ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

薬丸岳「ラストナイト」/藤崎翔「こんにちは刑事(デカ)ちゃん」

残暑厳しい日が続きますね。世間はお盆なんですよね~。
みなさん、お盆休みを取られるのでしょうか。うちは相方共々、特に関係なく。
夏休みはもう取っちゃったし。普段通りって感じです^^;


読了本は今回も二冊です。実は、その後読み始めた本が二冊あったんですが、どちらも
挫折してしまいまして・・・。1冊は世界観に入って行けず、もう1冊は文章自体が
どうにもこうにも受け入れられず。続けて二冊挫折っていうのは、自分史上でも
極めて珍しく、ちと本選ぶに自信をなくしている今日この頃・・・。ちなみに、
文章の方は、黒べる頻発作家、森晶麿さんの『怪物率』です。頑張って読みきったら、
年末の黒べるランキングのトップに躍り出ていたのかも・・・(残念?w)。



薬丸岳「ラストナイト」(実業之日本社
薬丸さんの最新作。相変わらず抜群のリーダビリティ。こういうの読んじゃった後だから、
余計に森さんの文章がキツかったのかもしれない^^;
居酒屋を営む菊池の店に、ある日一人の客がやって来た。顔中に刺青を入れた陰気な
この男は、かつての菊池の友人、片桐達夫だった。片桐は、刑務所から出所した
ばかりだという。32年前に菊池の店で傷害事件を起して以来、片桐は罪を犯しては
刑務所に入所し、服役してはまた罪を犯して捕まることを繰り返している。菊池は、
真っ当だった若いころの片桐を知っているだけに、更生してやり直して欲しいと思って
いるのだが、菊池の説得も虚しく、また罪を犯して捕まってしまう。彼はなぜこんな風に
罪を繰り返すのか――。
5人の視点から刺青男の片桐のことが語られて行きます。片桐視点がないところが、
この作品最大のポイントかもしれません。彼はなぜ、どうでもいいような罪を繰り返しては
刑務所の世話になってしまうのか。幸せの絶頂から突き落とされたことで、すべてが
嫌になり、人間性までもが歪んでしまったのか。
章が進むごとに、始めは最悪な人間に思えた片桐のことが、実は全く正反対の
人間なのではないかと思えて行きます。彼には何か意図があるのではないか。
実は、とても人情味に溢れた優しい男であることが言動から伺えて来るのです。
すべての章が、最後の荒木視点の章に繋がって行く。彼の意図が、最後にわかります。
あまりにも悲しいその理由に、胸が詰まりました。こんな悲しい復讐のやり方が
あるのかと、愕然としました。
どうしてもっと、違う人生が歩めなかったのだろう。彼のような人間が、こんな
生き方しか出来なかったのが、悔しくて、やるせなくて仕方なかったです。
結婚して子供が出来た時の、幸せの絶頂期があっただけに、その後の転落人生の
落差が激しすぎて悲しかったです。
娘のひかり視点の章が切なかったなぁ・・・。結局、最後まで誤解したままだし。
でも、荒木によって、近い将来、本当の片桐のことがわかってもらえる日が来そう
なのが、救いだと思いました。でも、ひかりはもっと早く知りたかったと
後悔するかもしれないけれど・・・。あんな風な別れは、悲し過ぎる。
親友だった菊池との関係も。片桐は、出所して彼の元に行く時だけが、癒やしの時間
だったのだろうと思うと、やりきれない。真実を打ち明けてしまえば、止められる
だけだろうし。菊池が作る焼きそばを、美味しそうに食べるシーンが胸に残りました。
片桐に、もっと違う人生を歩んで欲しかったな・・・。もっと幸せになって欲しかったです。
薬丸さんの中では、ページ数はさほど多くない部類に入ると思う。でも、内容は、
片桐達夫という男の人生のすべてが詰まった、とても重みがあって読み応えのある
作品でした。やはり、薬丸さんは巧いなぁ。


藤崎翔「こんにちは刑事(デカ)ちゃん」(中公文庫)
デビュー作の『神様の裏の顔』がなかなか面白かったのと、新聞広告を見て内容に
惹かれたのとで、借りてみることに。
この、人を食った(笑)タイトル通り、楽しいユーモアミステリでした。殉職したオッサン
刑事が、生まれたばかりの赤ちゃんに生まれ変わる、という、なんともトンデモない内容。
赤ちゃん言葉なのに、発言内容がオッサン・・・ぷぷぷ。
でも、設定はアホっぽいですが、意外とちゃんとミステリしてるところが良かった。
放火事件の真相とか、全然思いもしない展開になったし。あんよの章の宝探しのやつは
途中でオチが見えちゃったけど。羽田が殉職した事件も、逃走した犯人のことが
最後の章でちゃんとフォローされていたし。作品として、良く出来ていると思います。
基本は、アホみたいな内容ですけど(苦笑)。
羽田が、母親の明奈のために、必死で赤ちゃんのしぐさをマスターしようとするところが
笑えました。息子の正体を知ってしまった後輩刑事の慎平とのやり取りも良かったです。
赤ちゃんと殺人事件の真相を相談し合うって、傍から見たら、すごいシュールな光景
でしょうね^^;見た目と話す内容のギャップが激しすぎ(笑)。
この方って、確か元お笑い芸人やってたんですよね。所々で笑いのツボを抑えている辺り、
その辺がしっかり反映されているのかな、と思ったり。『いないいないばあ』を
エンドレスでやらなきゃいけない羽田の心の叫びに、ついつい笑ってしまいました。
ラストは、成仏出来るかと思った羽田に思わぬ展開が。これ一作で終わりかなと
思っていたので、こういう続け方があるのかーと意表をつかれました。しかし、次の
生まれ変わり先が○って(笑)。一応、ラスト1ページに次回作の予告が出ているので、
無事続きが刊行されればいいな、と思います。結構話題になってるみたいだから、
出版社からのNGはないと思うけれどね(本人のやる気に関しては、頑張って下さい
としかw)。