ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

霧舎巧「推理は一日二時間まで」/碧野圭「書店ガール5 ラノベとブンガク」

台風一過で暑い一日でしたねぇ。外出してたら、日差しがきつくて、くらくらしました。
昨夜は卓球女子団体の試合を最後まで観て寝不足だったし^^;
愛ちゃんの涙にぐっときたなぁ。佳純ちゃんの冷静さには脱帽だったし、
美誠ちゃんの度胸はあっぱれだったし。素晴らしいチームワークで勝ち取ったメダルでした。
あとはメダル期待のレスリングですね。アニキ(吉田沙保里さん)頑張れー。


読了本は二冊。


霧舎巧「推理は一日二時間まで」(光文社)
ひさーしぶりの霧舎さんの新作。とにかく、新刊が出たというだけでテンション↑。
が、しかーし。内容は、うーん・・・び、微妙・・・・。
廃業したカラオケBOXを居抜きで買い取った鞠生美貴は、個室を『秘密基地』と称した
レンタルスペースとして貸し出している。ネットで募集をかけるやいなや、借り手は
あっという間に集まり、部屋はすべてうまっている状態だ。しかし、借り手はみんな
いわゆる『オタク』と呼ばれる人間ばかり。数々の問題行動を起しては、美貴の手を
煩わせている。ある日、入居希望の土佐垣という男がやって来て、美貴のパソコンが
何者かにハッキングされているのではないかと言う。土佐垣は、ネットセキュリティに
詳しいらしく、翌日もう一度来て詳しく診てくれた所、ネットバンクの使い捨てパスワード
の表示位置が変わっていることがわかった。何者かが美貴のパソコンに触れたのは
間違いないようなのだが・・・。
個性的なキャラ続出なのは良いのですが、それぞれに、いまいち魅力に欠けるというか、
あまり好感の持てる人物がいなかったのが痛かったです。あと、一作ごとの設定が
いまいちわかりにくいので、状況把握がし辛いのも、いまいちページが進まなかった
理由かも。読むのにやたらに時間がかかってしまった^^;
一番イラっとさせられたのが、ヒロイン美貴のキャラ造形。オーナーだから仕方が
ないのかもしれませんが、いちいち打算的で事なかれ主義な所が好きになれなかった。
厄介な住民たちが近所の人に迷惑がかからないように牽制するのは大事なことでは
あるけれど、だったらそもそも、なぜレンタルルームを『秘密基地』なんて名前に
したのか、その辺りの理由がよくわからない。保守的な考え方をする彼女なら、もっと
まともな人が集まる設定を考えても良さそうなものだけど。こういう募集をかける
オーナーならば、本人にもオタク要素がないと無理があるような気がするんですが・・・。
単純に、そういう設定なら人が集まると思っただけなのかなぁ。彼女のキャラは、どうも
最後まで掴みどころがなくて、よくわからないままでした。
なぜか一日二時間だけしか推理しない名探偵、高左右の正体はラストに判明。推理が一日
二時間しか出来ない理由も明かされます。高左右の存在自体には、作品全体に跨って
仕掛けが施されているので、その辺りは霧舎さんらしいトリッキーさで良かったと
思うのですが・・・いかんせん、基本の設定自体に入り込めなかったのもだから、いまいち
感心するところまではいかなかったなぁ。アナグラムも、ああ、そうなんだ、くらいの
印象しかなかったし^^;
各作品の出来が中途半端だから、一作通した仕掛けがあっても、それほど良い印象に
変わらなかったのかもしれないです。オタク人間たちがわいわいやってるところは、
それなりに楽しそうで良かったのですけども。でも、身近にこんな人たちがいたら、
多分引くなー^^;お近づきには、なりたくないです・・・。
ミステリとしては、ちょっと残念だったかな。期待していただけにね。
それでも、新刊が読めただけでも良かったな。ちゃんと作家活動していたんだなぁという、
ファンならではの安心感が味わえました(笑)。



碧野圭「書店ガール5 ラノベとブンガク」(PHP文芸文庫)
シリーズ最新作。前作から完全に主役が交代して、最初に主役だった亜紀や里子は
ほとんど出て来ません。今回主役の一人に抜擢された(?笑)伸光は亜紀の夫なので、
亜紀はまだ多少出て来るシーンがあるけど、里子に至っては、名前が一、二度出て来る
のみの扱い。一作目から追いかけているファンとしては、ちょっと寂しい気持ちもありますね。
でも、前作から主役を担っている彩加は好感の持てるキャラなので、彼女の店長としての
成長や葛藤を読むのも、それはそれで楽しい。特に、今回は茨城の取手店の店長として、
悩みながらも駅中の小さな店を少しづつ盛り立てて行くお話だったので、読んでいて爽快でした。
元カリスマPOP店員として、新人作家の作品を盛り上げて行く力量にも、彩加の書店員
としての優秀さが感じられてカッコ良かったですし。バイトの田中君の隠された裏の顔や、
文芸書好きの男性客の正体など、先が読みやすい展開のお話ではあったのですが、
書店員や出版社の編集者が、いかに一人の新人作家の作品を売り上げて行くのが大変か、
その過程が丁寧に描かれていて、本好きとしてはかなりのめり込んで読めました。
この間ドラマでやっていた重版出来!を思い出しました。田中君は、完全にあれに
出て来た無口で不器用な新人マンガ家の男の子を思い浮かべていましたね。
あと、大崎梢さんの本関係の各シリーズも、もちろん重なる部分が多かったです。
随分、内情が詳しくリアルに描かれているなぁと思いましたが、それもそのはず、
巻末の解説によると、碧野さんって、もともとラノベ雑誌の編集者をやっていらした方
なのですって。竹河聖風の大陸を担当していたなんて!姉が好きで、私も
読んでいたなぁ。懐かしい・・・。あと、私は読んでなかったけど、有名なあの
押井守機動警察パトレイバーなんかも担当していたのだそう。きっと、優秀な
編集者さんだったのだろうなぁ。
新人作家原のデビュー作がヒットして行く過程は、若干上手く行き過ぎなところも
ありますが、ラストの創刊一周年記念のパーティでの、両親に向けた挨拶には、
じーんと来ちゃいました。親にしてみれば、ニートだった息子がこんな立派なことを
公の場で言ってくれたら、そりゃ泣いちゃいますよねぇ。あと、地味に彼の弟君の
キャラがいい味出してて良かったな。
残念だったのは、彩加と、前作で出て来たトルコのパン屋さんの大田の仲にさほどの
進展がなかったこと。彩加も、もう少し積極的に行けばいいのになぁ。といっても、
遠距離だし、彩加の仕事を考えると、結婚とかまで発展するには、なかなかハードルが
高そうですけども。次回は、その辺にもドラマがあるといいな。
あ、あと、もう一つ気になったのは、彩加が、文芸好きの中年男性客に本をお薦めする場面。
奥泉光池澤夏樹熊谷達也といった作家が好きな人に、辻村(深月)さんの『朝が来る』
を薦めるってのはどうなんだ^^;系統が違い過ぎないだろうか?私だったら、絶対しない
チョイスだなぁと思いました。ま、今回は気に入ってもらえたから良かったですけど。
内容が内容なんでねぇ。男性にお薦めすること自体がどうなんだろう、かなり冒険なのでは、
と思ってしまいました。
でも、こうやって具体的な著者名や作品名が出て来て、それが自分の読んだ作品だったり
好きな作家だったりすると妙に嬉しかったりしますね。そういうところも、本好き読者の
共感を得られやすい作品になっているのかな、と思いました。
ラノベケータイ小説事情はよくしらないけど、その辺りの内情描写もリアルでしたね。
本好きのツボをくすぐる作品なのではないでしょうか。