ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

阿部智里「烏に単は似合わない」/「自薦THEどんでん返し」

台風一過で残暑が厳しいですねぇ。先日の台風、東京の方は思った程被害がなかった
けれど、東北から上の方の被害は酷いですね・・・。
今年は本当に異常気象という感じがします。何かあるのかな・・・怖い(><)。
今日は防災の日でもありますし、改めて日頃から防災の意識を持つことを心がけなくては、
と思わされました。


読了本は今回も二冊。


阿部智里「烏に単は似合わない」(文藝春秋
読んだ方がこぞって絶賛されているシリーズに初挑戦。時代ものということで躊躇
していたのだけれど、時代物にしては読みやすいとの情報を頂き、思い切って手を
出してみました。
うん、面白かったです!思い切って読んでみて良かったです。確かに読みやすかった。
ただ、やっぱり時代物特有の階級制度の複雑さ、名前の読みにくさ、人間関係のわかりにくさ、
といったものは、ちょこちょこ読書の邪魔をしたりはしましたけれども。それでも、
ストーリーの面白さでぐいぐい読ませる面白さがありました。
後宮小説酒見賢一)』+大奥+『テンペスト(池永永一)』って感じかしら。
日嗣の御子(若宮)を巡る、貴族の女四人による后選びバトル。お家の為になんとしても
后になりたい女、姉の代わりになんとなく立候補させられてしまった女、
后にはそれほど興味がないが家の関係で仕方なく立候補させられた女、
若宮を愛するが故に后になりたい女。それぞれの思惑が交錯して、熾烈な
バトルが繰り広げられます。
それぞれに個性的なキャラだったんですが、面白いのは、最初の印象と読み終えた後の
印象が、それぞれにみんな違っていたところ。良くなった人物もいますし、最悪になった
人物もいます。内面描写があることで、良くなった人物もいますが、最悪になった人物は、
内面描写からは全くその心の醜さが伺えなかったところが、作者の巧いところ。最後、
ガツーンとやられました。
っていうか、この作品で何が驚いたって、最後にいきなりミステリー小説になったところ
ですよ。まさか、こういうどんでん返しがあるとは全く思っていなかったので、かなり
意表をつかれました。ファンタジー混じりの時代小説としか思っていなかったので。
みなさんの絶賛の理由はここにあるのか!と思いました。最後まで読むと、プロローグから
ちゃんと仕掛けが施されていることがわかります。それにしても、あの人物の真の顔には
びっくり・・・だって、絶対最後は少女漫画的な展開になると思っていたのだもの。
いや、ある意味、少女漫画的なラストではあったのだけど。それは、私の予想とは
大きく違っていました。
まぁ、ここまでひっくり返してもらえると、かえって爽快な気持ちになりますね。
しかし、びっくりしたなあ・・・。若宮がちっとも四人の后候補の前に姿を現さない理由も、
全然思っていたのと違っていたし。終盤で突然姿を表したと思ったら、結構な毒舌家で
予想外のキャラだったしなぁ。終盤の畳み掛けるようなどんでん返しの連続には、
ほんとに目が点というしかなかったな。
ただ、気になる点がないでもないのだけど。人間が烏に変身出来るって設定も、必要
なのかちょっと疑問だったし。そんなファンタジックな設定入れなくても、成立する話
ではある気がするのだけど・・・。そういう、余分な設定を入れたせいで、ストーリーが少し
わかりにくくなってしまったように思いました。その辺は、この先の作品でもっと生かされて
くるのかもしれませんけどね。
ちょっと、全体的に状況描写なんかがわかりにくかった印象はありましたね。時代設定が
時代設定というのもあるとは思いますけども。だから時代物は苦手なのよね(単に私の
読解力の問題だと思われ・・・←阿呆)。
あと、できれば、名前とか建物の名称とかのルビは、定期的に振って欲しい。
すぐ忘れちゃうんだもの。昔の名前とか名称って読み方難しいし。毎回振れとは
言わないけど、章が変わるごとには振って欲しいなぁ。わがままかしら。
それでも、その辺を差し引いても、十分面白く読めました。とにかく、ラストのどんでん返し
にヤラれてしまった。意表をつかれたとしか言い様がない。
早速、次の巻も予約しちゃいました。若宮とあの女性とのこれからも気になりますしね。
ただ、人気あるので、回って来るのにまた半年以上はかかりそうですけれど^^;
もちろん、シリーズ制覇する気まんまんです!続きも楽しみ~。お薦めして下さった
sinobuさん、ありがとうございました^^


「自薦THEどんでん返し」(双葉文庫
各作家に、『どんでん返し』をテーマに自作の短編作品を自薦してもらったアンソロジー作品。
どんでん返し大好きな上、寄稿作家がすべて好きな作家。これは読むしかない!と勢い勇んで
借りてみました。それぞれの作家の特色が良く出ていたように思いますね。ただ、『どんでん返し』
という程あっと言わせるオチだったものは少なかったかなぁ。今回収録された全作品よりも、
阿部さんの作品のラストの方がよっぽどインパクトあった気がする(苦笑)。ま、そっちは
ミステリだと思って読んでなかったから、余計に意表をつかれたところがあったのだけどね。

では、各作品の短評を。

綾辻行人『再生』
先日読んだ『深泥丘奇談 続々』にも出て来た咲谷由伊がこちらにも!と思ったら、この作品、
私が読み逃している『眼球綺譚』の中の一編らしい。
気味悪そうな話ばかりっぽいので敬遠していたのだけども。このお話も、なかなかの
スプラッター系。身体の一部を切り落としても、再生してくる身体・・・うげ。
ラスト、そっちかい!って感じでしょうか(苦笑)。この状態で再生してもな・・・うへぇ。

有栖川有栖『書く機械(ライティング・マシン)』
世にも奇妙な物語系ですかね。そのまま、映像化出来そう。出版社の地下に、こんな
機械があったら・・・怖っ(><)。私だったら、いくら有名になれるとしても、
怖くて無理です。こんな極限状態だったら、パニックになっちゃって文章なんか書けそうに
ないですもん^^;

西澤保彦『アリバイ・ジ・アンビバレンス』
この状況がいかにも西澤さんらしいですね。こんな理由で殺人を犯す○○○○(漢字四文字)
がいるとは思えませんが・・・オチも西澤さんらしい。黒っ。

貫井徳郎『蝶番の問題』
吉祥院先輩久しぶりー!相変わらず傍若無人な人だなー。作中作の不自然さは感じて
いたものの、真相には全く気付けず。ちょっと前に読んだ似鳥さんの作品思い出しました。
しかし、これって、昔に読んだ犯人当て小説アンソロジーで読んだやつだったのよね。
再読なのに、全く推理出来なかった私って・・・(しーん)。

法月綸太郎カニバリズム小論』
実は、カニバリズム論部分がほとんどで、かなり退屈して読んでました。が、どんでん返し
という意味ではこれが一番だった。ラストであっと言わされました。さすがのりりん
大久保が女を食べた理由にも意表をつかれたし、語り手の正体にも驚かされました。

東川篤哉『藤枝邸の完全なる密室』
烏賊川市シリーズ。半倒叙ものとでもいいましょうか。犯人が気付かないうちに、もうひとつ
密室が出来ていた、という二重密室ものでもありますね。
面白いのは、頑張って作った犯人の密室方法を、鵜飼が全く問題にしていないところ。
そこ、一番重要なとこじゃん(笑)。


読み終えて解説部分を読んで、一番驚いたのは、収録作品、冒頭の綾辻さんのやつ以外
全部既読だったのに、読んでる間自分が全くそれに気づいてなかったこと。
どんだけ記憶力がないんだ、自分!
ま、まぁ、短編なんてこんなものよね!(え、違う?^^;;)