ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾ルカ「花が咲くとき」/住野よる「また、同じ夢を見ていた」。

こんばんは。汗ばむ陽気になってきましたね。
昨日は快晴の中、調布にある神代植物公園のバラフェスタに行って来ました。
相変わらず薔薇フェチなワタクシであります(苦笑)。
ものすごい数の薔薇が植わっていて、それは壮観でした。
平日にも関わらず、結構人が多かったですね。私たちが帰る時には駐車場は
満車になっていましたし。
んで、中に植物苗が売っているコーナーがありまして・・・お察しの通り、
性懲りもなくまたひと苗買っちゃいました(笑)。ずっと探していた品種が
売っていたので・・・ついつい・・・。薔薇好きの庭って、こうやって次々と
増えて行くのだろうなぁ・・・。


読了本は二冊です。


乾ルカ「花が咲くとき」(祥伝社
久しぶりの乾さん。大好きな作家さんですが、新作が次から次へと出るので、
さすがに追いつけなくなって来まして、読んだり読まなかったりになってきて
しまいました。途中まではコンプリートしていたのだけれど。
これも出た時どうしようかなぁと悩んで、とりあえず保留にしていたのですが、
ブロ友さん絶賛の記事を読んで、ならば読んでみよう、と予約してみました。
結果、読んで良かったです。読み終えた時、しばらく感動の余韻に浸ってしまった。
簡単に説明すると、少年と老人のひと夏の旅を描いたロードノベルです。まぁ、
二人の旅というか、老人の旅に少年が勝手にくっついて行ったっていうのが
正しいのですが。
実は、読み始めは主人公の言動がどうにも受け付けなくて、読み続けるのが嫌で
仕方がなかったのです。少年が主人公の割に、やたらと卑屈で陰険な性格だったので、
爽やかさの欠片もなかったし。嫌だなぁという負の感情ばかりが先走って、ページを
めくるのが辛かった。特に、主人公の大介が、隣人の佐藤北海氏の庭にある植物の花芽を
削り取るシーンが耐え難かった。せっかく芽生えた花芽を削り取るなんて。
なんて性根の腐った子どもなんだろう、と呆れました。隣人の北海に対する感情にも
ムカムカしましたし。
でも、大介が北海と旅を続けて行くうちに、少しづつ彼が成長していくのが
わかって、だんだんと彼に対する印象も変わって行きました。北海を始め、いろんな人の
温かさに触れて行くことで、彼自身も他人に対する優しさが芽生えて行ったような感じが
しました。
大介は、この旅でいろんな人と出会ったことで、本当に人間として一番大事なものを
学んだのだと思う。彼が、あのまま北海と旅に出ないまま大人になったとしたら、
とんでもない悪魔のような人間に成長していたかもしれない。一歩を踏み出せて、
北海さんと旅が出来て、本当に良かったと思います。
大介と北海が旅の途中で出会う人々もみんな素敵な人ばかりでした。行きのフェリーで
行き会った青年、井上。ストリッパーのキヨミ。ヒッチハイクで車に乗せてくれた鏑木。
そして、北海の旅の目的であった池田と、その妻に、義母。どの人の存在も言葉も、二人の
旅の後押しをしてくれていたと思う。
実は、二人の旅のことはずっと心配でした。北海さんが、大介を誘拐した犯人として、
指名手配されるのではないかと思って。これが現代の話だったら、間違いなく、
二人の旅は途中で終わっていたと思う。時代設定が昭和なので、携帯電話等も持って
いないし、ネットも普及していなかったのが幸いしたと思う。それでも、北海さんが新聞
を見て態度を変えたシーンからは、いつまで二人の旅が続けられるのか、終始ハラハラ
しながら読んでいました。
最後は、来るべき時が来てしまったな、と思ったのですが、最悪の事態には陥らなくて
ほっとしました。 
学校に戻った大介が、悪ガキの義春の心ない言葉に突きつけた啖呵に胸がスカッとしました。
同時に、大介の成長に胸が熱くもなりました。卑屈で空気のようだった大介はそこには
もういませんでした。
大介と北海さんのやり取りが大好きだった。北海さんが大介を呼ぶ時の『ぼんず』って
呼び方がなんだかとってもあったかくて。ぶっきらぼうな北海さんの優しさが言葉の
端々から滲み出しているところが良かったなぁ。
だから、老人と子どもが出て来る作品はダメなんだってば。涙腺弱くなる^^;

エピローグのエピソードもなんとも素敵で、心を打たれました。北海さんとの約束が
果たせる時が来て良かった。二人の再会シーンも見てみたかったなぁ。
二人の大事な白い花が、大介の実家の庭で咲き誇る日がいつかきっと来る筈です。
それまで、どうか北海さんの命が保ちますようにと願わずにいられません。

読み終えて、静かな感動に浸れる素晴らしい作品でした。こういう作品が直木賞
本屋大賞の候補になるべきじゃないのかな。たくさんの人に読んで欲しい良作だと思いました。



住野よる「また、同じ夢を見ていた」(双葉社
本屋大賞二位の『君の膵臓を食べたい』に続く、著者の二作目。『君の膵臓~』は、個人的には
それほど高い評価をつけた訳じゃないのだけど、面白く読んだのは確かだったので、二作目も
続けて読んでみました。
うん、まずまず、面白かったかな。割りと複雑な構成というか、一読しただけだとちょっと
わかりにくいお話ではありました。きちんと消化出来ると、良く出来ている、ということに
なると思うのだけど。私も、読書メーターのレビュー読んで納得出来たところもありました(アホ)。
主人公は、学校に友達のいない小学生の小柳奈ノ花。そんな奈ノ花が、唯一の友達である『彼女』
と共に、学校外で出会った三人の女性たち。リストカットを繰り返す『南さん』、友達の『彼女』を
助けてくれた『アバズレさん』、お菓子作りが上手な『おばあちゃん』。三人との出会いが、
奈ノ花の人生に奇跡を引き起こす――。
三人の正体に関しては、ほとんどの人が途中でわかってしまうと思うのだけど。多分、作者は、
読者がわかることを前提で書いていると思うので、そこは別にマイナス要素ではないと思う。
何を書いてもネタバレになってしまいそうなので・・・以下、未読の方はご遠慮下さい!


以下、ネタバレあります。







要するに、三人は、奈ノ花の『あり得たかもしれない未来』の姿な訳で。最悪の選択をしたら、
こうなっていた、という未来の自分・・・なのだけども。
どうも、今の奈ノ花とそれぞれのキャラクターがどうしても一致しなくて、違和感が
ありました。今こんなに素直で綺麗な言葉をしゃべる奈ノ花が、両親を亡くしたからといって
ああいう言葉遣いになるかなぁ?
それに、アバズレさんのような職業に就くってのもキャラクターから言って考えにくいし。
作者は、なるべく現在の奈ノ花から離れたキャラクターにしたかったのだろうけど、
離れ過ぎて説得力がなかったように思いました。
おばあちゃんだけは、納得出来るキャラクターだったのだけれどね。
あと、気になったのは、『南さん』の『南』って一体何(誰?)のことだったんでしょうか。
スカートに刺繍がしてあったと書いてあるけれど。学校名?私の読み落としかな。
それに、南さんの両親は二人いっぺんに飛行機事故で亡くなったことになっているけど、
なぜ両親二人が同じ飛行機に乗っていたのでしょう?確かにお父さんとお母さんは当日
遠いところに出張に行くことになったと母親が言っているけれど。同じ職場なんですかね?
同じ日に同じ場所に出張って、そんな偶然あるかなぁ。同じ仕事をしているのであれば、
その辺もきちんと書いて欲しかったな(私が細かい部分に拘りすぎ?^^;)。








何か、ちょこちょこ腑に落ちない部分はありましたけど、こういうファンタジックな作品は、
そういう部分に拘ったりせず、素直に楽しむべきなんだろうなぁ。
奈ノ花のキャラは最初なんだかとっつきにくい感じがしたのだけれど、彼女の素直で自分の
意見を貫き通す意志の強さみたいなところには好感が持てました。
特に、終盤、桐生君の心を動かすシーンはカッコ良かった。こういう、正論をぶちかます
タイプは、クラスで孤立しちゃうだろうなぁとは思うけれど。
ラストシーンがいいですね。桐生君は、奈ノ花がいたことでいろんな意味で救われたの
でしょうね。一生尻に敷かれそうだけれどね(苦笑)。




文章はやっぱり軽くて、ラノベっぽいです。こういう文章は好き嫌い分かれるのではないかな。
奇しくも、小学生が主人公の成長物語二連チャンとなりました。
でも、どちらがお勧めかと言われたら、迷わず乾さんの方と答えますね。住野さんの方は、
よくも悪くも、軽い。残るものがあまりなかったというか。でも、万人受けするのは住野
さんの方なんだろうなぁ・・・はぁ。