ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

読了本三冊。

どうもお暑うございます。
一言メッセージで書いたのですが、先日いつも通り読了本記事を更新しようと
したらネットに全く繋がらなくなりまして。
どうやら無線LANルーターがぶっ壊れてしまったようで、うんともすんとも
言わず。いやー、参りました。
結局、翌日相方が新しいルーターを買って来てくれて、設定して無事繋がるように
なったのですが・・・今度はPCの方が問題続出。すんなり立ち上がらず、
立ち上がったら立ち上がったで、新しいルーターと相性が悪いのか、再び
ネットに繋がらなくなったり・・・もう、なんなんだー(怒)って感じです・・・。
まぁ、もともと調子悪くって新しい機種を買ったにも関わらず、こっち方が
使い勝手が良いものだから(TBできるし)、騙し騙し使っていたのが悪かった
のですけどもね・・・さすがに寿命かなぁ(涙)。いつまでこの子で記事更新
出来るかしら。はぁ。


そんな訳で現在前回の記事から読了した本は5冊程あるのですが・・・
とりあえず今回は三冊程にしておきます^^;


では、一冊づつ感想を。

薬丸岳アノニマス・コール」(角川書店
薬丸さんの最新長編。元警察官の朝倉が、誘拐された娘を助ける為に奔走する
誘拐サスペンス。
主人公の朝倉は、三年前のある事件をきっかけに警察を辞め、妻と離婚し、
娘とも会えなくなってしまう。生活は工場の派遣仕事で食いつなぎ、
自堕落な日々を送っている。
三年前、朝倉が調べていたのは、保育園の園児の列に車が突っ込み、5人の園児と
二人の保育士が死亡した事件だった。車を運転していた男は、薬物を摂取したことで
錯乱状態になっていたと警察は発表していたが、朝倉が独自で入手した情報では、
犯人が薬物をやっていた形跡はないというものだった。そこから、朝倉はこの事件には
裏があると気付き、秘かに単独で捜査していた。すると、突然全く見に覚えのない
罪で起訴され、警察を追われることになってしまう。警察には公に出来ない裏事情が
あることを知った朝倉は、妻子の身の危険を案じ、自ら二人の前から姿を消した。
そんな朝倉はある日、携帯に娘の梓からと思われる電話を受ける。不審に思った彼は、
すぐに元妻の奈緒美の携帯に連絡するが、邪険に扱われてしまう。けれども、友だちと
ディズニーランドに行っている筈の梓は、ディズニーランドには行っていなかったことが
わかる。すると、その後奈緒美のもとに、娘の梓を誘拐したという電話がかかって来る。
返して欲しければ一千万を用意しろというのだ。犯人は、奈緒美の父であり、朝倉の元上司
である正隆が、家を売ってある程度まとまったお金を所持していることを知っていた。
朝倉は、奈緒美に警察には連絡せず、正隆に金を用意してもらうよう頼む。朝倉は、
警察は信用するなと言う。とりあえず朝倉の言う通り、警察には連絡せずに犯人の要求通り
身代金の受け渡しに向かう奈緒美だったが――。

犯人は予想外の人物ではありましたが、この手の誘拐ものは割合読み尽くした感が
あり、さほど目新しさは感じなかったです。
犯人とのやり取りは緊迫感もあってぐいぐい読まされたのは間違いないけれど、
ちょっと状況がわかりにくいところもあったかな。
正隆は、何らかの形で事件に関わっているのではと踏んでいたので、ラストは
ほぼ予想通りの展開と云えたかも。
梓が無事帰って来て良かったのと、夫婦の間の誤解が解け、家族が元通りになりそうな
兆しがあったので救われた気持ちになりました。
あと、朝倉と、嫌々ながらも手を組む岸谷や戸田との関係は良かったですね。
読ませるリーダビリティは相変わらずでしたが、正直薬丸さんには、もっと司法の問題に
深く切り込む主題を選んで欲しいと思ってしまいました。
社会派系のミステリー作家って、一度はこういう誘拐ネタをやりたいものなんですかねぇ。
なんか、大抵が一度は誘拐ネタに手を出すような・・・。貫井さんとか東野さんとか・・・。


島田荘司御手洗潔進々堂珈琲」(新潮文庫
久々の御手洗さんシリーズ。数年前全制覇を狙って読み始めましたが、作品数が多過ぎて
全く追いつかず敢え無く断念。でも、いつかまたチャレンジ再開するつもりです。
本書は、御手洗さんが学生時代の前日譚だというので、これならいきなり読んでも大丈夫
かな~、久しぶりに御手洗シリーズ読みたいなーと思ったので借りてみた次第。短篇集なら
読みやすそうだしね。どうやら、文庫化の際、タイトルを変えて出版されたもののようです。
単行本版は進々堂世界一周 追憶のカシュガルだそうです。

が、しかーし、確かに前日譚ではあったのだけれど、残念だったのは、どの作品も
ほとんどミステリー要素がなかったこと。私がこのシリーズに一番期待しているのは、
アクロバティックな本格トリックなので・・・御手洗さんに久しぶりに会えたのは
嬉しかったのですが、ちょっと期待していた作品とは違っていました。
読み物としては、十分どれも面白かったのですけれどね。

進々堂ブレンド 1974』
京大そばの珈琲店進々堂で知り合った京大生の御手洗さんと話すのが楽しみな
予備校生のサトル。御手洗さんは、世界一周の放浪の旅から帰って来たばかりで、
彼が旅先で経験した出来事を語ってくれる度、サトルは話に夢中になった。
ある日、風邪気味だったサトルに、御手洗さんがアメリカ製の喉スプレーを喉に
吹きかけてくれた。すると、その味でサトルはある記憶を呼び覚ました・・・。

サトルの甘酸っぱくも切ない恋物語に胸がキュンキュンしました(年甲斐もなく^^;)。
しかし、喉スプレーとサトルが飲んだアレが同じ味だとは。まぁ、私はどっちも
経験したことのない味ではあるけれど^^;懐かしい味で記憶がよみがえるって、
ありますよね。失われた時を求めてのアレですね。

『シェフィールドの奇跡』
御手洗さんがイギリスのシェフィールドに行った時の体験談。ギャリーという障害者
の青年が、父親と共に重量挙げの選手になり、奇跡の力で人を助ける話。
障害者ゆえに能力があってもコーチについてくれる人がおらず、苦労するエピソードは
胸が痛かったです。その町一番の重量挙げのコーチであるレオンにもまた断られるのですが、
レオンがシャッターに挟まれた時、ギャリーが渾身の力でシャッターを持ち上げ、
レオンを助けた場面は、一矢報いたような気持ちになってすかっとしました。

『戻り橋と悲願花』
サトルと御手洗さんが京都の一条戻り橋を通りかかった時、欄干の石の陰に、牛乳瓶に
曼珠沙華を二輪指して置いてあった。
それを見て、御手洗さんが朝鮮から日本に渡って来たある姉弟の話をしてくれた。
姉のソニョンは栄誉ある女子挺身隊員として志願して来日したが、内実は酷いものだった。
二人は、富号作戦という、風船爆弾を作る工場で毎日働かされた。給金はなく、食事も
最低限、威圧的な指導官からのいじめ・迫害。挙句、暴行され、身も心もボロボロにされた。
ある日、弟のビョンホンが作業中に大怪我を負ってしまい、医師の進言で埼玉の高麗川
(こまがわ)というところの縁戚を頼って、療養させてもらうことに。そこには、母親の
いとこ夫婦がおり、優しくビョンホンを歓迎してくれた。また、そこは曼珠沙華の里で、
季節になると、見事な曼珠沙華の群生が見れるのだという。曼珠沙華は、故郷朝鮮の花なのだ。
怪我が治り、工場に戻ることになったビョンホンに、夫妻は曼珠沙華の球根を託してくれた。
それを植えれば、どこでも故郷の朝鮮になるのだと。しかし、曼珠沙華の球根には毒があった。
ビョンホンは、その毒を使って姉を強姦していた指導官のササゲを殺そうと思った。
しかし、ササゲになぜか計画がばれてしまう。しかし、持っていた筈の球根はなぜか
見つからず、暴行の末の身体検査の後、ビョンホンは解放された。

ソニョンとビョンホン姉弟に対する日本人の言動には胸が痛くなりました。戦争中は、
どこの国でも、他国の人間に対する迫害があったのでしょうけれど・・・。
ビョンホンが失くした球根がああいう形で他国に根を広げた、という事実に胸を打たれ
ました。実際そんなことがあり得るのかな?という疑問は覚えましたけれど・・・。

『追憶のカシュガル
嵐山に向かう電車の中で桜を見ていたサトルと御手洗さん。すると、御手洗さんが、
シルクロードカシュガルという街で出会ったナンというパンを売る少年とそのパンを
もらって生活している浮浪者の老人と親しくなった話をしてくれた。
老人は流暢な英語を話し、人格も高そうだし教養もありそうなのに、なぜか街中の人から
無視されていた。身体の具合が悪そうなのに、誰も助けたりしない。その老人と御手洗さんが
一緒にいると、なぜか回りから人がいなくなるのだ。その理由は、老人の過去の出来事に
関係していた――。

ソメイヨシノが接ぎ木でしか増えない、というのは知っていたのですが、そのソメイヨシノ
が、たった一本の狂い咲きの桜からたまたま出来た、というのは知らなかったです。
しかも一人の人が作ったものだったとは。今、日本中にあふれている桜が、すべてその
一本のソメイヨシノのコピーというのだから驚きです。
御手洗さんが出会った老人が若い頃にしたことは、確かに許されることではないと
思う。自分の不用意な密告が、一人の日本人の命を奪った訳だから。でも、ずっと
罪の意識に苛まれて、町中の人から蔑まれて生きて来た人生、最後くらい、日本の
桜を見せてあげたかったな、と悲しくなりました。


島田さんが訴えたいことがいろいろあるのはよくわかるのですが、やっぱり私は
このシリーズはあっと言わせる本格トリックで楽しませて欲しいなぁと思いました。



西澤保彦「回想のぬいぐるみ警部」(東京創元社
ぬいぐるみ警部シリーズ第二弾。超絶美形で仕事も出来るが、実は無類のぬいぐるみ好き
という、変わった趣味を持つ音無警部が活躍する連作短編ミステリ集。
5編が収められています。
今回、音無警部の活躍があんまりなかったような・・・。それも、一作目で登場した
女子高生の美月が再登場したせいでしょうか。あとがきで西澤さんご自身も、この
美月のキャラを出すとひっちゃかめっちゃかにされてしまう、みたいなことを書かれて
いますし。
あとは、やっぱり音無警部の部下の則竹佐智枝刑事の登場回数が多いせいか、そっちの
方が主役っぽく感じるからかも。
殺人事件が起きているのに、ぬいぐるみが登場することで、妙に和むところが可笑しい
ですね。
いつも通り、意外な発着点から意外な終着点に向かうミステリとしての面白さも十分
味わえました。特に印象に残ったのは、江角刑事のおぼろげな記憶から、過去の殺人
事件の意外な真相に辿り着く『あの日、嵐でなければ』かな。真相の救いのなさと、
犯人の強かさにゲンナリしましたが。
ラストの『離背という名の家畜』も面白かった。佐智枝の元同級生の理恵の産みの母
が殺害された事件。理恵の母がパンストを借りに行こうとした場所も意外だったし、
犯人と母親との繋がりにも驚かされました。完成度でいえば、これが一番かなぁ。
設定はゆるいですが、ミステリとしてはきっちり読ませてくれるところは、さすが
西澤さんですね。この間の森奈津子シリーズはファン意外の人には薦められないけど(^^;)、
こちらはミステリ好きなら誰もが楽しめる作品集になっているのではないでしょうか。
面白かったです。