ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖「狩人の悪夢」/柴田よしき「さまよえる古道具屋の物語」

どうもこんばんはー。三寒四温とはよく言ったもので、ほんとに寒かったり
暖かかったり、一日ごとに気温が上下していて、忙しい天気が続いてますねぇ。
我が相方はついにアレが始まったようでして、目がかゆい、かゆいと朝から
喚いてます。気の毒ですが、花粉症ではない私にはその辛さはイマイチわからず・・・。
家庭内温度差に悩める我が家なのでありました。


読了本二冊です。


有栖川有栖「狩人の悪夢」(角川書店
火村シリーズ最新刊。今回も前作に続き長編。私は、個人的にはこのシリーズは
短編の方が好きなのだけれど(火村シリーズ=短編、江神シリーズ=長編、みたいな
印象が強いので)。
前作ではアリスがかなり頑張ってて、火村センセの出番が少なかったのがちょっと
残念だったのですが、今回は結構前半からがっつり登場してくれてます。最初の方に
出てきた、アリスと火村センセが偶然駅で出会う場面が嬉しかったな。准教授が
急いでて、すぐに別れちゃったけど。普段気軽に会えない距離にいる二人なんだけど、
こういう、何気ない日常で思わぬ場所でばったりニアミスするところが、運命めいて
いる感じがして嬉しいっていうか。アホなファンですみません・・・。
人気作家から、寝ると必ず悪夢を見る部屋がある別荘に招待されたアリスが、殺人事件に
遭遇するというのが大筋(大雑把すぎ?^^;)。現場は、落雷によって大木が倒れ、
道が塞がれている為、外部から人が入って来れなくなってしまっている状況。いわゆる、
クローズドサークルものですね。この状況によって、犯人たり得る人物は6人だけ。
寝ると必ず悪夢を見る部屋なんて、私だったら絶対泊まりたくないなぁ。そう言われたら、
嫌でも気になって悪夢を見そうだし・・・。そこに寝たアリスが悪夢を見たのかは、
読んで確かめてもらう方がいいでしょう。多分、准教授だったら間違いなく悪夢を
見たのだろうなぁ・・・。日頃から、悪夢でうなされているみたいだから・・・。
下宿屋の時枝さんじゃなくても、心配になるわ。
ミステリの展開としては、ちょっと中だるみしていたかなぁ。終盤のロジックは
丁寧でいいのだけれど、犯人はやっぱりなーって人物でした。犯人解明の鍵となる、
ある言葉にちょっと、古臭さを感じたのだけど・・・。このシリーズ、リアルタイムで
時代は変わっているのに、キャラたちだけが年を取らずにそのまま登場しているから、
何か最近違和感を覚えてしまうのですよね。シリーズが始まって25年が経って
いるのに、本人たちはまだ34歳とか。読み始めた時は私の方が若かったのに~・・・。
もちろん、リアルタイムで年を取らせて欲しいとも思わないのだけどさ。有栖川
さんとしては、進化している科学捜査や、携帯やパソコンの普及に沿ったトリック
に対応しているのだとは思うのですけどね。長く続けるシリーズとしては、難しい
ところですよね。
話が逸れましたが、ミステリとしてはかなりオーソドックスな謎解きだと思います。もう
一捻りあったら良かったかなーとも思ったのですが、今回の作品の読みどころは、やっぱり
終盤の、犯人と火村&アリスの対決かな。火村先生が犯人の犯行を暴くのはいつもの通り
なのですが、犯人を追い詰める役が、准教授からの指名により、途中でアリスに
変わるんです。これには理由があって、アリスからの言葉の方が、犯人の心に深く
刺さるからなのだと思う。表向きの理由は、准教授の喉が枯れて来たから、
だったのだけど。重要な場面をアリスに譲る(?)のは、それだけ火村
先生がアリスのことを信頼しているからだと思う。二人の絆を強く感じました。
あと、アリスがちょこちょこ火村先生の健康を気遣って、心配しているところに
愛を感じたなー(いや、邪な意味じゃないよ!友情の愛の方だから!←何の言い訳?)。
あと、最後の最後で、驚きの幸せニュースが飛び込みます。えぇ!まじかー!
と思いました。先日読んだ東野さんの新刊と同じじゃんか^^;唐突だったけど、
幸せオーラいっぱいで読み終えられたのは良かったです。
火村先生の悪夢の理由も、少しづつ明らかになって行きそうな気配。でも、
あとがき読むと、まだまだシリーズは続きそうで安心しました。
装丁も素敵。情報によると、カバー外すと更に素敵らしい。今度本屋で確認しよう。


柴田よしき「さまよえる古道具屋の物語」(新潮社)
柴田さんは内容を見て読んだり読まなかったりの作家さんなのだけど、今回は
タイトルから面白そうな雰囲気があったので借りてみました。タイトル通りと言えば
タイトル通りの内容なのだけど、読み進めて行くと、予想外の展開になっていって、
かなり驚かされました。最初は、神出鬼没の古道具屋に迷い込んだ各主人公たちが、
そこで古道具を買ったことによって小さな幸せを手にする、ほのぼの系の連作短編集
なのかと思っていたのだけど。現に、一作目は、そんな感じのお話になっている。
でも、二作目から震災の話が出て来て、ちょっと雰囲気が変わる。そこから
先のお話は、主人公のエピソードと絡めながら、古道具屋自体の謎に迫って行く形に
なっていきます。特に、古道具屋の店主が、最初はぶっきらぼうだけど客に良いものを
買わせる『いい人』から、裏の顔があって得体の知れない『怖い人』のように
変化していくところが、ちょっとしたホラーっぽかった。店主の思惑が何なのか
わからなくてぞーっとしたし。ハットリくんのお面のような顔ってのも不気味だったし。
なんとなく、『20世紀少年』の『トモダチ』を思い出したのですけどね。
でも、最後まで読むと、すべての謎に理由があり、溜飲が下がりました。店主の
正体にはビックリしたな。単に、ファンタジックな設定で終始するかと思いきや。
古道具屋が現れるようになった理由には切ない気持ちになりました。こんな切実な
思いが絡んでいたのだとは・・・。
各作品の主人公たちは、突然目の前に現れた謎の古道具屋に入って、なぜか自分の
意思とは無関係に、必要のないガラクタのような古道具を買わされてしまいます。
文章と挿絵が逆さまに印刷された本、お金を入れる口のない金色の豚の貯金箱、
ポケットの底が破けた無地のエプロン、取っ手のついていないコークスバケツ・・・。
彼らがそれぞれを手にしたのには、それぞれに理由があった――。
古道具屋の客たちが一同に会する終盤は、若干人物関係が混乱してわかりにくい
ところもあったのですが、ひとつひとつにきちんと意味があって繋がっていることが
わかり、すっきりしました。一話目の主人公、秀が年を取って三話目に再登場した時、
最初は嬉しかったのですが、一話目と三話目の間に秀の間に起きていた暗い出来事に
胸が苦しくなりました。でも、あんなエプロンを手にしてしまったら、私だって秀や彼の
妻と同じように、もっともっとと欲望が嵩んで行ったかもしれません。人間、どこまで
行ってもないものねだりなんでしょうね・・・。尽きない欲に溺れてしまうと、
ひどいしっぺ返しが来るという、教訓めいたお話だと思いました。
三話目の主人公・信也と彼の妻の関係には、ちょっと首を傾げてしまいました。
こんな形で夫婦関係を続けることに意味があるのかな、と理解出来なかったです。
でも、最後に彼らが出した決断は嬉しかったです。こういう夫婦の形もありなのかな。
最終的には全部の話が繋がって、古道具屋が存在した理由もすべてが明らかに
されます。各自が持つべき道具もそれぞれの元に収まったし。ファンタジックに
色んな場所に出没した理由も一応説明されてますし。良く出来ていると思いました。
ラストシーンの会話が切なかったな・・・。こんな小さな子供が、こんな決意を胸に
抱くなんて。ただただ切なく、その想いの優しさが悲しかったです。