後どうなるのかちょっと不安だったのですが、とても清々しい気持ちで
読み終えられました。

胸糞悪いような話ばかりなのに、なぜか読後感が悪くない。これが平山さんの
才能の素晴らしさだと思いますね。
読み終わった後でまだ返却期限があるので、読みたいという相方に回したのですが、
相方もかなり面白く読んでいたようでした。
確実に読者は選ぶでしょうが、間違いなくこういうのが好きな読者にはハマる作品
でしょうね。




恩田陸「ブラック・ベルベット」(双葉社
恩田さん最新作。神原恵弥シリーズ第三弾。といっても、前二作のことをほとんど
覚えていないのですが・・・(おい)。オネェ言葉で話すバイの恵弥のことは
もちろん覚えていますし、気に入っているキャラでもあるのですけれど。

外資系の製薬会社に勤める恵弥。ある日、国立感染症研究所の研究員である友人の多田
から、仕事で近々T共和国の見本市に行く予定の恵弥に、現地である一人の女性を捜して
欲しいと頼まれる。彼女は水質浄化のスペシャリストらしいが、仕事と休暇を兼ねて
渡ったT共和国で失踪したという。現地に飛んだ恵弥は、早々に彼女を見つけるのだが、
恵弥が見ている前で彼女は通り魔にナイフで刺されて殺されてしまう。その一方で
恵弥は、T共和国で焼き鳥屋を営む旧友と再会し、国で発生している奇妙な病気の噂を
耳にした。その病気に罹って死んだ死体は、黒い苔のようなものでびっしりと覆われて
いたのだというのだが――。

いくつもの謎が重なって緊迫した展開になりつつ、トルコの観光地を巡るロードノベル
としても読めるところがとても面白かったです。終盤は予想外にあっさりしていて
若干拍子抜けしたところはあるのですが、恩田ミステリにしては非情~~~に珍しく、
ほぼすべての謎がすっきりと解明されます。だから、恩田作品だと大抵いつもどこかに
残る読後のモヤモヤ感みたいなものは、今回はほとんどなかったです。
終盤、男三人の告白会のシーンは、もっと不穏な空気になるのかと思ったのですが、
それぞれの告白を読んで、いろんな誤解が重なっていたことがわかってすっきり
しました。アンタレスの正体も、意外といえば意外ですが、やっぱりな、と納得
出来るところもあり。彼が邪な人間でなかったことにほっとしました。
いろんな登場人物が出て来るのですが、どの人物も個性的で、キャラが立っていて
混乱することなく読めるところはさすが。話が大きくなりすぎて、一体どう収拾
つけるのかと思っていたのですけれど、実に単純な話だったことがわかって目から
ウロコの思いがしました。
それにしても、黒い苔の伝染病のくだりを読んでいて、今隣国で流行っている病気の
ことと重なって、なんてタイムリーなんだろう、と怖ろしくなりました。パンデミック・・・。
恩田さんって、預言者の素質でもあるんだろうか・・・。ただまぁ、ここで出て来る
病気の真相は、思っていたのとは全く違ったものだったのですけれどね。
とにかく、頭脳派で活動的な恵弥のキャラが個性的なので、彼が出て来るだけで
面白い。友人との軽妙な会話も読んでいて楽しかったです。
全篇に亘って異国情緒たっぷりで、私も恵弥たちと一緒に旅をしている気分になりました。
この作品、映像で観たらもっと楽しいだろうなーと思いました。
このシリーズ、まだまだ続いて欲しいな。