ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鯨統一郎「作家で十年いきのびる方法」/吉田修一「森は知っている」

どうもどうも、台風すごいですね。
みなさま、被害に遭われてませんでしょうか。

さてさて、先ほど芥川賞直木賞の発表がありましたね。
いつもは直木賞の方にしか目がいかないワタクシなのですが、今回は
やっぱり芥川賞の行方が気になっておりました。
そして、なんとなんと、本当に獲ってしまいました、又吉さん!
初ノミネートにして、快挙ですよねぇ。でも、W受賞にしたってところが、
選考委員の苦悩の表れなのかなーと思いました。
単独受賞にすれば、文学界活性化の為とはいえ、やっぱり話題性だけで選んだような
印象になってしまいますからねぇ。
もうひとりの受賞者羽田さんの作品は多分読んだことがない・・・かな。
もしかしたら、アンソロジーとかで短編とかは読んだことがあるかもしれませんが。
とにもかくにも、お二人とも、おめでとうございます。
ちなみに直木賞東山彰良さん。私自身は随分昔に1~2冊読んで以来ご無沙汰の
作家さんなんですが、ちょっと前に相方がはまって読んでたんですよねー。
そちらもおめでとうございました。
『火花』、これでまた売れちゃいますねー。図書館予約もさらにすごくなりそうだ。


前置き長くてすみません^^;
今回も読了本は二冊です。


鯨統一郎「作家で十年いきのびる方法」(光文社)
『努力しないで作家になる方法』の伊留香総一郎が帰ってきました。前作は
17年かけてデビューするまででしたが、今回はそこから10年、いかにして
伊留香氏が作家として生き延びて行くのかが描かれています。
この伊留香氏、もちろんモデルは作者ご本人。巻末に、あくまでもフィクション
と書かれてはいるけれど、中身はほぼノンフィクションに近いのではないのかな。
出版した作品や出て来る他の作家さんたちも実名のまま登場してますし。
ここまで書いたら、もう自叙伝として出してもいいだろうに、そこを敢えて
伊留香氏という自分の分身キャラを作って、小説として楽しめるようにした
ところがサービス精神旺盛な鯨さんらしいのかも。小説はあくまでも読みやすく
楽しいものでないといけない、という考え方の方だから。
作中の『専務』のデータによると、作家がデビューしてから10年後も作家で
い続けられる確率は、全体の6%ほどしかいないのだとか。ちなみに、年間で
作家デビューする数はおよそ400人。
そのデータを聞いた伊留香氏、自分もその6%に入ってやる!と奮起します。
そこから、彼の涙ぐましい作家10年への道が始まるのです・・・。
とにかく、作家でい続ける為、面白い作品を生み出す為の努力が半端ない。
文章も、どう書けば読みやすいかを徹底して追求して、言葉を選んで書いて
いるところに頭が下がりました。確かに、鯨さんの文章読みやすいもんなぁ。
それに、いろんな小説や資料を読んで、常に小説に生かそうと勉強する姿勢も
すごいです。その地道な努力が少しづつ報われて行くところが、読んでいて
私も嬉しかったです。
私も、鯨作品は読んだり読まなかったりではあるんですが、さすがにデビュー作
から知っている作家さんですので、作中に登場する作品は読んでいるものが多く、
これを書いている時はこういう心境だったのかーと執筆当時のことが伺い知れた
のも嬉しかったです(もちろん、読んでないのも多々ありましたが^^;)。

今回も、奥さんがとにかく素敵なんですよねー。17年間も作家デビューを支え
続けて来ただけあって、いざ作家になって伊留香氏が行き詰っても、全く態度を
変えずに、明るく励まして、常に伊留香氏を支えてあげるところがすごい。これほど
内助の功という言葉が相応しい奥さんもいないのじゃないかしら。普通、家計が
あれほど苦しかったらもっと悲壮感が漂ったりするものだと思うんだけど・・・。
まぁ、そこのあたりは、もしかしたら若干実際とは違っていて理想を書いている
ところもあるのかもわからないけれど(実際の奥さんを知らないので・・・^^;)。

あとは、何と言っても、常に伊留香さんを心配し、彼が作家でい続ける為の厳しい
アドバイスをしてあげる専務の存在も大きいですね。その専務のアドバイス
素直に受けて、しっかり地に足をつけて作品に取り組む伊留香さんの素直さにも
好感を持ちましたが。
隠れて、足が悪いのに伊留香氏の本を何冊も書店で購入する父親の姿にも感動
したなぁ。親はいくつになっても子供のことが心配だし、応援しているものなんです
よね。

このシリーズ読むと、デビュー作から鯨さんを追いかけてきてよかったなぁ、と
しみじみ思わされます。こんなに努力の人だったんだなぁ、と。
クダラナイ話ばっかで何も考えないで書いてるのかと思っていたけど(おいw)。
次は、作家20周年を目指して頑張ってください。
そろそろ来る筈です。鯨の時代が・・・!!!
とっても面白かったです。



吉田修一「森は知っている」(幻冬舎
実は、読み終えて記事を書くにあたってネット検索して知ったことなんですが・・・
これって、以前に出た『太陽は動かない』の前日譚に当たる物語だったのですね。
『太陽~』の内容はほとんど覚えておらず、登場人物さえ記憶に残っていない
状態だったので、全く気付きませんでした。それに、主人公が高校生の時の話だし。
正直なところ、『太陽~』はかなり個人的には苦手な作品だったので、思い入れが全く
ない分、主人公の名前にもピンとこなかったのだと思われ・・・。情けないったら^^;
産業スパイ鷹野一彦の、高校時代のお話です。高校の頃からきな臭い仕事を請け負わされ
ていたんですねぇ。最初は、島の高校生の青春物語なのかと思ったのですが、全く
そうではなく、スパイになるべく幼少期から育てられた鷹野が、初めて正式な任務を
させられたのが、南蘭島という島で生活していた高校の時。他の、島の同級生たちが、
修学旅行で東京に行き楽しんでいる間に、鷹野は親戚と会うと嘘をついてスパイ組織の
末端として諜報活動しなければならない事実に、暗澹たる気持ちになりました。
彼が組織の一員として生きなければならなくなった理由にも。自分の『太陽~』の
記事を読んで少し思い出したのですが、彼の幼児期の凄惨な経験には、胸が痛みました。
子供の頃にこんな悲惨な出来事があったら、そりゃートラウマになりますよね。
主人公が全く同じような子供時代を過ごした話が確か薬丸さんだったか誰だったかの話にも
ありましたけれど・・・。どうやら、実際にあった事件が元になっているようです。
こういう話を読む度に、子供は親を選べない、と痛感させられます。どうしてこういう
母親が存在するのかな・・・。子供を作るということに対する責任感がなさすぎる。
子供を生かすも殺すも親なのだ、という事実を真っ向からつきつけられた気分でした。
『太陽~』は最初から最後までいまいち乗り切れない作品だったのですが、本書は
高校生の鷹野のダークな青春物語として読める分、とても読みやすいし、入りやすかった
です。ほんのちょっぴり切ない恋愛模様なんかも絡んで来ましたし、一部は友情物語としても
読めましたしね。最後は、鷹野に対する風間の強い思いに胸を打たれました。
鷹野は、自分はひとりだと思い込んでいるけれど、彼を想っている人間は思いの外
多い。南蘭島の知子ばあちゃんもそうだし、軽井沢で一緒に幼少期を過ごした富美子
さんも鷹野のことをいつも案じて想っているし。そのことに気づけば、もっと楽に
生きられるだろうにな、と思いました。
終盤は大分駆け足だった感じもしましたが、過酷な宿命を背負った鷹野少年の運命が
どうなるのか、ハラハラドキドキしながら一気読みでした。鷹野は結局、スパイ
としての運命を受け入れたのですよね。風間のこともあるし、何より、彼は
そういう生き方しかできないからなのでしょう。
出だしは鷹野や柳の身の上がよくわからず、なかなか乗れないところもあったのですが、
途中からはスピードに乗ってぐいぐい行けました。
柳広司さんのD機関とはまた全然違ったスパイ小説ですね。でも、鷹野がフランスで
スパイとしての修行を積む下りなんかは、通じるものがあるかな、と思いました。
やっぱり、スパイとしてはいろんな経験を積んで、あらゆる上流のものも知って
おく必要があるんでしょうね。いついかなる場面でも対応出来るようにね。
柳と寛太はどうなってしまうのかな。そこがちょっと気になりますが(『太陽~』に
二人の名前出て来たのかな??)。
鷹野のこの過去の話を知った上で、『太陽~』を読むと、また違った読み方が
出来るかもしれないなーと思いました(あの時はダメだったけど・・・)。
まぁ、再読はしないでしょうけどね(おい^^;)。