ミステリ読書録

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アミの会(仮)/「毒殺協奏曲」/原書房刊

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アミの会(仮)「毒殺協奏曲」。

致死量に詳しすぎる女、正統派の毒殺、ネットで知り合った女、身近すぎる毒、毒より恐ろしい偶然
…サスペンスから本格まで、一冊に閉じ込めたバラエティ豊かな毒物語集(紹介文抜粋)。


『アミの会(仮)』による、アンソロジー第二弾。『アミの会(仮)』というのは、女性の作家さん
たちが集まってごはんを食べたり、お酒を飲んだりする会だそうなのですが、今回は、男性作家
さんも二人参加されています。以前、このアミの会(仮)で出した『捨てる』をテーマにした
アンソロジーを読んだのですが、なかなか豪華なメンバーでどれも楽しめたので、第二弾も借りて
みました。
今回のテーマはズバリ『毒殺』。あとがきで新津さんもおっしゃっているように、『毒』ではなく、
『毒殺』というところが、ポイントとなっているでしょうか。
各作家さんが様々な角度から『毒殺』というテーマに切り込んでいるのが面白かったです。
そういえば、前作の『捨てる』の記事中で私がダントツに出来がいいと思った永嶋恵美さんの
『ババ抜き』が、推理作家協会賞の短編賞を受賞したそうです。納得の受賞だと思いました。


では、各作品の感想を。

永嶋恵美『伴走者』
音楽教師の北上先生が、文化祭の合唱部のステージ発表直前にステージ裏で吐いて倒れていた。
学校側の説明では、花粉症の点鼻薬と消毒薬を取り間違えて服用したとのことだったが、
生徒たちの間では毒殺されたのではないかと噂になっていた。犯人の意図とは――。
被害者は自業自得だと思うけど、犯人の意図を知っていて止めなかった科学部の顧問大井先生
もどうかと思いました。犯人に実行させないように、もっと何らかの手は打てたのでは・・・。
あと、ラストの、犯人が主人公に用意した譜面の歌ってどういうことだったんでしょう。
ちょっと、意味がわからなかった・・・(アホ)。

柴田よしき『猫は毒殺に関与しない』
売れっ子作家の四方幸江が開いた水餃子パーティで、読者代表の女性がイカ墨餃子を食べて
倒れた。自宅を提供した作家の桜川ひとみは、四方から、自分の身近にネットで自分のことを
誹謗中傷している人物がいるらしいと相談を受けていた。容疑者らしき人々を集めた今回の
パーティで起きた事件。犯人は、四方を狙って餃子に毒を仕込んでいたのだろうか――。
これは、多分シリーズものですよね。正太郎って、何かタイトルみたことある。主人公の
キャラが面白いですね。今回はあんまり正太郎君は活躍してないけど(タイトル通り)。
犯人が本当に狙いたかった人物が意外でした。毒殺事件の方の真相はあっけなかったけど。
なかなかおもしろかった。

新津きよみ『罪を認めてください』
実家の庭で猫が死んでいた。そばには、猫の飼い主と思しき70代の女性が猫の死骸を前に
嗚咽を漏らしていた。飼い主の女性は、自分の猫は毒殺されたのであり、犯人もわかっている、
警察に訴えるので直美にも協力して欲しいという。飼猫を我が子のように扱う飼い主の女性に
異常なものを感じる直美だったが――。
ペットを我が子のように思う飼い主の気持ちはわかるものの、この飼い主の執念にはちょっと
背筋が寒くなるものがありました。その執着の理由は最後に明かされるのですけどね。それも、
完全に妄想の世界だし。うちの庭も猫に糞されて大変だった経験があるので、犯人の気持ちも
わからなくはないけど、毒殺はやっぱりやりすぎですね。どっちもどっちで嫌悪しか覚えなかった
です。

有栖川有栖『劇的な幕切れ』
ネットの自殺サイトで知り合った<ソトマチ>と<パープル>は、二人で服毒自殺をする為、
山に登ることに。しかし、肝心なところで大地震が起こり、<パープル>の気が変わってしまう。
突然の心変わりに腹を立てた<ソトマチ>は、<パープル>が持っていた毒を奪い、突然湧き
起こったある野望を実現しようと目論むのだが――。
途中、完全に作者にミスリードされてました。ラスト、こう来たか、という感じ。後味悪っ。
劇的な幕切れ、というのが、こういう意味だとは思わなかったなぁ。

松村比呂美『ナザル』
希江は、図書館でPTA仲間の瞳が毒に関する書物を借りているのを目撃する。そのひと月半後、
瞳の同居している叔父が食中毒で亡くなり、高級住宅街の一戸建てに引っ越すことになったと知る。
希江は、瞳の叔父がアルコール中毒で、瞳の家族をずっと困らせていたことを知っていたので、
叔父は保険金目当てに毒殺されたのではないかという疑いを持つのだが――。
希江の瞳に対する醜い嫉妬と執着には、ほとほと嫌気がさしました。他人の不幸を喜び、
他人の幸せを妬む。自分より下に見ていた人間が、自分より遥かに上の暮らしをしようとしたら、
確かに嫉妬心が芽生えるでしょうけどもね。
叔父の死の真相も意外でしたし、この上もなくイヤ~な気持ちになれるイヤミスとして、
完成度の高い作品だと思いました。

小林泰三『吹雪の朝』
台風が嫌いな登美子は、台風が来ない土地にあるという夫の実家に移り住むことを了承した。
しかし、住んでみて、確かにこの土地には台風は来ないが、冬場に台風よりも厄介な被害を
齎すこともある爆弾低気圧が来ることを知った。
そんな冬の嵐が来ていたある日、夫の元恋人の女が、友人たちを連れて登美子の家にやって
来た。温泉を探している途中でタイヤのチェーンが切れて立ち往生しているところに、登美子の
家があったという。仕方なく一晩泊めることにしたのだが、翌日の朝夫が心肺停止で倒れて
いるのを発見する。誰かが毒を盛ったのではないかと疑う登美子だったが――。
好感の持てる人物が全く出て来ないので、嫌な気持ちで読んでいたのですが、ラストは
予想外の展開になって驚かされました。こんな大それたお仕置きあるかい。ミステリとしては、
さすがの出来だと思いましたけどね。

篠田真由美『完璧な蒐集』
懇意にしていた蒐集家の叔父が、若い女性と結婚した。しかし、それからしばらくして叔父が
自殺したとの報告を受けた。叔父の生前、私は叔父からコレクションの一部を遺贈することを
打ち明けられていたのだが、弁護士が見せて来た書類には、すべての遺産は妻に相続される
旨が書かれていた。叔父の死に不審なものを感じた私は、叔父が大事にしていたビスクドール
買った骨董屋を訪れるのだが――。
何か、この骨董屋さんには覚えがあるなぁと思っていたら、前作の『捨てる』の時に出て来た
骨董屋さんと同じですよね。シリーズ化されたってことなんですかね。叔父が目指した完璧な
蒐集にはただただ目が点。狂ってるとしか言い様がありませんね・・・。

光原百合『三人の女の物語』
三人の女の『毒殺』にまつわる物語。
私は、二番目の『ある姫君の物語』が好きですね。あの名作童話にこういう裏話があったら・・・
と思うと、ニヤリとします。ディズニー辺りで映画化されそう(実際、この童話も実写映画化
されてはいるけど)。
王妃のキャラがいいなぁと。マレフィセント思い出しましたねー。
最後の『ある人妻の物語』は、こんな性癖を持った夫はイヤだー^^;どんなに愛していても、
殺されたくはないよー(><)。