ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

米澤穂信「真実の10メートル手前」/三上延「江ノ島西浦写真館」

どうもこんばんは。今日は季節外れの温かい一日でしたね~。
風が強かったですけど^^;明日はもっと温かくなるとか。23℃?
2月の気温じゃないぞー・・・^^;でも、来週はまた寒さが逆戻りになるとか。
この時期は本当に三寒四温という言葉を実感しますね。
みなさま、ご体調崩されませんように。


読了本は二冊です。米澤さんは前回すでに読み終えていたのだけれど、時間がなくて
記事に出来なかったんですよね。タイムラグがあるせいか、ちょっと内容薄れて
来ちゃった^^;読み返しながら書かなくては。


では、1冊づつ。


米澤穂信「真実の10メートル手前」(東京創元社
前作『王とサーカス』に続く、太刀洗万智シリーズ。今回は、短編集。6作収録されて
います。タイトル作は万智視点ですが、それ以外の作品は万智以外の視点から描かれています。
これは、米澤さんが意図してされているようです。万智を語り手にしてしまうと、その謎めいた
性格のヴェールが剥がされてしまうからなのだそう。なるほど。確かに、万智の性格って
いまいち掴めないというか、一見、何考えてるのかわからない感じしますよね。あくまで、他人
から見た万智、という形で作品を進めて行った方が、万智のミステリアスな雰囲気は
助長される気がします。次に何をするのか読めないので、謎解きにも意外性が出ますし。
ただ、結局『王とサーカス』ではその選択肢を捨てて、万智を語り手にすることに
したようです。表題作は、その『王~』の前日譚として書かれる予定だった為、
語り手が万智自身なのだそうです。私個人の意見としては、万智以外の視点から描かれる
方が好みかも。他人から見た万智の印象が、付き合う人によって少しづつ違っているのが
面白いので。特に、『名を刻む死』は少年が主人公なので、万智の接し方も大人相手のそれ
よりも柔らかいというか、少年を労るようなおおらかさが感じられたのが印象的でした。

どの作品もミステリとしてのクオリティが高く、思わぬ着地点に驚かされました。
やっぱり、米澤さんは短編が巧いなぁ。

では、各作品の感想を。

『真実の10メートル手前』
先述したように、この作品だけ万智視点で語られています。万智の東洋新聞時代のお話。
万智と組むのは、同じ東洋新聞の新人カメラマン。
経営破綻したベンチャー企業の美人広報が失踪。二人は、彼女の足取りを追う為、山梨に
向かう。彼女が訪れたお店は突き止めるのだが――。
二人が10メートル手前で気づいた真実に息を飲みました。もう少し早く辿り着いていたら
・・・と思わずにいられませんでした。

『正義感』
突然電車のホームで起きた人身事故。男は、その事故を調べようとしている女に気づき、
その女の行動を観察する。人の不幸を喜ぶ恥知らずの女。しかし、女は予想外の行動に――。
こういう、考えられない思考の持ち主って、現実でもいくらでもいそうです。はた迷惑な
人間を疎ましく思う気持ちは理解出来るけれど、それでああいう行動に出るっていうのは
理解出来ません。こういう人間って、大抵自分が一番偉いと勘違いしてるんですよね。
ムカムカしました。万智に協力した人物、さよなら妖精に出て来た彼なのでしょうね
(あんまり覚えてないけど^^;)。

『恋累心中』
三重県中勢町の恋累で、高校生の男女が心中する事件が起きた。二人の心中は恋累心中と
名付けられ、連日センセーショナルに報道された。事件を追う週間深層の都留も、三重
へと飛び、現地でコーディネーターだという女記者と行動を共にすることに。女は切れ者で、
様々な伝手を使って取材の糸口を見つけてくれた。しかし、女の真の目的は別のところにあった―。
心中の真相には重苦しい気持ちになりました。彼らに助言した人物の身勝手さには嫌悪しか
覚えなかったです。その身勝手さが、思わぬ真実に繋がって行くところはお見事。

『名を刻む死』
放課後、帰宅途中に一人暮らしの老人の遺体を発見してしまった中学三年生の檜原京介。
死後発見された老人の日記には、『名を刻む死を遂げたい』という謎の一文が。名を刻む死
というのはどういう意味なのか――?
自分の死後でさえ、見栄を張ろうとする田上老人の浅ましさが嫌でした。新聞の投稿なんて、
個人も特定出来ないものなのに・・・。これも、プライドの高さ故なんでしょうね・・・。
そんなものより、老人が一人で孤独死したことを伝えられる方が、よっぽど耐え難いことだと
思うんだけどな。ラスト、京介少年の慟哭に胸が締め付けられました。万智の言葉が救いになって
いれば良いのだけれど。

『ナイフを失われた思い出の中に』
イタリア系企業で働く私は、仕事で来日したついでに、妹の友人に会うことになった。
妹の友人はフリーのライターをしていて、現在16歳の少年が3歳の少女を刺殺した事件を取材して
いるのだという。彼女の仕事に興味を引かれた私は、彼女の取材について行くことにするのだが――。
アンソロジー『蝦蟇倉市事件』に収録されたものなんですが、内容をさっぱり覚えていませんでした^^;
当時、この作品を蝦蟇倉市シリーズで書いた意味がわからない、みたいに思った覚えはあるのですが。
改めて読んでも、なぜ?とは思いますけどね。ヨヴァノヴィチ氏と万智の会話が禅問答みたいで、
あんまり頭に入って来なかったです。ミステリ部分は悪くないと思うのですが。

『綱渡りの成功例』
台風の影響で、長野県南部を未曾有の豪雨が襲い、山の斜面に近い高台の三軒の民家が
土砂崩れの被害に遭った。土砂に埋もれた二軒の住人の生存は絶望的だったが、唯一
奇跡的に無傷だった家の老夫婦が、孤立した家の中からレスキュー隊によって救出された。
同じ町内で雑貨店を営む俺は、移動販売で時々、助けられた戸波夫婦に商品を届けていた。
俺は、この救出事件を取材している女記者と知り合い、戸波夫婦に取材に行くというので
同行を願い出た。戸波夫妻がどうしているか気になっていたからだ。しかし、彼らの救出劇の
裏には、予想もしない真相が隠されていた――。
ついこの間の、茨城の豪雨災害のことを思い出しました。あの時も、一軒だけ濁流に流されずに
残されたヘーベルハウスの家が話題になりましたよね。もの凄い濁流の中、電柱にしがみついて
救助を待つ男性の映像も衝撃的でした。助かって、と映像を見ながらずっと願っていました。
戸波夫婦のしたこと、私は悪いことだとは思いません。生きる為には、仕方がなかったのだろうと
思う。後ろめたく思うだけ、彼らは善人なのだと思う。でも、あの状況でよく電気が通っていたなぁ、
とそっちの方が気になってしまった^^;
私だったら、コーンフレーク、そのまま食べるけどね・・・。




三上延江ノ島西浦写真館」(光文社)
ビブリア古書堂の三上さんの新作。タイトル通り、江ノ島が舞台。
主人公は、かつて写真家を目指していたが、ある出来事がきっかけで写真から遠ざかっている桂木繭。
祖母が亡くなり、彼女が営んでいた江ノ島の写真館の遺品整理にやってきた。繭は、そこで出会った
不思議な青年・真鳥昌和の協力のもと、遺品整理をしていく。すると、注文したまま受け取りに来ない
『未渡し写真』の詰まった缶を見つける。繭は、注文主に連絡して、写真を返して行くのだが――。

主人公の性格が暗いので、全体的に暗いトーンで物語が進んで行きます。ちょっと、読んでいて
息詰まるような印象がありましたね。過去の出来事を考えると、仕方がないのかな、とも思いますが。
繭が、未渡しの写真の謎を解くあたりは面白かったのですが、真鳥の身の上の謎の辺りは、だいたい
予想がついてしまったかな、という感じでした。完全に見破れた訳では全然ないけれど^^;
あと、琉衣との確執の部分は、もうちょっとちゃんと掘り下げて欲しかったなぁ。あそこで
終わり!?と愕然としました。琉衣が、本当のところ、繭のことをどう思っていたのか、
ちゃんと描いて欲しかった。なんか、真鳥と琉衣、二人の要素を入れたことで、どっちつかずの
印象になっちゃってるのが残念でした。ただ、もしかしたら、続きを書くことを考慮した上での
あのラストだったのかな?と思わなくもないけれど。
あと、ラストで判明する、繭が琉衣の居場所に気づいたシーンの書き方は、絶妙だなーと感心しました。
あんな伏線が貼られていたとは!確かに、後から読み返すと、なるほど、と思える書き方してる。
さすが、その辺は巧いなぁ、と思いました。
亡くなった繭のおばあちゃん、富士子さんのキャラが素敵でした。繭ともっと話したかっただろうなぁ。
繭が写真から離れて、どれだけ悲しい思いをしていたかと思うと・・・ちょっと、やりきれません。
表面上はクールに振る舞っていたのだろうけれどね。
それに反して、真鳥の父親のキャラは最悪でしたね。彼の言動には、本当に腹がたちました。
究極のマザコンってやつでしょうか。自分の息子を何だと思ってるんでしょうね。キモっ。

事件の背景に、人間の黒さがある辺り、ビブリア古書堂に通じるものがあるかな、とは
思いました。琉衣の写真流出の真相も、かなりどす黒かったですしね。表面上では
にこやかに笑ってても、人間、裏では何考えてるかわからないものですね。怖・・・。

ラストは、明るい方向に行くと思っていいのかな。真鳥とはともかく、琉衣とどうなるのかが
気になりますね。繭にも琉衣にも、幸せになってもらいたいです。