ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宮木あや子「校閲ガール ア・ラ・モード」/西澤保彦「帰ってきた腕貫探偵」

どうもこんばんは。三月 だというのに、昨日からまた寒くなりましたね。
この時期になると、三寒四温という言葉をひしひしと身に感じます。
そして、明日はあの震災からまる五年ですね。なんだかあっという間に過ぎた
感じがしますが、被災地の方々にとっては長い5年だったでしょうね・・・。
もっともっと、復興が進みますようにと、願ってやみません。


読了本は二冊です。今日読み終えたものもありますが、それは次回に。


ではでは、1冊づつ感想を。

宮木あや子校閲ガール ア・ラ・モード」(角川書店
ファッション誌の編集がやりたくて出版社に入ったのに、なぜか一番地味な
校閲に回されてしまった河野悦子の活躍を描いた校閲ガール』のスピンオフ。
今回、スピンオフということで、悦子は脇役に回って、彼女の周りの脇役キャラ
たちがそれぞれに主人公を務めます。なかなか個性的なキャラが揃っていて、
どのお話も面白く読みました。出版業界の内情が伺い知れるという意味でも、
本好きには楽しめるシリーズなのではないかと思います。

第一話は、悦子の同期で、ファッション誌『C.C』の編集者、森尾のお話。
読者モデル時代の仲間との再会で、現在の自分の地位に後ろめたさを感じる中、
森尾にハイブランドのファッション誌から引き抜きの話が持ちかけられて――。
個人的には、読者モデルよりも、雑誌の企画や編集をやってる人の方が
羨ましいし、憧れますね。森尾は、きちんと自分のやりたいことがあって、
多分読者モデル時代よりも今の方が仕事に誇りを持っていて、輝いているのでは
ないかと思いました。

第二話は、悦子の校閲仲間で、身体は男だけど、心は乙女な米岡君のお話。
恋心を抱いた印刷会社の正宗君に対する態度が、ほんとにピュアな乙女そのもので、
微笑ましくなりました。それだけに、正宗君の恋を応援してあげる姿が切なかったです。
セクシャル・マイノリティの恋は難しいだろうなぁ。仕事も真面目に取り組むし、性格も
良い子なので、彼には幸せになって欲しいです。

第三話は、悦子の同期で文芸編集部にいる、東大出の堅物女・藤岩のお話。
超カタブツ女なのに、なぜか彼氏がいる。彼氏は同じ東大卒で、学習塾の講師を
しながら、大学で研究を続ける博士。
あのお堅い藤岩さんが、彼氏と『くうたん』『りおんたん』と呼び合っているとは・・・。
あんなしょうもない男とよく付き合っているなぁとは思ったけれど、彼氏の好きな
所を知ると納得。なんとも彼女らしい。結婚しても、当分は彼女のヒモのような
生活するんだろうなぁ(呆)。

第四話は、悦子の天敵にして、文芸編集部のいい加減男・貝塚のお話。貝塚は、
昨年、売れると営業会議で押し通した作家の本が思ったように売れずに大赤字を
出してしまったことで、営業からの信頼を失い、勝負に出られなくなっていた。
しかし、彼には、密かに売りたい作家がいた――。
いい加減男・貝塚の意外な一面を知って驚きました。売れない作家・田巻との関係が
良かったな。ラスト、なんだかんだで、悦子のこと気に入ってることがわかって
ニヤリ。でも、進展は難しいだろうなぁ。

第五話は、悦子のいる校閲部のエリンギ部長こと茸原のお話。彼には、かつて
担当した女流作家との悲痛な思い出があった。彼女とは全く会わないまま十年以上が
過ぎていたが、校閲部の部下から、彼女に関する思わぬ情報がもたらされて――。
このお話だけやたらにシリアスな展開なので、ちょっと面食らわされました。
エリンギ部長にこんな驚きの過去があったとは。部長と彼女のラストシーンは
切なかったな。あんな事件さえ起こらなかったら、二人でもっと違う人生が
築けていたのかもしれないと思うと、やりきれなかったです。

最後に、番外編で、悦子の担当する作家・本郷のお話が収録されています。これは、
アンソロジーで既読でした。本郷の妻・亮子が突然家を出て行ってしまい、妻が
いないと何も出来ない本郷がひたすらおろおろするという話(笑)。本郷は亭主関白の
代表みたいな性格だから、奥さんがいないとこうなっちゃうんだろうなぁ。しかし、
よく出来た奥さんだなぁと思いました。今回、やりたい放題だった夫に、奥さんが
一矢報いた感じがあって、痛快でしたね。



西澤保彦「帰ってきた腕貫探偵」(実業之日本社
腕貫さんシリーズ最新作。ちょっと、最初の頃の雰囲気に戻った感じがしました。
初期の頃と同じ短編形式ですし、単行本ですし。この間、なぜか突然文庫で出た
やつは、ちょっと雰囲気が違って違和感があったんですよね。
全体的にインモラルなお話が多いのも、西澤さんらしい。お約束のビアンものも
もちろんありますし(笑)。まぁ、正直食傷気味なところもなくはないけど、
これが西澤カラーですし、なければないであれ?と思うんだから、まぁいいか(笑)。
ユリエさんとだーりんの仲は全く進展がなさそうですが、この二人に進展があった方が
びっくりするので、こっちもこれで、まぁいいか(笑)。

『氷結のメロディ』
女装男子・鳥遊(とかなし)葵は、櫃洗大学時代のバンド仲間四人全員が、何らかの死を遂げた
ことで恐怖に戦いていた。次は自分なのではないか――。そんな鳥遊に声をかけたのは、
同じ櫃洗大学出身のユリエだった。彼は、美しいユリエにすべてを打ち明けるが――。
ミステリの顛末よりも、葵があの状況で突然恋に堕ちたことの方に違和感を覚えました。
誰も彼もが、なんでユリエさんに恋するのやら。なんか、ユリエさんって、タックシリーズの
タカチとそっくりですよね。いろんな意味で。

『毒薬の輪廻』
病院で元教師の粥川育子に突然襲われた新田目美絵。刑事から、その理由は育子が、
20年前の粥川孝紀毒死事件の犯人を美絵だと疑っていたからではないかと聞かされる。
20年前、美絵と孝紀の婚約祝いの席で、孝紀は注がれたワインを飲んで毒死した。
ワインは、誰かを狙って毒死させるのは不可能な状況だった。結局事件は有耶無耶な
まま20年の時が流れたのだが、なぜ育子は今になって美絵を犯人だと考えたのか――。
血縁関係が複雑なので、最後ちょっと混乱しました^^;なんでいい大人の女が、
揃いも揃って中学生に発情するのか、まったく理解不能。それに、人間関係で
こんな偶然ほんとにあるんですかねぇ。ちょっとあり得ない、と思ってしまった^^;

『指輪もの騙り』
氷見刑事は、30年前に起きた迷宮入り事件が未だに心に引っかかっていた。それは、
夫の留守中に嫁が不貞を働かないか監視していた姑が、男を連れて戻って来た嫁と
鉢合わせし、修羅場になった末、嫁に殺されてしまった事件だった。夫の証言では、
一度は出かけた嫁が、婚約指輪を取りに自宅に戻って来た際の出来事だったのではないかと
言うのだが。果たしてその真相とは。
これだけ、腕貫さんが出張中なので、事件を推理したのは意外なことに、ユリエの友人・
江梨子でした。『両刀遣い』という言葉から、ここまでの推理を導き出すとは、江梨子
さん、腕貫探偵顔負けです。しかし、なんとも後味の悪い真相。嫁の方はともかく、姑
の方を殺した理由が知りたい。犯人はサイコパスなのかも・・・。

『追憶』
腕貫探偵の前に現れたのは、自称92歳の老婆の幽霊。しかし、とてもそんな年には
見えなかった。老婆には、生前の心残りがあるようで、腕貫探偵にその理由を語り始める。
彼女は、戸籍上は見た目通りの68歳で死んだのだという。その背景には、複雑な
事情が絡んでいた――。
出ました、ビアン要素!やっぱり、西澤作品でこの要素は避けて通れないのだなぁ・・・。
最後の反転はお見事!ではありましたが、やっぱりこの女同士の人間関係には
理解しがたいものがありましたね。西澤さん、もうちょっと普通のミステリ書けない
のだろうか・・・。


今回、腕貫探偵とユリエさんが一緒にいるシーンがあんまりなかったのがちょっと
残念だったかな。腕貫さんって、ほんとにユリエさんのことが好きなんだろうか。
この前の作品で、大分人間っぽさが出て来たかな?と思っていたのだけど、また
人間味ゼロの不思議キャラに逆戻りしてしまった感じがしました。まぁ、設定だけなら
こっちの方が好みではあるので、別にいいんですけどね。相変わらず神出鬼没だったしなぁ。
腕貫さんのプライベートが気になります。休日バージョン、書いてくれないかな。