ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

読了本三冊。

こんばんは。ようやっと、少しづつ涼しくなって来ましたかねぇ。
夜になると、虫の声がうるさいくらいになりました。一日一日、秋が深まって
行きますね。十五夜の日は、台風が来ないといいけど・・・。


今回は三冊まとめて。今日もう一冊読み終えたのだけど。
一冊は期限切れで返してしまったので、うろ覚えの感想になってしまうかも。すみません^^;



ほしおさなえ活版印刷日月堂 星たちの栞」(ポプラ文庫)
ほしおさんの作品を読むのは、本当に久しぶり。これは、新聞広告で紹介を見て、
是非読んでみたい!と思っていた作品。本屋等でも、結構プッシュされて売られている
ようです。うん、書店員さんが薦めたいタイプの作品って感じ。本屋対象候補に挙がっても
おかしくないかも。個人的にも、とても好みの一作でした。
川越の町の片隅にひっそりと佇む活版印刷所、三日月堂。営業していた店主が亡くなり、
長らく空き家となっていた。川越の配送会社で働くシングルマザーの市倉ハルは、
ジョギング中に三日月堂に明かりが点っているのが目に入り、好奇心から覗いて見ると、
孫娘の弓子が祖父母の家の整理をしているところに出くわした。こちらに住むこと、
仕事を探していることを聞いたハルは、自分の運送会社のパートを紹介する。一緒に
働き始めた二人だったが、ハルは、一人息子が北海道の大学に受かり、この春から一人暮らしを
始めることになり、心寂しく思っていた。そんな中、ハルは森太郎の卒業祝いに、三日月堂特製
の名前入りのレターセットを渡すことを思いつく。ハルの力になりたい弓子は、祖父から
受け継いだ三日月堂印刷機を動かす決意をする――。
四作の短編が収められた連作短編集になっています。どのお話も心に残るものでしたし、
弓子さんの作る活版印刷物がとにかく素敵で、すっかり活版印刷の魅力の虜になって
しまいました。第一話のレターセットはもちろん、第二話のコースター、第三話の栞、
最終話の結婚式招待状、全部実物が見てみたくなりました。贈り物としても粋ですし、
もらった方も絶対贈り手の気持ちが伝わって嬉しいと思いました。
活字を一つ一つ拾う、という行為自体がすごく素敵だなぁと。一つ一つの文字を
大事にしている感じがするし、字それ自体が生き物のように生き生きしているように
思えて来ました。今はすべてがデジタル化しているけど、こういうアナログなものって、
やっぱり格別な良さがある。時代を超えて残して欲しいものだなぁとしみじみ思わされました。
最終話の結婚式の招待状は、活版印刷とデジタル技術を融合した新しいものだし、こういう形
なら現代でもいくらでもニーズはあるんじゃないかなぁ。ただ、残念なのは、その技術を
受け継ぐ人がいないってことで。そうやって、良いものがどんどん廃れて行ってしまうのは
悲しい限り。三日月堂は、孫娘の弓子さんがいたからまた息を吹き返すことが出来て、
本当に良かったと思う。
出て来る登場人物たちも素敵なキャラばかりで、読んでいてほっこり優しい気持ちに
なれました。これは是非シリーズ化して欲しいなぁ。活版印刷で刷った栞、私も
欲しいー。装丁もとっても綺麗。三話目にして表題作の、銀河鉄道の夜をイメージ
しているのかな。一つ一つの文字を星になぞらえているとも云えるでしょうし。
女性はもちろん、弓子さんでしょうね。
活版印刷についての豆知識も勉強になりました。文字のルビが宝石のルビィから
来ているとは知らなかったなぁ。へぇ☓20(笑)。
ほしおさん、昔に読んだミステリ・フロンティアの『ヘビイチゴサナトリウム』が
あんまりいい印象がなくって、その後一作二作読んだか読まなかったかくらいだったの
だけど、最近はこういうお話を書かれていたのですね。未読の他の作品も読んでみようかな。
とっても素敵な作品でした。お薦めです。


坂木司女子的生活」(新潮社)
楽しみにしていた坂木さんの新刊。でも、ちょっと予想していたのと違う内容だったなぁ。
いや、面白くなかった訳じゃ決してないんだけども。読んでみて、タイトルの意味に納得。
女子的、生活ね。主人公のみきは、お洒落なガールズライフに憧れて東京に上京し、
SNSで知り合ったともちゃんと二人暮らしをしながら、アパレル会社で働く会社員。
しかし、ある日突然、ともちゃんが彼氏と住むと行って部屋を出て行ってしまう。
二人で折半していた家賃を一人で払うのは厳しいと思っていた矢先、高校の同級生の
後藤がみきに会いにやって来る。友人のヤミ金トラブルに巻き込まれて無宿無一文になり、
泊まるところもない為、昔のよしみで泊めて欲しいというのだ。ずうずうしい申し出に、
みきは取りつく島もなく一蹴するが、後藤の説得に負け一晩だけという条件で泊める
ことに。しかし、結局その後も後藤はずるずると居座り続け、住居費折半のこともあり、
結局一緒に住むことになってしまう。お洒落なものに囲まれて女子的生活謳歌する筈
だったのに――!
出だしは、みきの素性に全く気づかなかったです。こういう、ガールズライフを謳歌
するタイプの子っているよなぁ、くらいに思ってました。私には全くない要素なので、
みきの言動には正直あんまり(というかほとんど)共感出来なかったのですけど。
でも、彼女が『そういう子』だと知って、なるほど、と思いました。確かに、普通の
女子よりは、ふわふわ可愛くてお洒落なものが好きで当然なんだろうな、と納得しました。
みきの職場が、普通にみきを受け入れているところも、現代ならではなんだろうなぁ。
アパレル関係っていうのもあるし、もちろん、みきの人柄や仕事に対する姿勢も
あるのだろうとは思いますが。一昔前だったら、もっと差別されてるんじゃないのかな。
今は芸能人でもそっち系の人がたくさんいるし、こういう問題がメディアでもたくさん
取りざたされているから、受け入れる人が多くなっているんでしょうねぇ。
まぁ、みきのケースはそうした人たちの中でも、ちょっと特殊だと思うな。好きな相手が
女の子ってところだけ取れば、ノーマルな訳だし。見た目的な問題なだけで(いや、
そこが問題なのか?^^;)。
友人のかおりとの会話は、完全に普通の女子間のものと一緒で、違和感なかったです。
合コンでの女同士の火花の散らし合いが非常にリアルだった。女同士ってほんと、
面倒だなーって思いました。私はこういう腹蔵合戦とか、ほんと無理。アイコンタクト
なんて絶対気づかず、場の空気も読めずに、端っこの方でぽつんと座って終わりそう^^;
後藤とみきの同級生、高山田(ミニ―さん)の話は全く共感出来なかったなぁ。
こんなイヤな奴の為にいろいろしてあげる二人の気がしれない、と思いました。
後藤って、ほんと基本的にはいい奴なんだろうなぁ。ラストの話の、最後のセリフに
スカっとしました。後藤、よく言った!って拍手したくなりました。最初はこんな
ダメ男いないってくらい情けない奴かと思っていたので、いい意味で裏切られたな。
次に付き合う彼女がいい人だといいのだけど。みきのアドバイスでも聞いて、いい子を
見つけて欲しいな。
あんまり共感出来ない部分も多かったけど、最後は痛快に読み終えられて良かったです。


平山夢明「ヤギより上、猿より下」(文藝春秋
タイトルからして人を食った、平山さんの最新作。表紙もすごいけど(苦笑)。
相変わらず、装丁がペーパーバックみたいでお金かかってなさそう(かかってるのかも
しれないけど^^;)。カバーすらないという・・・。
四作が収録されていますが、全体的にちょっといつもの平山さんよりも食い足りない感じ。
エログロ満載の表題作が一番『らしさ』が出ていて、良かったと思います。
猿(正確にはオランウータンだけど^^;)やヤギと☓☓しちゃうっていう、獣姦小説。
・・・おいおい^^;でも、ラストは予想外にぐっと来たりして。こんな下品な小説
なのに、なぜか最後は感動(?w)できちゃうところが平山さんの凄さ。オチも痛快でしたしね。
ただまぁ、一般的には受け入れ難い話だろうなぁ・・・。
一作目の『パンちゃんとサンダル』児童虐待の話。こういう題材ってだけでも、
気が滅入るのに、内容もとことん救いがない。やっと手を差し伸べてくれる人が
現れたかと思いきや・・・あのどん底に突き落とす手紙。酷すぎ。まぁ、言っている
こと自体は正論ではありますけど・・・主人公のタクムが強く生きる為のきっかけには
なったでしょうしね。将来、父親の反撃に遭わないことを祈るのみです。
二作目の『婆と輪舞曲』は、娘が失踪していなくなり、妄想に囚われるようになった
婆の世話をする男の話。ラストは急速にミステリ的な収拾がついて、おっ!となるんだけど、
ちょっとわかりにくかったのが残念だった。
三作目の『陽気な蝿は二度、蛆を踏む』は、自分の息子を殺す羽目になった殺し屋の話。
ラストはもうひとひねりあるかと思ったんだけどな。そのままでちょっと拍子抜け。
主人公が殺し屋でさえなければ、もっと違った未来があっただろうにな。お互いに、
素直になれれば良かったのに。主人公は、こうする意外になかったのだろうけれど。
皮肉なラストに、やりきれない気持ちになりました。
なんといっても、表題作が秀逸ですね。平山ファンなら絶対、この話が一番好きだと思う。
よくもまぁ、編集者に止められなかったものだと思うけど(笑)。この自由な発想が
平山さんらしい。天才だわ。
ラストの、

『ごらん・・・あれがマラカイボの灯台だよ』

なんて名言なの!

・・・と、思うかどうかは、平山ファンかそうでないかによるかもしれません(笑)。