ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸「タマゴマジック」/長岡弘樹「教場2」

どうもどうも。なんか、今年、暑くなるのが早くないですか?
毎年この時期って半袖着てましたっけ。すでに毎日半袖着てるんですけど(笑)。
今からこの暑さじゃ、今年の夏はやばそうだなぁ・・・(汗)。


今回も二冊ご紹介。


恩田陸「タマゴマジック」(河北新報出版センター)
恩田さん最新作。なんと、待望の関根シリーズ!しかも大好きな『象と耳鳴り』の
多佳雄さん登場でテンション上がりました~。めっちゃ薄い本なんで、すぐに
読み終わってしまいましたが^^;
最後のお話では、多佳雄さんの代わりに息子の春が登場。こちらも嬉しい再会
でした。
今回、面白い構成になっていまして、仙台を舞台にした不思議なブリキの卵の掌編と
エッセイが交互に挿入された『ブリキの卵/この世は少し不思議(エッセイ)』
挟む形で、同じく仙台を舞台にした小説『魔術師一九九九』『魔術師二〇一六』
収録されています。
ブリキの卵の小説と関根親子が出て来る『魔術師』二作は特にリンクしてる訳ではなく、
単に仙台が舞台ということで、同じ一冊にまとめられたようです。ただ、どちらも
都市伝説っぽいものを題材にしているという点では共通しているかも。
相変わらず、なんとも不思議な読み心地というか、恩田さんらしい作品集
としか言いようがない・・・。
特に、『ブリキの卵』の方。ブリキの卵に関するいろんな人のエピソードを集め、
終盤でそれが仕組まれたものだったのではないかと思わせる証言を出して
なーんだ、と思わせておきながら、ラストでは再び恐怖が襲ってくる、という。
ホラーといえば、ホラーなのかな。
多佳雄さんが出てくる冒頭の『魔術師一九九九』は、いくつかの謎めいた都市伝説
が出て来て、なぜそうした都市伝説が生まれたかを、多佳雄さんの慧眼で解き明かす、
というもの。多佳雄さんの説明に、なるほど~!と思わされました。やっぱり
多佳雄さんは渋いな~と嬉しくなりました。
最後の『魔術師二〇一六』は、仙台の小料理屋にやってきた三人組の会社員の
一人が、トイレに立ったきり姿を消してしまい、その後自殺したという話に、
春が説明をつけるお話。彼が自殺した理由には、胸が塞がれる気持ちになりました。
東北の人たちは、同じような気持ちになった人が多かったのかもしれません。
恩田さんの、震災に対する思いが込められた作品だと思いました。
とにかく、関根親子に再会出来ただけでも嬉しい一作でした。まぁ、お薦めかと
聞かれるとちょっとあれですけども・・・もごもご。


長岡弘樹「教場2」(小学館
大変話題になった『教場』の続編。今回もまぁ、陰々欝々たる警察学校の内情が
描かれた問題作揃いとなっております(笑)。
そして、風間教官は今回も素晴らしき慧眼を披露しまくり、ダメな学生を失意の
どん底に陥れておりました(笑)。
読みやすいのでさくさく読めるのですけど、どれも最後で落とされてどよーんと
なるお話ばかり。警察学校って、こんなに嫌な人間の寄せ集めなんですかねぇ・・・はぁ。

第一話『創傷』
警察手帳を失くした桐沢。手帳の紛失は即退校。一体どこで失くしたのか――。
医師を辞めて警察を志願したという珍しい経歴の桐沢。その経歴ゆえ、仲間に
陥れられそうになるというのが皮肉だな、と思いました。風間のおかげで救われました
けどね。

第二話『心眼』
警察学校内部で次々と物品が無くなる出来事が相次いだ。運動用具室のファーストミット、
パソコン室のマウス、音楽室のマレット――犯人の意図とは。
物品を盗んだ犯人の理由を知って、確かに盗難はよくないことだけど、これで
退校は可哀想だなぁと思いました。小中学生男子のやることみたいだけどね(苦笑)。

第三話『罰則』
教官の貞方に厳しく指導された津木田は、一矢報いようと貞方が個人で使っている
シットアップベンチの上に、バケツの水を落としてやることを目論む。しかし実行
したところを奏山に目撃されてしまう。だが、奏山は目撃したこと自体を忘れて
いるらしい――。
アスパラを食べると○が臭うって本当なんでしょうか。風間が、奏山の記憶を呼び
おこす為にさせたことにも驚かされましたが、記憶を取り戻した奏山のラストの行動にも
息を飲みました。まさか最悪の事態にはなっていないでしょうが・・・ぞぞー。

第四話『敬慕』
容姿に自信のある羽津希は、警察学校内を取材するテレビ番組の代表インタビューに
選ばれる。しかし、自分の引き立て役として、自分より容姿の劣る佑奈に一緒に
出演してほしいと頼む。しかし、番組を見ると、自分より佑奈の方が光って見え、
周りの反応も彼女に対するものの方が良いことに嫉妬心を覚えるのだが。
佑奈が輝いて見えた理由にきゅんとしました。彼女みたいな人間がより警察官に
ふさわしいのになぁ。切ない。でも、羽津希も風間のおかげで改心出来たようで
良かったです。

第五話『机上』
刑事志望の仁志川は、元刑事の風間に、特別授業として、殺人事件捜査の体験実習を
やってほしいと願い出る。犯罪捜査以外の授業に身が入らない仁志川に、風間が
特別授業で学んでほしいこととは――。
風間は、厳しいだけの教官ではなく、警察官として大事なことを教えてくれる先生
でもあるんですね。風間の刑事時代のエピソードも読んでみたくなりました。きっと
優秀な刑事だったんだろうなぁ。

第六話『奉職』
警察学校の卒業式が近づいていた。美浦は、総代の座を桐沢と競い合っていた。
しかし、風間から『退校届』を渡されて――。
元警察官の父親を持つ美浦の『意外な前職』に驚かされました。でも、これって
『前職』になるんでしょうか?意外な経歴といった方が正しいような。ここに
入った時点で、就職したことになるってことなのかな。
風間の最後の一言に、なんとも爽やかな、清々しい気持ちになりました。
なんだかんだ言って、風間は自分が担当した学生すべてが愛おしい存在なのでしょうね。
奇しくも、先日記事を書いた伊坂さんの陣内がラストで若林青年に言った言葉とほぼ
同じ内容だったのが印象に残りました。まったく正反対のふたりなのに。でも、他人を指導する
立場の人間には、こうであってほしいですね。