ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

井上真偽「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」/恩田陸「終りなき夜に生れつく」

どもども。今日は朝雪がちらつくかも、という予報でしたが、結局降ったのか
どうかよくわからないくらいで終わってしまいました。休みだった為起きるのが
いつもよりちょっと遅かったので、早朝に降ってたかもしれないですけど。
さすがに、これで雪は打ち止めかなぁ(東京の話ね)。もう寒いのヤダー。


読了本は今回も二冊でございます。


井上真偽「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」(講談社ノベルス
シリーズ二作目。前作はちょっと微妙な評価で終わってしまったのですけど、
図書館入荷してくれたので二作目にも手をつけてみることにしました。
ふむ。前作は中国語表記に拒否反応が出まして、ちょっと読みにくい印象が
強かったのですが、今回はそこが控えめで、前作よりもずっと読みやすかった
です。
今回、中国人美女のフーリンは、ある旧家の結婚式に参列することになります。
その結婚式の最中、両家の列席者たちが同じ盃でお酒の回し飲みをする儀式が
執り行われたのですが、そこで、なぜか八人のうち三人(+犬)だけが毒殺
されるという、不可解な事件が発生。フーリンと共に式に参列した青髪の探偵の
元弟子・八ツ星は、事件解明に乗り出すが――というのが大筋。
相変わらず、ツッコミ所満載のお話で、途中でいろんな人が推理する、ある意味
バカミスのような推理にはもう、笑うしかなかったです。おいおい、そんなん
あるかー!とツッコミたくなること必至。透明な管とか!いくら照明が当たって
目が眩んだとしたって、ピンポイントで三人の男の口に毒を垂らすとか絶対
無理だろー!っていう。しかし、ウエオロ探偵は、『その可能性はすでに考えた』
っていうんだから、唖然。そんなアホな可能性まで考えるかい、普通。
でも、その辺りのやり取りが、このシリーズの醍醐味なのかなぁ、と。コント
みたいで、そこが面白いと思えて来たかも。バカミスなのか真面目なのか
いまいち判断出来ないシリーズですけど。
しかし、中盤のフーリンのトンデモない告白には仰天。えぇー!これから
この話、どうなるの!?と思いました。そこからは、真実がバレた時のフーリンの
身の上が心配でドキドキしました。終盤のその事実のひっくり返し方は見事だな、
と思いましたね。フーリン自身の思い込みがポイントだったんですねぇ。
しかし、最後、目の前の奇蹟を打ち砕かれた探偵が気の毒になりました。
いやでも、こんなところに奇蹟あるわけないから!信じるアナタが変だから!と
ツッコミたくなりましたけどね・・・。
前作よりは面白く読めたかな。ただ、途中で延々と続く八ツ星の仮説推理に対する
論証の部分は、だらだら長くてうんざりしました。ってか、ほぼ読み飛ばした^^;
その辺、ちょっと中だるみというか、テンポが悪く感じましたね。別にあそこまで
細かく反証する必要はなかったんじゃないかなぁ。そういうのいいから、もっと
早くウエオロ出せよ、みたいに思ってしまった。まぁ、彼の見せ場なんだけどさ。
個人的にはいらなかった。八ツ星ごめんよ・・・。
あと、一番ツッコミたくなったのは、ウエオロがドローンで登場したところと、
その後実際に、ある手段を使って現場に現れたところ。超人か・・・。まぁ、
こういう派手な登場が『らしい』感じがして笑えましたけどね(苦笑)。
次作は、ついにカヴァリエーレと対決かな?図書館入るといいけどなー。


恩田陸「終りなき夜に生れつく」(文藝春秋
夜の底は柔らかな幻のスピンオフ。っていうか、本編のことをすっかり
忘れていて、登場人物にいまいちピンと来なかったんだけど・・・。あれで強烈に
覚えているのは、鹿ボールくらいだからさ・・・(うっ、思い出してしまった(><))。
本書を読んで、もう一度おさらいしたくなりました。といっても、本書に出て来るのは、
脇役として出て来た登場人物ばかりなので、覚えてなくても仕方ないのでは・・・と
自分を擁護してみる(笑)。敵役の神山のことはなんとなく覚えてましたけど(冷徹で
トンデモないヤツだったような)。個性が強い葛城や勇司のことをなぜか全く思い出せないのが
不思議なのだけど・・・読書メーターの他の方の感想で、主人公に目を潰されたという
情報を読んでなんとなく葛城のことは思い出したけれど。
本編は、特殊な能力を持って生れた『在色者』を多く排出する途鎖という街で起きる物語。
本書は、その物語に登場する三人の人物の前日譚。四編収録されています。こういう
出来事を知った上で、また本編に当たると、印象が変わるのかもしれないですね。神山は、
若い頃もアブナイ奴でしかなかったですけどね。

 

では、一編づつ感想を。

 

『砂の夜』
アフリカ北部のある国に派遣されたボランティア医師団の一員であるみつきと勇司は、
『イロ』の強いヒドゥ族の元にやってきた。しかし、彼らは頑なに医師たちの受け入れを
拒んでいた。彼らは『我々の集落に悪魔が現れ、地が穢されているから、近寄らないで欲しい』
というのだ。話を聞くと、毎晩夜の間にひとりづつ集落の人間が殺されているらしい。一体
彼らの間に何が起きているのか――。
集落に起きる連続殺人の真相は、やるせないものでした。結末の悲劇も、なんとか回避
できなかったのか、と悲しくなりました。閉ざされた集落だからこそ、こういう事件が起きて
しまうのでしょうね・・・。誰か救ってやれなかったのか、と怒りがこみ上げましたが、
在色者相手ではどうにも出来なかったのかな・・・。

 

『夜のふたつの貌』
途鎖大学の医学部に在学している軍勇司は、女性的な態度と容姿に目をつけられ、学内の不穏な
グループにボコボコにされてしまう。痛みでぐったりしていると、そこに妙に存在感のある男
が通りがかる。それが葛城晃だった。それ以降、勇司は学内で葛城を見かけると、つい目で
追いかけるようになった。そんな中、学内で不穏な薬の噂が出回るようになり――。
存在感のある葛城のキャラがかっこいい。本編ではどんなキャラだったんだっけ。思い出せない
のがもどかしかったです。勇司と葛城の再会シーンはどんなだったんだろう。本編に出て来て
いたのかなぁ。ああ、もどかしい。

 

『夜間飛行』
大学四年直前の春休み、葛城晃は、度々誰かの視線を感じていた。その後4年生になって
からも、葛城を見る視線は続いていた。すると、年齢不詳の男が葛城の前に現れた。男は、
入国管理官の御手洗だった。そして、葛城に卒業後、入国管理官にならないかと言う。更に、
管理官になるかどうかの適正検査の為のキャンプに参加しないかと誘って来た。興味を惹かれた
葛城は、キャンプに参加してみることに――。
葛城が参加したキャンプの過酷さには辟易しました。普通だったら初日に脱落だよなぁ。
延々と続く煉瓦積みのペナルティにはうへぇと思いました^^;拷問か^^;葛城の
タフさには驚嘆。同時に、御手洗と真壁のサディスティックな言動に寒気がしました。
最後の煉瓦の雨にも。神山の力の強さにぞぞぞ。

 

『終りなき夜に生れつく』
週刊誌の契約記者である岩切和男は、事故で止まった電車の中で、奇妙な男を見かける。
なぜかその男を見た瞬間、男から目が離せなくなってしまう。そして、思わず男を尾行し、
男の勤務先を突き止めた。その後も男を追い続けた和男は、その男が最近世間を騒がせている
連続殺人事件の犯人なのではないかと疑うように。果たして男は本当に殺人鬼なのか――。
これが一番ミステリ色が強いですね。神山の冷徹さを見せつけるようなお話でした。連続殺人
の真相には驚かされました。特に、最後の殺人の真相には目を瞠りました。あんまりミステリ
だと思って読んでなかったので、意表をつかれましたねぇ。やっぱり、恩田さんにはミステリ
書いて欲しいなぁ。最後1ページの結末に背筋が凍りました。まぁ、神山なら当然こうする
でしょうね・・・。この話読んで、ますます本編を読み返したくなりました。