ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

長岡弘樹「赤い刻印」/小路幸也「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード 東京バンドワゴン」

こんばんは。いや~、今日は暑かった。東京の私の住む地域は34℃だか5℃くらいまで
上がったらしいです。うえぇ。
午前中、庭の植木の剪定やら部屋の掃除やらやっていたら、もう汗だくだく。
何もしなくても汗が吹き出して参りました・・・。七月の始めからもうこんなに
暑くって、今年の夏は一体どうなっちゃうんでしょう・・・。梅雨もまだ明けてないのに^^;
日中はガマンしたものの、さすがに夜はエアコンつけてます。お風呂入った意味
なくなっちゃうんで・・・^^;みなさま、くれぐれも熱中症には気をつけて下さいね。


読了本は今回も二冊。


長岡弘樹「赤い刻印」(双葉社
『傍聞き』『教場』の長岡さんの最新作。ネットで知ったんですが、これに収録
されている表題作の『赤い刻印』は、『傍聞き』の続編だそうで。登場人物とか
すっかり忘れていたから、情報知って初めて気付きました^^;確かに、女性刑事が
出て来たような覚えがあるような、ないような・・・(結局、覚えてないのと一緒^^;)。
まぁ、覚えてなくても特に問題はないですけども。
四作収録されていますが、どれもなかなかの出来。『傍聞き』は、出来にばらつきが
あった印象が強いんですが、今回の方が短編集としては完成度が高いのではないでしょうか。

では、一作づつ感想を。

『赤い刻印』
母子家庭の菜月は、亡くなったと思っていた祖母が生きていることを知る。母には
産みの親と育ての親がいたらしく、育ての親は亡くなっているが、産みの親はまだ
生きているというのだ。しかし、母が産みの親に会ったのは五年前に一度きりで、
それ以降は二度と会わないと約束しているのだという。菜月は、血の繋がっている祖母に
どうしてもひと目会いたいと思うのだが、口には出せずにいた。しかし、思いがけず
母から祖母に会ってみるかと聞かれ、連絡先を教えてもらえることに――。

『傍聞き』で小学生だった娘は、中学三年生になっています。聡明で優しい良い子に
育っていて、優秀な刑事の母親の背を見ているからだろうな、と思えました。
冒頭に出て来る拇印や、母親に送られて来るお守りなどの小道具がラストに効いてくる
ところが上手い。まぁ、これは伏線だろうな、というのは丸わかりでしたし、オチも
なんとなく予想はついてしまいましたが。なんともやるせないラストで、菜月と
祖母のやり取りに今後の交流を感じさせていただけに、心が塞がれる気持ちになりました。
菜月の母が、一番苦しかったでしょうけどね。

『秘薬』
医学部の実習生である千尋は、ある日脳の血腫のせいで倒れ、目覚めると記憶が一日しか
保たない身体になっていた。すると、脳神経外科の教官である久我から、毎日の出来事を
日記に記すように言われる。苦手な教官の久我のやり方に反発心を覚えながらも、言うとおりに
日記をつけ始めた千尋だったが――。

これは途中までどういう話なのかさっぱりわからなかったんですよね。千尋の立場も
ちょっとよく掴めなかったし。でも、最後まで読むと、ああ、なるほど、こういうことが
書きたかったのか、とわかりました。途中途中で挟まれる薬の羅列も意味不明だったんで。
ただ、さやかの言動から、身辺整理をしたいのかな、というのは予想がついたのですけどね。
こういう思惑があったとは・・・。久我は悪者なのかよくわからなかったのですが、最後まで
読むと、『教場』シリーズの風間みたいな人だなーと思いました。

『サンクスレター』
5ヶ月前、万友美が受け持っているクラスの生徒が、校舎の三階から落ちて脳死状態になり、
その後亡くなった。彼は、飛び降りる前に意中の女子の名前を書いたメモを紛失し、誰かに
見られることを苦にして自殺したのではないかとみなされていた。ある日、自殺した生徒の
父親がスタンガンを持って突然クラスに侵入し、生徒を人質に立てこもり始めた。
息子が亡くしたメモを持ち去った人間に名乗り出て欲しいと言うのだ。父親の目的とは――。

あの緊迫した状況の中で、メールで犯人とやり取りするっていうのが、なんとも今風というか、
私にはちょっと無理があるように感じてしまったのですけども。そんな状況でメールとか
打てるものなんでしょうかね。
万友美が、父親の小児科のHPに載せられた手紙を見ただけで、あそこまで推理出来たのも
すごいですが。人質の子どもを選ばせる手法にも感心しました。なるほどねぇ。でも、人質に
なった子どもは一生トラウマになりそうな気もするけれど・・・大丈夫かしら^^;でも、
なんだかんだで、すべてのきっかけになったのは万友美な訳で。実は魔性の女とも云えるのでは・・・。
しかし、好きな子の名前を書いたメモを亡くしただけで自殺されちゃ、教師なんかやってられない
ですよねぇ。先生は大変だな、と思いました。

『手に手を』
年老いた母を介護しながら、五十七歳になる知恵遅れの弟の面倒も見なければならない。わたしの
人生とは一体なんだろう。時おり、寝ている二人の首に手をかけようとする自分がいる。
弟と同居するようになって二年が経つが、彼が何を考えているのはわたしにはさっぱりわからない。
五十年来の幼馴染で母を診てくれる医師の蛯原によると、わたしは介護疲れでおかしくなって
いるらしい。身体中がかゆくて仕方がないのだ――。

母親と弟の面倒を一人でみている主人公の鬱屈とした心情が胸に迫って来て、痛々しくて
仕方がなかったです。こんな状況になったら、本当に何で自分が生きているのかわからなく
なってしまうだろうな・・・。主人公同様、弟の言動が意味不明でイラっとさせられたのですが、
彼は彼なりに、姉のことを思っていたことがわかって、少し救われた気持ちになりました。
そのやり方は大分間違っているような気がしましたが・・・。それでも、主人公には彼の
思いが届いたのだから、良かったです。


薄い本なのですぐ読めてしまいましたが、内容はぐっと凝縮して完成度が高かったと思います。
長岡さん、一作ごとに力をつけておられるようで、今後の活躍にも期待出来そうです。


小路幸也「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード 東京バンドワゴン」(集英社
年に一度のシリーズ新刊がでました。安定の面白さ。安定の大団円。期待に違わず、今回も
堀田家はLOVEが溢れていました。
しかし、夏の章には驚かされましたねぇ。古本屋『東京バンドワゴン』の歴史には、結構
きな臭いものが隠されていることは何度か過去に出て来ましたが、またとんでもない本が
収蔵されていたことがわかって、目が点に。イギリスの元秘密情報部員が書いた英国王室の
スキャンダル本とは・・・話がいきなりでかすぎ^^;;
勘一氏の父親・堀田草平氏、一体何者なんでしょうか^^;;
でも、更に驚いたのは、その話を聞いた85歳の勘一さんが、即行でロンドンに行くと
決めたこと。なんて行動力なんでしょう・・・いや、普通そんな簡単にチケット取れんだろう^^;
まぁ、その解決も含めて、そんなに上手く行かないだろう、とツッコミたくなること必死
ですが、そこはそれ。このシリーズだし、ね。
あと、今回特筆すべきは、花陽の学費をあの人が出したいと言い出したこと。いやいや、
普通そこまでしないだろう!とこれまたツッコミたくなること必死。いっそ変態だからって
言われた方がまだ納得出来るよ!(笑)。どんだけいい人なんだよ^^;花陽は本当に恵まれた子
ですねぇ。出生こそ恵まれなかったけれど。周りの大人たちが、みんな彼女を愛して心配
してくれるのだから。そして、本書で登場したボンさんの息子の麟太郎さんとはいい雰囲気に
なりそうで、これからの二人の恋愛にも目が離せませんね。ま、個人的には、藤島さんと
くっつけばいいのになーと思ってたりしたんですけど・・・お互いに、そこに恋愛感情は
なさそうなのがわかってしまったので、それはちょっと残念でした。
ボンさんの告白もショックでしたが、シリーズが長くなってくると、こういうことが
起きるのが普通な訳で。我南人さんより上の人たちは、みんないつそうなってもおかしく
ないですものね。その分、新しい命もまた増えましたし。シリーズが進むごとに、どんどん
新しいキャラが増えて行くので、人間関係整理が大変^^;冒頭に人物相関図があるのが
非常に有り難いです。
個人的には、各作品で必ず冒頭に挟まれる、朝ごはん風景がとても好きだったりします。
誰が誰に話しかけているのか、さっぱりわからなかったりもするんですけども。勘一さんが、
斬新な食べ合わせを考えだしては、マードックさんに嘆かれているお決まりのシーンにも
ニヤリとしちゃいます。鈴花ちゃんかんなちゃんの席決めも面白いですしね。こんな風に
みんなで朝ごはんを食べたら楽しそうだなぁ、と羨ましくなっちゃいます。堀田家は、いつも
幸せが溢れていて、読んでるこっちも幸せな気持ちにさせてくれます。なかなか今、こういう
お茶の間風景が個人の家庭で展開されるってないでしょうからね。少子化ですしね。
老いも若きも一緒くたになって生きて行ける、堀田家のみんながいつまでも幸せでいられるように、
願わずにはいられません。
次作では、花陽の受験の結果が出ますね。さて、桜は咲くでしょうか(ま、このシリーズで
落ちるって展開は考えにくいけれども)。
次作も楽しみです。