ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

千早茜「西洋菓子店プティ・フール」/「どうぶつたちの贈り物」

どもども。三月に入っても寒さが厳しいですね。でも、今週半ばあたりから、
ようやく春らしくなるみたいですが。
この間、我が家では薔薇の苗を3つほど買い足しまして。今まで、一種類だけ
育てていたのですが、もっといろんな種類を植えたい!と突然思い立ちまして(私が)。
庭の植物の面倒を見るのは相方なので、非常に迷惑な思いつきではあるのですが・・・
(私はサボテンを枯らす女なので・・・^^;)。
一応四季咲きの種類なので、秋くらいにお花が咲いたら嬉しいなぁと思っているのですが。
薔薇は非常に難しいというので、相方には頑張ってもらわないと(お前がやれ)。
ちなみに、名前がどれも洒落ておりまして、マリーアントワネット、グラハム・トーマス、
ジュード・ジ・オブスキュア。マリーとジュードはホワイト系(アイボリーよりかな?)、
グラハムはオレンジ系。もともと持っているジャルダン・ドゥ・フランスがピンク系
なので、全部が咲けば壮観な眺めになる筈・・・と、取らぬ狸の皮算用のワタクシなのでした。
秋にはこのブログが薔薇観察ブログになっていたりして・・・ないか(笑)。


読了本の方は二冊。


では、感想を。


千早茜「西洋菓子店プティ・フール」(文藝春秋
久々千早さん。これは、書店で新刊を見かけた時から、是非とも読みたい!と
楽しみにしていた作品。タイトル通り、洋菓子店が舞台の連作短編集です。
まぁ、とにかくお菓子が美味しそう。スイーツ好きにはたまらない作品じゃないでしょうか。
甘いものに目がない私のような人間には、手元に甘いものがない状況で読むと、
禁断症状に苦しむ羽目になるかもしれませんが・・・(苦笑)。
ただ、内容は甘いだけではなく、ほろ苦いビターな要素も含まれています。
一作ごとに主人公が変わって行きますが、ラストでまた最初と同じ人物が主人に
戻ります。その、最初と最後の主人公が、パティシエールの亜樹。フランス人が
パティシエを勤める有名なパティスリーで修行していたが、下町の商店街で創業40年
を超える洋菓子店を営む祖父の店を手伝う為に退職。典型的な下町のケーキ屋の祖父とは
作る菓子の系統が違うが、素朴で優しい祖父の味が大好きな亜樹は、祖父のことを誰よりも
尊敬している。けれども、自分が学んだ技術を試してみたい気持ちも強く、同じ商店街に
店を構える紅茶専門店に自作の菓子を卸して、祖父の店を手伝う傍ら、時間があれば接客も
こなす。結婚を間近に控える彼女だったが、恋愛よりも仕事優先で、なかなか結婚話も
進まない状況が続いていた・・・。祖父の西洋菓子店『プティ・フール』を舞台に繰り広げられる、
6つの人間ドラマが収録されています。
お菓子を巡る物語ではありますが、そこで展開される人間模様では、悩みや逡巡、嫉妬や羨望や失望など、
人間の負の感情もたくさん出て来ます。人間の細やかな感情の機微が、お菓子を軸に、上手く表現
されていると思いました。
クールで感情表現に乏しい亜樹のキャラクターは、最初はあまり好きになれなかったのですが、
ラストの祐介との一件で、ちゃんと人間らしい感情も持っているのだとわかって少しほっと
しました。祐介が距離を置きたいといった時の態度は、ちょっと酷すぎじゃないかと若干引いて
しまったけれど^^;
一話目に出て来た、亜樹と元親友珠香との危うい関係が、実に千早さんらしいなぁと思いました。
思春期ならではの感情というか。珠香のような人間っていますよね。友達を独り占めしたいと
思っちゃうタイプ。結婚して、あっさり普通の女になってしまった珠香が、亜樹は残念で
ならなかったのでしょうね。珠香に対する上から目線な感情が透けて見えて、あまり好感が
持てなかったです。それでも彼女への複雑な想いは一生消えないのでしょうけれど。もう二度と
二人の人生が交わることがないからこそ、あの時の二人の記憶が甘く苦い思い出として彼女の中に
残り続けるのだろうな、と思いました。
いろんな思いを抱えてプティ・フールにやってくる人々の悲喜こもごも。どのお話も、甘い
お菓子と共に、ほろ苦い思いや痛みを抱えた人が出て来ます。夫の不倫に対するストレスから、
大量のシュークリームを買って食べては、吐いてしまう主婦の話は痛かったなぁ。作る方の側に
立ってみたら、自分が丹精込めて作ったものが吐かれてしまうとわかっていたら、売りたくないと
思うのも無理はないと思う(まぁ、作ったのは亜樹の祖父なんだけど)。前作での亜樹の怒りの
理由がわかって、溜飲が下がりました。でも、亜樹のほろ苦いリングシューで彼女の気持ちに
変化が出て良かったです。夫とはどうなったんだろうなぁ。

なんといっても、プティ・フールのシェフのじいちゃんのキャラが良かったなぁ。頑固だけど、
本当に真の職人って感じで。あらゆる技術を習得しているのに、手法の名前とかを覚えてない
というおちゃめなところも素敵だった。丁寧に作られたじいちゃんのお菓子は、どれも愛情
たっぷりで美味しいんだろうな、と思いました。素朴な下町のお菓子も味わいがあっていいですよね。

出て来るお菓子は本当にどれも美味しそうでした。甘いスイーツとブラックコーヒーを飲みながら
読みたい一作です。
お薦め。


「どうぶつたちの贈り物」(PHP研究所
以前に、名前に『犬』がつく作家のアンソロジーを読みましたが、今回はそれの第二弾で、
名前に何かしらのどうぶつの漢字が入っている作家によるアンソロジー。各作家が、名前に
入っているその動物にまつわるお話を書くという趣向。寄稿作家もバラエティに富んでいます。
こういうくくりのアンソロジーも面白い企画ですよね。第三弾は何になるのかな~。

では、一作づつ感想を。

東川篤哉『馬の耳に殺人』
なんとなんと、探偵役は馬!という異色のミステリー。バカミス風を全面に出しまくった、
東川さんらしい作品となっております。関西馬だから、しゃべる言葉も関西弁という(笑)。
ツッコミ所は満載ですが(まぁ、いつものことね)、ちゃんと真相は本格風。バカミス
罵られようが、東川さんはこれでいいんですっ。関西馬ルイスと、マキバ子ちゃんの
コンビはまたどこかで出会えたら嬉しいです。

白河三兎『幸運の足跡を追って』
白河さんは、気になりつつ未読だった作家さん(アンソロジーとかで読んでる可能性も
なくはないけど)。引きこもりニート娘とイケメンフランス人青年がインチキ占い師として
逃げた兎を捜すお話(何のこっちゃ)。イケメンのティエリーは謎だらけで不思議なキャラでした。
ラストの突然の変貌っぷりにも唖然。こんなキャラだったの?と思いました^^;
ミステリとしては、可もなく不可もなくって感じだったけど、ティエリーと主人公のコンビは
なかなか面白いな、と思いました。

鹿島田真希キョンちゃん』
合コンに臨む男子大学生コンビのお話。一方が山でしゃべる鹿に出会ったというのだが。
これは一番わけわかんなかったなぁ。文章も内容も独特過ぎて、ちょっとついて行けなかった。
ラストのオチにも唖然。いや、途中もそういう方向に行きそうな伏線はあったのだけどさ。
こっち系のお話が好きな人にはたまらない展開かもしれません。(三浦)しをんさんとか、好き
だろうなぁ・・・。

似鳥鶏『蹴る鶏の夏休み』
個人的には、これが群を抜いて面白かった。校内新聞に載せる、白いカラスのスクープ写真
を撮る為、噂の出処の女子生徒の家に取材に行く高校生男子コンビのお話。
白いカラスの真相には首を傾げるところもあったのですが(だって、アレを被ったとしても、
白くはならんでしょう)、鶏のピーちゃんの怪我や自動販売機の釣り銭の謎の真相には
なるほど~と思いました。その裏で更に思わぬ真相が隠されていたところも巧いな、と感心。
高校生コンビのキャラも良かったです。似鳥さんって、短編巧いですよね。

小川洋子『黒子羊はどこへ』
黒子羊を手に入れた女の一生を描いた作品。初小川さん。読書メーターの書評を読むと、
ダントツでこの作品の評価が高い。
・・・ですが、私には合わなかったです。大人の寓話的な世界観は嫌いじゃないんですが、
何の脈絡もなくストーリーが進んで行く感じが作者の独りよがりに思えてしまって、
置いてけぼりを食らった感じで入っていけなかったです。改行が少ない文章も私には
ちょっと読みづらかった。文章は確かにずば抜けて巧いとは思うのだけれど。こういう
作風が小川さんらしいのであるならば、私には合わない作家だと思う。なんか、ハルキ
っぽいのかな、とも思ったり(村上春樹の作風、いまいちわかってないんだけど←おい)。
見当はずれだったらすみません^^;;