ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

湊かなえ「ユートピア」/似鳥鶏「家庭用事件」

みなさま、こんばんは。
今日は梅雨らしく雨の一日でした。じめじめ鬱陶しいけど、降らなきゃ降らないで
水不足が心配になるのよね。関東は今年、かなり深刻な状況らしいので、取水宣言が
出されそうで不安です。節水を心がけなくては・・・。


読了本は今回も二冊です。


湊かなえユートピア」(集英社
予約に乗り遅れたせいで、100人以上待ちを乗り越えてやっと回って来ました。
新作の短編集は気合入れて予約したんで、もう回って来ているのですが(笑)。
太平洋に面した海辺の港町・鼻崎町が舞台。かつては国鉄の駅から岬へ続く県道
までを結ぶ<ユートピア商店街>には、一日一万人が訪れる程活気のある町だったが、
今ではすっかり寂れてしまっている。
そんな鼻崎町で生まれ育った堂場菜々子、食品加工会社・八海水産に勤める夫の
転勤で5年前こちらに移り住んで来た相場光稀、芸術家のパートナーに誘われて
二年前に芸術家の多く住む<岬タウン>の新築に越して来た陶芸家の星川すみれ。
三人の女性によって立ち上げられたボランティア団体『クララの翼』を巡る
群像サスペンスです。
三人がボランティア団体を立ち上げたのは、菜々子の娘久美香の足が不自由で、
車いす生活をしていることを気の毒に思った光稀の娘・彩也子が、ある詩を
書いたことがきっかけ。その詩に感銘を受けたすみれが、自身のブログで彼女の
詩を紹介したところ思わぬ反響があった為、そこで久美香の為の支援募金を募ろうという
ことになったのだった。しかし、そのことが思わぬ事件に発展してしまい――。

うむ。湊さんらしい女の嫌らしさ満載のお話でしたねぇ。メインとなる三人の女性、
三人三様、嫌なところがあって、誰一人好感持てる人物がいなかったな^^;
もちろん、三人とも良い所もあるんですよ。でも、打算的というか、自己中心的な
考え方にうんざりさせられることが多かったです。まぁ、誰もが持っている感情
とも云える部分も多くて、身につまされるような気持ちにもなりましたけれど。
私には子どもがいないから、どうしても菜々子や光稀みたいなママ友関係には、
理解し難いものがありましたね。ただ、もし私が彼女たちの立場だったら、
自分の子どもの写真を不特定多数が閲覧出来るネットに上げるなんて、絶対に
やりたくないと思ったでしょうね。結局、それが原因で嫌な目にも遭う訳で。
『善意は悪意よりも怖ろしい』というのがこの作品のテーマなのだとか。なるほど。
ボランティアってすごくいい響きだし、やられている方には頭の下がる思いが
するけれど、同時に、どこか胡散臭く感じてしまうところも少なからずあると思う。
街角募金だって、本当にその目的で使われるのか、半信半疑に思えてためらう人も
多いと思うし(私がそう)。被災地のボランティアに関しても、善意ばかりで
志願している人ばかりじゃないし、ボランティアの人々が問題を起こすような
こともあるし。決してボランティア活動を否定している訳ではないし、そういう人々が
いるからこそ救われる人もたくさんいるのは間違いないと思うのだけど、それを利用して
悪いことを企む人も必ず存在するから、厄介というか。上手く言えないけれど、とにかく、
善意が悪意よりもより悪い結果をもたらすこともある、というのが今回の作品の
いい例だと思います。結局、すみれたちが立ち上げた『クララの翼』が軌道に乗った
とたんに、それをよく思わないアンチが出て来て、叩かれる羽目になりましたから。
久美香の方は久美香の方で、車椅子に関する悪い噂が囁かれるようになるしね。
あんな風に派手にブログで支援金を募るようなことをしなければ、そんな噂も
表には出なかったかもしれないのにね。

5年前の殺人事件の犯人に関しては、途中からなんとなく、そうかな、と
思っていた人物でした。明らかに言動がちょっと変なところもありましたしね。
でも、この作品で驚かされたのは、やっぱりラスト1ページですね。
湊かなえの真骨頂とでもいいますか。黒っ。まぁね、この独白の主に関しては、
何かありそうだなぁ、とは思っていたのですけどね。絶対、性根は黒いんじゃないのかな、
と思っていたし。まぁ、本人は善意からしたことなのだろうから、性根が本当に
黒いのかはグレーゾーンってとこかもしれないですけど。この真実は、墓場まで
持って行くんでしょうねぇ。

最近の湊さんは、また黒モードに戻ったのかな。前作のコーヒーのやつもラスト
めっちゃ黒かったもんなぁ。でも、やっぱり人間同士のどろどろした心理描写は
お上手だなぁ、と思いました。後味は最悪でしたけどね・・・^^;


似鳥鶏「家庭用事件」(創元推理文庫
市立高校シリーズ(というらしい)第七弾、だそうです(ネット調べ)。今年で
シリーズも10年目になるのだとか。はや。
今回は短編集です。5編が収められています。どれも面白かったのだけど、
最後の一編には驚かされましたねぇ。いやー、まさかの事実が判明。こういう設定を
今まで隠していたというのに何より驚かされました。
そして、なぜか表紙のイラストレーターが変わりました。大人の事情ってやつ
でしょうか・・・なんか、違和感あって嫌だなぁ。表紙は、葉山君と妹の亜理紗
でしょうかね。シリーズの前作もみんな、新装丁になったようで。ネット検索してたら、
どなたかが、結局理由あって冬に出る』のあの表紙の眼鏡っ子が誰だったのか
これで永遠にわからなくなったと嘆いてらしたけれど・・・全く、同じ気持ちです。
私は柳瀬さんだと思っていたけどねぇ。でも、眼鏡かけてるって描写はひとつも
ないのよね・・・まぁ、それを言うと、レギュラー女子キャラで眼鏡っ子って
誰もいないと思うから誰でも当てはまるのだけど^^;
一話目の『不正司令電磁的なんとか』は、ミステリのトリックとしては
一番感心しました。こんなやり方あるのか。これを知ってたら、契約とかの不正が
後を絶たなくなっちゃう気がしてちょっと怖い。
二話目の『的を外れる矢のごとく』は、弓道部の的枠を盗んだ犯人の動機が、悪意の
あるものではなくてほっとしました。しかし、高校生になってもこれが出来ない人間が
いるんですねぇ。泳げない人より少数派じゃないのかな。駅や商業地から言が遠かったら、
いろいろと不便そう^^;
三話目の『家庭用事件』は、葉山君ちのブレーカーが突然落ちた原因が、思った以上に
黒い意図が絡んでいたので驚かされました。それにしても、あの葉山君の電話の説明だけで
ほとんどのことが理解出来る伊神さんって、やっぱりすごい人だ。
四話目の『お届け先には不思議を添えて』は、梱包されたビデオテープの中身をすり替えた
犯人が意外でした。理由はまぁ、そんなものだろうとは思いましたけど。すり替えた方法は、
割りとオーソドックスな手法だったかな。
五話目の『優しくないし健気でもない』は、とにかく葉山家のある隠された事情に
仰天、の一言。シリーズ全体にこんな仕掛けを施していたとは。葉山君が、
あれほど妹に甘い理由もこれでよくわかりました。なぜ、彼があれほど家事に
長けているのかも。多分、彼は幼い頃から苦労して来たのだろうなぁ。それを、
苦労とも思わないでさらっとやってしまっているところが、彼のすごいところだと
思うけれど。伊神さんも、柳瀬さんもミノも、みんな彼のそういう事情を知っていたの
でしょうね。だからこそ、みんな葉山君の人柄に惹かれるんだろうなって思う。
ショックな思いも少なからずありましたが、それよりも、今までの作品がいかに
巧妙に書かれていたのかに気づかされて、あっと言わされました。全く違和感覚え
なかったもんなぁ・・・。
うーむ。微妙に反則な気がしなくもないけれど(「」の扱いとか・・・一緒でいいもの?)。
でも、騙された、という意味では、参りました、ってひれ伏すしかないですね(苦笑)。
亜理紗ちゃんは、伊神さんのことは諦めたのかなぁ。
ちょっと、このお話を読んで、有川さんの某作品を思い出しました。あと、図書館戦争
あるカップルね。でも、真菜の元カレは最低の人間でしたね。人間性を疑いました。
こういう人間は、真菜のような子と付き合っちゃダメですよね。ほんとに。

そして、今回もあとがきが最高でした。しかし、面白いけど、もうちょと改行して
欲しいなぁ・・・。