ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦「悪魔を憐れむ」/長岡弘樹「時が見下ろす町」

こんばんは。今日で2月も終わりですねー。早っ。
先日、NHKで始まった『火花』観ました。何に驚いたって、あのうっすい本を
全10回の連ドラにしたってところ。どんだけ話ふくらませるつもりなんだか^^;
キャストは結構イメージ通りかなって感じがしました。林遣都君は映画のしをんさん原作の
『風が強く吹いている』の好演から、割合注目していた俳優さんだったので、これからの
演技が楽しみ。根暗な主人公を上手く演じてくれそうな気配。俳優さんの名前は
わからないけど、神谷役の方もイメージ合ってるなーと思いました。
細かい設定忘れちゃっててあんま比較出来ないのだけど、結構脚色されてるような?
あの神谷の衝撃のラストは変えてほしくないですけどねー。
そういえば、もう少しで又吉さんの第二作が新潮に載りますね。単行本になるのが
楽しみです。


読了本は今回も二冊です。


西澤保彦「悪魔を憐れむ」(幻冬舎
ほんっとーに、ひさーしぶりの、タックシリーズ。もうもう、作者さんってば、
シリーズのこと忘れちゃったかと思っていたわ。
モラトリアムが終わらないボアン先輩は置いといて、タック、タカチ、ウサコの
メインキャラはみんな目出度く大学を卒業。それぞれの道を歩き出しました。
といっても、タックは就職もせずに、アルバイトで糊口をしのぐ毎日なので、
大学時代とそう変わっていないけれど。タカチは、東京に出て就職。ウサコは、
大学院に。タックとタカチは遠距離恋愛中。ちなみに、ボアン先輩は卒業出来ず
未だに学生。三人が卒業してしまい、さすがに焦って、卒業に向けて日々活動中。
と、こんな感じで一話目がスタート。一作ごとに時が流れて行き、最終話では、
ボアン先輩も晴れて大学卒業、しかも就職も決まるという、おめでたい展開まで
進んで行きます。まぁ、卒業後の彼らの身の上に関しては、以前の作品でも
ちょこちょこ出て来てはいたようですが、何せ読んだのが昔過ぎて、全く
覚えていない^^;西澤さんのご厚意により、あとがきで今までの作品の
時系列がずらっと羅列されていて、初めて、こういう順番に事件が起こって
いたのか~!と気付かされたという。っていうか、刊行順もめちゃくちゃだし、
版元もバラバラだから、これで時系列順に覚えていられたら、その人は
天才だと思うよ・・・。なにせ、始めに出た筈の『解体諸因』が、シリーズ
10作中、7番目の出来事なんだもの^^;
でも、やっぱりこのシリーズは面白い。情けない主人公なのに、なぜかタックって
かっこよく思えちゃうんだよね。不思議だ。推理に関してはピカイチの才能が
あるからかな。
どれもさすがの読み応え。面白かったです。

 

軽く各作品の感想を。
『無間呪縛』
誰が泊まってもポルターガイストが起きる部屋があるという平塚刑事の実家に
やってきたタックとウサコ。平塚から、その部屋に泊まってその謎を解き明かして
欲しいと頼まれるのだが。
ポルターガイストの謎はあっさり解き明かされてしまい、ちょっと拍子抜け。ま、
そんなところだろうとは思いましたが。ただ、23年前に5歳の女の子が亡くなった
事件の真相には驚かされました。その犯人にも。やりきれないとしか言いようがない。
そして、ラスト、安定の○○オチ。ははは(乾いた笑い)。西澤さんで、このオチが
ない方が拍子抜けするようになってきた気もするけどね・・・。平塚刑事の母親の
キャラが、いかにも西澤さんって感じがしました。タカチがいないからって、タック
まで籠絡されそうになって!まったくもう。

 

『悪魔を憐れむ』
タカチが東京に行ってしまい、単位習得で忙しいボアン先輩にも、平塚刑事との
結婚話が進むウサコにもかまってもらえないタックは、一人で飲める行きつけの
居酒屋を開拓し、通いつめていた。店主の篠塚は安槻大のOBで、奥さんと思しき
女性と二人で店を切り盛りしていた。そんな中、篠塚から、安槻大の恩師が特定の
日に自殺する可能性があるから、見張っていて欲しい、と頼まれたタック。言われた
通り待機していたが、ほんの僅か目を話した隙に、本当に先生が飛び降り自殺をしてしまう。
老教師はなぜ自殺したのか――。
出て来る脇役キャラに誰一人好感が持てなかったです。居酒屋の夫婦ふたりの本性も
アレだったし・・・。特に、奥さんの方のお店とそれ以外での豹変っぷりがすごかった。
老教師の自殺の真相は意外でしたね。裏で手を引いていた真犯人の悪意がとにかく
胸糞悪かった。ま、被害者は多分に自業自得の面もあるけれど。でも、最後のオチは、
真犯人自身も因果応報に苦しめられていたことがわかって溜飲が下がりました。
しかし、一番何より驚いたのが、ウサコの結婚ですよ。展開早すぎッ^^;;

 

『意匠の切断』
お正月で安槻に戻って来たタカチと共に、佐伯刑事から一昨年に起きた猟奇殺人事件
の相談を受けたタック。類似の事件が立て続けに起きたのだという。手口は同じだが、
被害者に接点はなさそうな事件だったが、タカチはふたつの事件のある共通点に気付き
――。
タカチが気づいたふたつの事件の共通点、私も最初読んだ時、あれ?と思いました。
こんな動機で・・・とも思うけど、ある点に関してだけは、気持ちがわからない訳
でもない。私も身近でこういうのやられたら、腹が立って仕方がない方なんで。
ただまぁ、そういう人物に思い知らせる為の手段として猟奇殺人を犯すってのは
どう考えても異常だと思いますけど。もちろん、一番大きい動機は別にあるのだけど。
どちらにしても、身勝手な動機としか言い様がないですね。
タックとタカチがラブラブっぽいのが嬉しかったです・・・が、なんか、この
二人にこういう表現、似合わないな(苦笑)。

 

『死は天秤にかけられて』
無事大学を卒業し、奇跡的に就職も決まったというボアン先輩と久しぶりに居酒屋で
飲んでいたタック。トイレに入って出て来た時、電話で激昂している男を見かけ、
どこかで見た覚えがある気がするが、思い出せない。店主曰く、男は以前教師をして
いたのだという。その後ボアン先輩と話している最中、突然、男が正月にタカチが
安槻にやって来た時に、泊まっていたホテルで見かけたのだと気付く。しかし、その時、
男は不思議なことに、エレベータでホテルの9階に降りたり、7階に降りたり、
12階に降りたりしていた。同じホテルの階を複数行き来する男の謎とは――?
タックが推理した男の行動の理由には、なるほどー、と思ったものの、随分回り
くどいやり方のようにも思えました。ただ、女性の行動心理を見事についたやり方
なのは間違いない。全部の女性に当てはまる訳じゃなく、その女性の性格を見極めた
上でやってることなので、狡猾だなーと思いましたね。
しかし、ボアン先輩が女子校講師って大丈夫なんですかねぇ。就職後の話もあった
みたいだけど、全然覚えてないや。
それにしても、ボアン先輩がウサコの結婚を知るのはいつになるんでしょう。
なんか、子供が出来た頃にやっと教えられたりして。ちと可哀想な気も(苦笑)。



長岡弘樹「時が見下ろす町」(祥伝社
長岡さん最新作。一作目が医療に関係する話だったから、前作からの流れで今回も
医療系の短編ばかりを集めた作品集なのかと思ったら、全然違いました。今回は、
主人公はその都度変わりますが、複雑に時系列と人間関係が絡み合う、かなり
凝った構成の連作短編集。一作づつは単独作品として読めるのだけど、全体通して
いくつか共通点がある、リンク型の短編集というか。まず、全体通して同じ町が
舞台。そして、必ず登場するのが、数十年前からこの町に建っている『時世堂百貨店』
この百貨店の外壁に設置されている時計がもう一つの重要アイテム・・・と云える程
作中に出て来る訳でもないのだけど。最後まで読むと、タイトルの意味が生きて来る。
それぞれの作品は短いけれども、最後にあっと言わせるオチが用意されていて、
なかなか読ませてくれます。この短いページ数で、このクオリティはさすが。
前に出て来た人物が、時代設定を変えて登場したりして、人物相関図を書きたく
なってしまいました。ネット検索すれば誰かが書いてくれてそうな(他力本願)。
8編もあるので一作ごとの感想は省略するけれど、お気に入りは冒頭第一話の
『白い修道士』、第三話の『歪んだ走姿』、第五話の『撫子の予言』、第八話
『交点の香り』辺りかな。騙された、という意味では、第七話の『刃の行方』
捨てがたいけれど。
第一話の意味深な伏線が、八話に繋がっていたところには唸らされました。
こういう出会いがあったのかー。一話目は、ぶっきらぼうなキャラの孫が
思った以上に祖父母のことを思いやっているところにじーんと来ちゃいました。
三話の『歪んた~』は、自分の立場を捨ててまで、弱小駅伝部を救おうとした
監督の思いに胸が熱くなりました。結果として犯罪が暴かれることにもなったの
だけれど。この雁屋監督が、八話に出て来た守少年だったとは驚かされました。
五話の『撫子~』は、オチの木彫りの撫子の部分が好きだな。同棲しただけで、
入籍してもいないのにネームプレートの名字を変えるというのが解せなかったのだけど。
彼女の狙いを知って、納得。しかし、こんな名前の偶然あるんかい^^;
七話の『刃~』は、五木という名前に見覚えがあったのに、ああいう展開になったから
おかしいな、おかしいな、と思っていたのだけど・・・まさか、ああいうオチだとは。
ちなみに、五木は四話の『苦い確率』に出て来た丑倉組の営業部長。若い時は
いじめられていたんだねぇ・・・。
どの作品も、どれかの作品と人物のリンクがあるので、探しながら読むのも楽しい
かもしれません。ちょっと、頭の整理も必要かもだけど(え、私だけ?^^;)。