ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

下村敦史「生還者」/高田崇史「七夕の雨闇-毒草師-」

どうもこんばんは。シルバーウィーク始まりましたね。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
台風が心配でしたが、どうやらそれてくれるようですね。
今日は久しぶりのいいお天気で、それだけでなんだか嬉しくなっちゃいました。
やっぱり、おひさまの力って偉大だぁ~~~。


読了本は二冊。
では、1冊づつご紹介~。


下村敦史「生還者」(講談社
乱歩賞受賞後、早くも二作目が出ました(つまり三作目)。今回は山岳ミステリ。
しかも雪山。それも、大倉(崇裕)さんばりの、本格的な雪山ミステリでした。
突然、ヒマラヤのカンチェンジュンガの雪崩事故で兄が命を落としたとの報を受けた
増田直志。兄は、4年前に山で恋人を亡くしてから登山をやめていた筈だった。
遺品を受け取ると、兄のザイルには、何者かによる切断の痕跡が残っていた。
兄は何者かに殺されたのか―?更に、兄と同じ事故で、奇跡の生還を遂げた二人の
男が相次いで帰還するが、二人がまるで正反対の証言をし、国内は騒然となる。
どちらかが嘘をついている――増田は、兄の死の真相を探り始めるのだが――。

 

前二作も良かったけれど、こちらもなかなかに引き込まれるお話でした。安定した
筆力をお持ちであることは間違いなさそうです。
カンチェンジュンガという山の名前は初めて耳にしましたが、登山家の間では有名な
山なのでしょうね。最初何度読んでも名前が覚えられず、多分実際口に出したら
間違いなく舌を噛みそうだと思ったりしましたが(笑)。
登山の描写がとてもリアルだったので著者もそういう趣味がおありなのかと思ったら、
著者メッセージでは登山経験がないとのお言葉が。それでこれほどの真に迫る雪山
描写が出来るのだから大したものだと思いました。大分取材されたのでしょうねぇ。

 

奇跡的にカンチェンジュンガの山から生還した二人の男の食い違う証言。それぞれの
男の言葉を聞くと、それぞれが正しいことを言っているように感じるので、誰が嘘つきで悪人なのか、終盤まで全くわからなかったです。
冒頭の雪山のシーンに出てくる男二人が誰と誰で、どちらがどちらなのか、わかった」時には、そうだったのかー!と目からウロコの思いがしました。そっちだったのか
ぁ・・・!とも。最初に生還した高瀬が、次々と怪しい言動をするので、完全に
増田同様翻弄されてしまいました。

 

兄の死の真相を探る傍らで、二人の女性の間で揺れ動く増田の心理にもイラっとさせ
られました。山のことは何も知らないけれど、すべてを優しく受け入れてくれる
看護師の葉子と、気は強いけれど、山登りの知識に長けていて、一緒に山の良さを
分かり合える記者の恵利奈。
そりゃー、増田にとっては恵利奈は魅力的だろうけどさー、それじゃあんなに献身的な葉子が可哀想じゃないの!と、何度もムカっとしました。
最終的にどちらを選ぶのか、その点については明言をさけますが。最後の結婚式の
シーンには、かなりの意表をつかれました。ええー、その二人が結婚するの!?
みたいな(笑)。完全に騙されたなぁ。でも、騙されて爽快、な終わり方でした
けども。

 

ただ、肝心の雪山の方の真相は、ある人物の裏の顔を知ってかなり幻滅しました。
ここまで陰惨な真相だとは思わなかったので・・・これも、極限状態だからこそ
なのかもしれませんが、それまで描かれて来た人物像を根底から覆される真相
だったので、ちょっとショックでした。
いや、それが本当の真実かどうかも、増田の想像の域を超えるものではないのです
が・・・。
その人物の山に対する思いとか真摯な姿を鑑みると、ちょっと信じられない真相でも
ありました。意外性、という意味では十分なので、ミステリーとしては成功なのだ
とは思いますけどね。

 

とにかく、新たな雪山ミステリーの傑作と云って差し支えはないと思います。
面白かった。
次はどんな作品を書かれるのか、とても楽しみです。


高田崇史「七夕の雨闇-毒草師-」(新潮社)
久しぶりの毒草師シリーズ!シリーズ第四弾。
あー、やっぱり、このシリーズは面白い。初期のQEDシリーズみたいに、ミステリー
と歴史薀蓄が程よくミックスされていて楽しめました。ただ、若干ミステリーの方が
残念なところも似てますが(笑)。
今回のテーマは七夕。七夕に関する薀蓄もたくさん入ってましたが、知らないことも
いっぱいあって、とても勉強になりました。織姫と彦星の正体がアレとアレとはねぇ。全く、よくもまぁ、こういうことが考えつくものです。っていうか、こういう説は
実際にあるものなんでしょうか?完全に高田さんのオリジナル??それにしては、
整合性があって説得力があるからついつい納得しちゃう。
そして、必ず出てくる産鉄民。今回も安心のご登場でした(笑)。とにかく、
日本の歴史の中には、かならず製鉄関係の事柄が関係しているのがよくわかる。
どれだけ日本の歴史に重要な要素なのやら。
御名形の説明を聞くと、今まで考えもしなかった七夕の真実が浮き上がってくるので、
驚きの連続でした。相変わらず何考えてるのかよくわからないキャラですが、
西田君とのやり取りが可笑しくて、何度もくすりとしてしまいました。多分なんだ
かんだ言いつつ、御名形って、西田君のことが気に入っているのじゃないかなぁ。
どうも、彼をおちょくって楽しんでいるところがなきにしもあらずのような
(気のせいか?笑)。西田君のお人好しっぷりにも拍車がかかっていて、御名形や
新キャラの響子さんに振り回されるところがちょっと気の毒になりつつ面白かった
です(酷)。ただ、そんな人の悪い御名形ですが、タタルさんにはやっぱりライバル
心があるようで。
タタルさんを知る刑事が彼のことを仄めかすと、苦々しい表情になるところが新鮮
でした(笑)。あと、やっぱり御名形って、奈々ちゃんのことを憎からず思って
いるのかな?と思える描写もちらほら。本編でもそうじゃないかな?とは思って
いたけれど、やっぱり気になる存在だったのね。今回、七夕の薀蓄を読んでいて、
私自身も奈々ちゃんの名前を思い出したのだけど、ズバリ、御名形も彼女のことを
思い出すシーンがあって、ニヤリ。そういえば、奈々ちゃんの名前って、七夕その
ものなんですねぇ。棚旗奈々。奈々ちゃんの先祖にもいろいろ謂れがあるのかも?
ラストではその奈々ちゃんがちらっと登場。できれば、西田君との会話とか、聞いて
みたかったなぁ。代理って、多分タタルさんのですよねー。実はQEDの最終巻だけ
未だに読んでないので(確か家にはある筈・・・)、ラストがどうなったか知らない
のだけれど、結婚はしていないのかな?
こっちの作品で、タタルさんたちと御名形が再会することはあるのかなぁ。
あって欲しいなぁ。
タタルさんと御名形の薀蓄対決、また読みたいです(笑)。多分、今回の七夕話
だって、タタルさんが相手だったら、一を言えば十を知る状態になっただろうしね。
肝心のミステリー部分の真相は、毒の種類こそ面白かったものの、それ以外の部分は
ちょっと肩透かしだったかなぁ。ま、これはいつものことなので、大して問題じゃ
ないです(笑)。
今回は、歴史薀蓄の方で楽しませてもらえたので、十分満足。
QEDが終わってしまった今、高田さんらしさが一番味わえるシリーズじゃないで
しょうか。
これからも続けて欲しいです。