ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮下奈都「羊と鋼の森」/友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」

どうもこんばんは。
寒くなって来ましたねー。いよいよ冬本番でしょうか。あー、朝起きるの憂鬱。

各種のランキング本も出揃ったようですね。このミスだけは立ち読みしましたが、
他のは書店で見かけなかったので確認出来ず。本ミスのランキングとかどうだったの
かなぁ。一位はやっぱり米澤さんだったのでしょうか。
このミスは上位10作中既読は半分くらいでしたね。20位まで広げてもさほど
読めてなかったです。惜しむらくは、2位の『戦場のコックさん』。借りて一話目
までは読んでいたのだけれど、どうも戦場描写が肌に合わず、予約本もたくさん抱えていた
時だったので、他の本を優先する為挫折して返してしまったのですよねぇ。頑張って読んで
おけば良かったなぁ。
そろそろ自分の方の年末ランキングも考え始めねば。


読了本は二冊です。


宮下奈都「羊と鋼の森」(文藝春秋
いやー、これは良かった。個人的には好みど真ん中でした。もともと宮下さんの
文章や世界観はとても好きなのだけれど、この作品でもっと好きになってしまった。
主人公はピアノの新米調律師。憧れの調律師を追って同じ楽器店に就職した
戸村は、未熟な技術ゆえに失敗ばかり。けれども、調律に対するひたむきな
思いだけは誰にも負けず、先輩調律師の技術や姿勢を必死で学び取ろうとする。
出来ないからといってくさるのでも卑屈になるのでもなく、ただ自らの未熟を
恥じて反省し、新しく学び取ろうと努力を続ける戸村青年の素直さ、真っ直ぐさ
にとても心を打たれました。彼の静かな情熱やひたむきさにとても好感が持てました。
こういう素直な性格なら、いろんなことを吸収出来るだろうなと思いましたし。
板鳥さんという素晴らしい調律師が近くにいるからこそ、自らの至らなさが
歯がゆくなって落ち込むこともあるだろうけれど、逆にそういう素晴らしい技術が
目の当たりに出来る環境にいるって、とても幸せなことだと思う。高い目標を持つ
というのは、何かを上達させるにはとても大事なことだと思うから。
先輩調律師の柳さんや秋野さんといった脇役キャラの存在も光ってました。もちろん、
一番は板鳥さんですが。板鳥さんメインのお話も読んでみたいくらい、素敵なキャラ
でしたねー。秋野さんは、最初戸村君に対して嫌味な言動ばかりであまり好感持てなかった
のだけど、元ピアニストだけに、知識や技術力は確かだし、根はいい人みたいだし、戸村君の
成長にとっては、ありがたい存在の一人なのは間違いないでしょうね。
戸村君は周りの人物にも恵まれていますよね。山育ちで世間知らずなところもありそう
だけれど、それだけにとても素直な性格で、いろんな人から可愛がられるタイプじゃないで
しょうか。 
あと、良かったのが、調律のお得意先である、ふたごの佐倉姉妹と戸村君との関係。
ふたごのどちらも好感持てる性格だったけれど、特に和音のピアノに対する戸村君の
熱い想いは、完全に恋愛感情のそれだと思いました。和音のピアノの調律は、他の
誰にも任せたくない、という戸村君の一途な想いに、きゅんきゅんしちゃいました(笑)。
でも、将来的に、競う相手が妹の由仁になったら、なかなか勝つのは難しそうですが(苦笑)。
その頃に二人の仲が進展していればまた違うでしょうけども。

ピアノの音はもともと大好きだし、ピアノを扱った作品も大好きなのだけれど、調律を
メインに扱った作品は多分初めて読んだので、とても新鮮でした。
ピアノの調律が、こんなに奥が深いものだとは驚きました。本当に耳が良くないと
出来ない仕事なんでしょうね。窓を開けるか開けないかとか、そういうその場の環境の
違いでも調律の仕方が変わって来るなんて。そこまで微妙で繊細なものなんですね。
改めて、すごい仕事だな、と思わされました。

調律の世界を、森や羊といったモチーフで表現する美しい描写力にも感心させられました。
本当に文章が美しくて、行間からピアノの音がこぼれ出して来るかのような気持ちに
させられました。
終盤の、柳さんの結婚式でのシーンがとっても臨場感があって良かったですね。
和音のピアノ、とても聴いてみたくなりました。
残念だったのは、由仁がピアノを弾けなくなってしまったことですが・・・結局、
原因もわからず仕舞いだし。そういう病気(?)があるっていうのがちょっと納得
出来なかったです。でも、彼女は彼女で、新たな夢が出来てほっとしましたけどね。

まぁ、とにかく、個人的にはとっても心を打たれるストーリーでしたし、
ピアノの調律という未知の世界への扉を開かせてくれるような、とても素敵な作品でした。
オススメです。


友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」(宝島社文庫
特に予備知識があった訳ではないのですが、図書館の新刊案内でタイトルを見かけて、面白そう
だったので借りてみました。美味しそうなお料理とミステリーの組み合わせがとても好きで、
ついついこの手の作品には手が出てしまうんですよね(笑)。
借りてみたら、苦手なこのミス系だったと気づいたのですが^^;
でもでも、これはかなり好みの作品でした。ミステリ的には日常の謎系なのでそれほど
大きい事件が起きる訳ではないのですが、ラスト一編は構成も非常に考えられているし、
驚かされる仕掛けもあって、なかなかに読ませる作品に仕上がっていると思いました。
それに何より、出て来るスープがどれもとっても美味しそう!朝からこんな美味しいスープが
飲めるなら、一日頑張れそうです。身近に本当にこういうお店あったらいいなーと思わせて
くれました。
私も一時期スープに凝っていろいろ作った時期があったけど、最近は簡単なのしか
作ってないなぁ。ポタージュ系のスープなんかは、ミキサー使うのが面倒で時間がないと
出来ないし。意外と手間がかかるんですよね、スープって。クラムチャウダーとかも、
あさり茹でて殻から全部外さないといけないし、オニオングラタンスープは、たまねぎ
飴色にするのに根気がいるし。でも、一手間かけるとぐっと美味しくなるし、あったかい
スープを飲むと、心もほっこりしますよね。冬は特にね。野菜いっぱい入ってれば、
栄養もたくさんとれますしね。
あったかいスープがとっても飲みたくなりました。

イケメン店主、麻野さんのキャラが素敵でした。娘の露ちゃんはとっても愛らしいし。
なんか良い親子だなぁと思いました。
亡くなったという奥さんの存在が謎でしたが、ラスト一編で麻野親子のいろんな謎が解けます。
そのラストの『わたしを見過ごさないで』だけは、過去と現在が交互に語られる形式で、
非常に練られた構成になっています。いろいろ騙されたなぁ。日向子ちゃんの正体には完全に
ヤラれました。そういうことかぁ!と膝を叩きたくなりました。
その後も予想外な真相が次々出て来て、驚きの連続でした。内藤の正体にもびっくりしたー。
静句さんが亡くなったというのが本当に残念ですね。とっても素敵な女性だったので・・・。
でも、一話目のヒロイン、理恵も麻野親子の良き理解者になってくれそうな感じなので、
今後は麻野さんといい雰囲気になって行くといいなーと思います。なかなか麻野さんの中の
静句さんを超えるのは難しいでしょうけどね・・・。なんせ静句さんは、麻野さんの最愛の人
であると同時に、とても大事な恩人でもある訳ですからね・・・。人生のあの時期に、静句
さんと出会えたことは、彼にとって奇跡に近い出来事だったのでしょうね。
最後、理恵が自分の気持ちに気づいたところで終わっているので、続編を想定しているのかな?
と思わせなくもないのですが。続きがとっても気になるので、ぜひ書いて頂きたいです。