ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

読了本三冊。

どうもどうも。
先日から続く予約本ラッシュを乗り切るべく、あれからひたすら本を読んでおります。
今日は二冊読み終えました。どうした、私。やればできるんじゃないかー(笑)。
今日も二冊引き取ってきまして、回ってきている本は残り7冊。一時は11冊ほど
あったので、ちょっとづつ減らしているところであります(ちなみに、手元にある本は
現在7冊。うち4冊読破)。
そういえば、先日アメトーークの読書芸人の回を観ていたら、メイプル超合金カズレーザー
平山(夢明)さんや若竹(七海)さんの作品を紹介していて嬉しかった。今年の5冊の中には倉知(淳)
さんの『幻獣遁走記』が入っていたしね(今更感はありますが)。カズレーザーの印象が
一気に良くなってしまった(笑)。


という訳で、必死に読んで今回も三冊紹介。


佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」(新潮社)
お笑い芸人『アルコ&ピース』の深夜ラジオ(オールナイトニッポン)が好きな青年が
主人公の青春小説。
主人公の富山は、やりたいことが見つからないまま大学を休学し、とりあえず深夜の
コンビニバイトで生活しているモラトリアム人間。唯一の趣味といえば、深夜のラジオ
を聴くこと。とりわけ、お笑い芸人『アルコ&ピース』のラジオのコアなファン。
彼らの番組を聴くことだけが、今の彼を支えているといっても過言ではない。富山は
実はかつてラジオのはがき投稿の常連で、有名なはがき職人だった。しかし、ある出来事が
きっかけで、職人からは遠ざかっていた。しかし、アルピーの番組で少しづつ投稿を
復活させていたところだった。そんな彼が勤めるコンビニに、同じアルピー(アルコ&ピース
のラジオのヘビーリスナーだと思われる女子高生がやってくる。彼女との出会いが、
彼の人生を変えて行く・・・。
深夜ラジオといえば、私も学生時代はかなりのヘビーリスナーでした。オールナイトニッポン
よりは、TBS系のラジオばかり聴いていたのだけれど。だから、主人公の富山がラジオに
夢中になる気持ちはちょっとわかりました。とはいえ、始めは彼の人間嫌いで自分の殻に
閉じこもる内向きの性格があまり好きではなく、イライラムカムカしていました。
ただ、同じアルピーファンの女子高生佐古田さんや、同じコンビニバイトの鹿沢と
触れ合って行くうちに、次第に彼の言動にも変化が出て来て、少しづつ好感が持てる
ようになりました。特に、佐古田さんとのやり取りは良かったですね。女子高生っぽく
ない彼女のキャラクターも良かった。
作者の佐藤さんは、かなりコアなラジオ好きのようです。ま、そうじゃなきゃ、こんな
リアルな作品書けないよね。驚くのは、実際に放送されたアルコ&ピースの番組の内容が、
かなり詳細に出て来る点。聴いていたリスナーなら、さぞかし嬉しい作品じゃないだろうか。
恥ずかしながら、個人的にこの芸人さんのことをほとんど知りませんで、ちょっとピンと
来なかったのだけども。作品読んでいて、実際の番組を生で聴いてみたくなりました。
ラジオ自体は、最近も夕食作る時に常にかけています。今は相方の影響でFM東京ばかり。
いつも聴く時間帯のパーソナリティー、元吉本芸人である、マンボウやしろさんのことも、
ラジオで初めて知りました。ネットで本人の写真観て、こんな顔してたのか!と驚いたという(笑)。
一人で家にいる時、人の声が聴こえるって、何かすごく安心するんですよね。声だけって
いうのがまた想像力を掻き立てるから良いのよね。テレビとはまた違った魅力がラジオには
あると思います。そんなラジオの魅力が詰まった1冊でした。面白かったです。


早見和真「小説王」(小学館
何の予備知識もなかったのですが、新刊案内のあらすじを読んで面白そうだったので
予約してみました。
本好きの私にはまさにドンピシャの内容。以前に読んだ大崎梢さんの『クローバー・レイン』
みたいな、売れない小説家と編集者がタッグを組んで、1冊の傑作本を作り上げるエンタメ色の
強い一作。主人公の一人、文芸編集者の俊太郎が非情に熱い性格で、もう一人の主人公である、
幼馴染の小説家・豊隆の作品を本にするんだ、という熱い思いがどのシーンでも迸っていて、
いい意味で読んでいて暑苦しい(笑)。それだけに、何度も胸が熱くなりました。
良い作品を作り上げる為、二人は何度も衝突を繰り返す。それでも、お互いにお互いを信頼
し合っているのが伺えて、彼らは本当に真剣に1冊の本と向き合っているのだな、ということが
行間から伝わって来ました。文芸の編集者がみんなこんなに熱い思いで作家と向き合って
いるのかはわからないけど、きっとこういう思いで作った本が、たくさん傑作として上梓
されているのだろうと思う。本を作るのって、こんなに大変なんだ、というのがよくわかり
ました。作品として、目新しいテーマではないと思うのだけど、こういう作品は、やっぱり
本好きにとっては胸を打ちますね。出て来る登場人物みんなが、本が好きっていうのが
伝わって来る。確かに、本書でも本屋の衰退が著しく、俊太郎が勤める大手出版社も、
売上減少による雑誌休刊が問題になったりするシーンが出て来ます。それでも、こんな風に
1冊の本を作り上げる為に作家や編集者たちが熱い思いをぶつけあっている世界があるなら、
出版業界も何かが変わって行くのではないか、とほんの少し希望が持てるようなお話でした。
出版業界に未来はない、と言い張る人もいるかもしれないけれど、本で救われた人も
世の中にはたくさんいる。私だってその一人だし。本がなかったら、もっとずっと
つまらなくて暗い人生だったと思う。いつの時代も、本の、文章の力は絶大だと思う。
こういう作品は、いかにも本屋大賞向きって感じがしますねぇ。書店員が強く推しそう。
そういえば、表紙と中のイラストは、『編集王』という漫画から抜粋しているらしい。
作中にもその漫画のことがちらっと出て来ますし。私は存じ上げなかったのだけど、
相当有名な作品だそうで。ただ、作者の土田さんは、残念ながら亡くなられているそうですね。
もし、ご存命であれば、きっと作品を読まれて喜ばれたのではないかしら。
出て来るキャラクターたちも魅力的で、私は特に俊太郎の息子の悠(しずか)が好きだったな。
作家の内山も、最初は嫌味なだけの大御所かと思ったけど、意外といい奴で良かった。
いい本を作るということにとことん拘った熱きエンタメ作品。
本好きなら間違いなく楽しめるでしょう。


我孫子武丸「裁く眼」(文藝春秋
我孫子さんの最新作。しがない似顔絵描きの主人公鉄雄が、ひょんなことから殺人事件の裁判の
法廷画を描くことになり、それがきっかけで事件に巻き込まれて行く、というのが大まかなあらすじ。
法廷画家を主人公にした作品っていうのは、初めて読みますね。まぁ、鉄雄の場合、たまたま
ある裁判の法廷画を描くことになった、というだけではあるのですが。
私がテレビで観る法廷画って、そこまで細部に拘った絵だった覚えがないのだけど。ちょっと、
くせのある絵を描く人が多い気がする。
読みやすいからサクサク読み進められました。鉄雄が、頭を殴られて殺されかけたにも関わらず、
その翌日仕事に行くところには、あり得ない~と思っちゃいましたけど。死ぬよ^^;
事件の犯人のことは、出て来たこと自体をすっかり忘れていたのだけど、確かに、登場シーンは
怪しいな、こいつ、と思っていた人物ではあったんですよね。犯人の身勝手で思い込みの
激しい動機には辟易しました。
それにしても、気になるのは佐藤美里亜の裁判の行方。まぁ、おそらく、判定はその後控訴
されて覆ると思うけども。こういう魔性の女っていますよねぇ。美里亜の場合は美人だから
まだ理解出来るけど、なぜか全く外見が良くなくても、男を手玉に取る能力には長けた女が
いたりするのだから、よくわからない。いつも不思議なのは、どう考えても相手の言動は
おかしいのに、信じて騙されてしまう男の心理。ま、それは結婚詐欺師に騙される女性側
にも云えることなんだけども。よっぽど話が上手いんだろうなぁ・・・。
裁判が進むごとに、鉄雄殺害未遂の事件の方も少しづつ真相がわかって行く形なので、
ハラハラしながら飽きずに読めました。
何といっても、鉄雄の姪の蘭花のキャラクターが良かったですね。好奇心旺盛で行動力があって。
無鉄砲なところにはハラハラさせられましたけど。うだつの上がらない半引きこもりのような
叔父さんを、ここまで大事に思ってくれる姪なんて、なかなかいないと思うぞ。
彼女が叔父さんの事件を相談する交番の巡査たちとの関係も良かったですね。まぁ、普通は
こんな風に親身に付き合ってくれないだろうけど・・・^^;いい人たちで良かったよ。
鉄雄の能力にはいまいちピンと来なかったんだけど、観る人が観ると鉄雄の絵は何かが
違うんだろうなぁと思いました。
ラストはあれ、ここで終わり?って感じでちょっと拍子抜けではありましたけど、
ミステリとしては、まずまず面白かったのでまぁ、いいかって感じでした。鉄雄は今後も
法定画家を続けるのかなぁ。彼の能力のことを考えると、もう辞めた方が良いような^^;
蘭花がまた心配するしね。鉄雄のキャラはどうでもいいんですけど(女の趣味も悪いし)、
蘭花のキャラはまた登場させて欲しいなーと思いました。