ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

薬丸岳「ガーディアン」/湊かなえ「山猫珈琲 上・下」

今日は暖かい一日でした。一日、一日春になって行きますねぇ。
しかし、かと思えば明日は急激に気温が下がって雨が降るとのこと。
みなさま体調管理に気をつけて下さいね。
我が家の薔薇さんたちも、冬剪定で短くなった枝から、新芽がたくさん
ぴょこぴょこと伸びて来ております。これから、ちょこちょこ目をかけて
芽かきをしてあげなくては(不要な芽を摘み取って、残った芽に栄養を集中させる
動作のことです)。
また花が咲く時期になったら、薔薇記事を上げたいと思っております。


読了本は三冊です(一作は上下巻の為、作品数は二作)。


薬丸岳「ガーディアン」(講談社
薬丸さんの最新作。毎度のことながら、読ませるリーダビリティは抜群です。
ほとんど一気読みに近かったです。ただ、終盤の展開は、それまで緊迫感が
あってはらはらさせられただけに、ちょっと拍子抜けな印象は否めなかったかな。
薬丸さんといえば、司法の問題に深く切り込む作品が多いですが、今回の舞台は
中学校。教師の秋葉は石原中学に赴任して半年の新米教師。問題児のいない平和な
学校だが、一人一年以上不登校を続ける生徒がいるらしい。話を聞くと、度々問題
行動を起こす生徒だったという。実は、彼の不登校の裏には、ガーディアンという
学校を守る自警団が関係していた。匿名の生徒たちによって結成されたガーディアンは、
問題を起こす生徒に対して裏で制裁を行っていた。ガーディアンの存在に気づいた秋葉
は、彼らの正体を探り始めるのだが――。
先生はあてに出来ない、生徒の身は生徒で守るしかない――こういう考え方自体は、
思春期の少年少女たちが持つのは自然なことだとは思います。私も、中学生の時は、
担任の教師に対して信頼とか期待とか、ほとんどなかったと思いますし。先生が何とか
してくれる、なんて思ったことなかった気がする。まぁ、いじめとかもないし、誰かと
トラブルがあったとかもなくて、特に先生に助けを求めること自体がなかったせいも
あるとは思いますが。三年の時の担任は(一年の時と一緒だったのだけど)、学年一
生徒から嫌われていた教師でしたしね。私は普通に接していたけど、友人でとにかく
その先生を毛嫌いしている子がいて、一体何がそんなに嫌なんだろうなーと首を傾げて
いましたっけ(いや、生理的に気持ち悪かったらしいのだけど・・・)。今考えると、
そんなに悪い先生でもなかったと思う。だからといって、生徒に対して親身になって
くれていた感じもなかったと思うから、生徒からの人望なんかなくて当然だったのかも。
本書に出て来る『ガーディアン』は、あるきっかけから、匿名の生徒たちによって結成
された、生徒たちを守るための自警団。石原中学に入学すると、携帯にガーディアン
入会を促すメールが送られて来ます。それに入会希望の返信メールを送ることで
入会出来る。学校のほとんどの生徒が入会しているけれど、親や教師には秘密でやり取り
する為、その正体は公にはされていない。誰かにガーディアンのことをばらして、
それがガーディアンに知られてしまうと、ガーディアンから『制裁』を受けることに
なる為、生徒たちは決して口に出してガーディアンの話は出来ないのです。何らかの
形で『制裁』を受けることが決まった生徒の机の上には、誰かが折り鶴を置きます。
それを見た周りの生徒たちは、ガーディアンの解除通知が来ない限りは、徹底して
その人物を無視しなければならない。それに従わない生徒には、やっぱり『制裁』が
下ることになる・・・という、恐怖政治のようなシステム。生徒たちを従わせるには、
恐怖の感情を植え付けるしかなかったのかもしれませんが・・・こういう形で表面的に
平穏を保っている学校が、果たして本当に平穏だと云えるのか。ガーディアンによって
『制裁』を受けた生徒は、ほとんどが不登校になってしまう。問題を起こす生徒を『排除』
することで保たれる平穏。怖い世界だな、と思いました。
ガーディアンの本来の目的である、『学校を平和にしたい』とか、『生徒を守りたい』
という気持ちは理解出来るものの、そのやり方には首を傾げざるを得なかったですね。
終盤、ガーディアンに一人で対抗していたと思っていた秋葉は、学校に隠されていた
意外な事実を知ることになります。教師は教師で、ちゃんと生徒たちを見ていたのだ、
という結末は良かったのだけど・・・ちょっと、最後で上手くまとまりすぎちゃったかなー
って感じがして、なんとなく食い足りない気持ちになりました。しかし、最後の最後、
衝撃の展開。っていうか、え?どうなるの!?ってところで終わってるんで、なんとも
評価がしづらい。続きがあるのかな?秋葉はどうなってしまうのでしょう・・・。
嬉しかったのは、ちょこっと夏目刑事が友情出演しているところですね。秋葉に、
英語の児童書のお薦めを尋ねるシーンが微笑ましくて好きでした。和む~。
学校が舞台の群像劇な為、登場人物が多く、ちょっと混乱することもしばしば。
その辺は、もうちょっとすっきり書いて欲しかったかな。


湊かなえ「山猫珈琲 上・下」(双葉社
湊さん、初のエッセイ集。そんなに分厚い訳でもないのに、上下巻に分ける必要
あったのかなーと思わないでもないけど、エッセイ集でそんなに分厚い作品って
あまり見かけないから、読みやすさを重視して分冊にしたのかも。
実は、図書館から最初に回って来ていたのが下巻でして。その時点で、上巻の方は、
あと7人くらい待ち。下巻から読むしかないかーと諦めていたのですが、引き取り期限
ぎりぎりまで待ってみたら、ギリギリで上巻が回って来まして。無事両方一緒に借り
られまして、上巻から先に読むことが出来ました。ま、内容的には、下巻からでも
問題なかったんですけどね^^;

 

いくつかの新聞に連載したエッセイをまとめたものです。この間の有川さんの
エッセイでも思ったのだけど、新聞連載だからなのか、ちょっとエッセイにしては
口調が堅め。内容は、ほぼ全篇に亘って、湊さんの現在の居住地・淡路島の宣伝的な
内容が多い。淡路島の特産物とか、名物料理とか。いや、どれもめちゃくちゃ美味しそう
だったし、淡路島がとても魅力的な島だというのはよく伝わって来たのだけどね。
でも、この間読んだ有川さんのエッセイでも同じことを思ったのだけど、せっかく
エッセイなのだから、もうちょっとプライベートなことを中心にしたエッセイでも
良かったのかなーと思わなくもなかったです。いや、もちろんプライベートなことも
書かれてはいるんですけどね。あと、かなり重複した内容のエッセイが多いので、
そこももうちょっと整理して収録されてたら良かったと思う。下巻の冒頭で、敢えて
全部収録した、みたいに断られてはいるのですけどね。さすがに、その話もう三回目
くらいだよ・・・みたいなネタが何度もあったので、ね。複数の新聞に連載していた
みたいで、それぞれに同じ時期は同じことを書いていたのかなぁ。あんまり書くネタが
なかったのか。
とにかく、淡路島の話、山の話、ニュージーランド(トンガリロ国立公園)の話、
トンガの話なんかは、繰り返し繰り返し出て来ましたね~。湊作品にも登場する場所だったり
するので、それだけ湊さんの人生にとって大事な要素なのだとは思いますけどね。
ただ、人気作家に登りつめた今でも、謙虚な姿勢と丁寧な語り口はとても好感が持て
ました。
このエッセイを読んでいる限りでは、この間の山本周五郎賞の時の押切もえさんの
作品に関する例の事件なんか想像出来ないのだけど・・・本当に、ディスったりしたの
だろうか・・・。
上巻の後半の方まで、旦那さんと二人暮らしなのかな?と思っていたのだけど、
最後の方で娘さんの存在が明らかに。エッセイでは敢えて子供の話をしないように
していたのだそう。でも、所々、お子さんがいるのかな?と思える描写は出て来ていたので、
どうなのかなーとは思っていたのだけど。下巻では開き直ったのか、何度かお子さんの
ネタも入ってましたね(ちょっとだけど)。旦那さんが湊さんの仕事に理解があって、
素敵な人そうなのが良かったな。
湊さんが衝撃を受けた童話『とうもろこしおばあさん』の内容には私も衝撃を受け
ました。最初に話題が出た時は肝心なところはぼかした書き方で紹介されていたので、
いまいちその衝撃度がわからなかったのですが、二度目ではしっかり衝撃の内容が
説明されていたので、ぞぞーっとしました。子供の頃にこんなの読まされたら、
トラウマになりそうだなぁ・・・。食育、なのかなぁ・・・。
下巻の最後に収録されている、脚本二編は、イヤミス女王の片鱗もないような
心温まるお話。もともとは、そっちの要素が強かったのかぁ。しかし、島に住んでいる
から脚本家になれないとは。あのまま湊さんが素直に東京に出ていたら、作家湊かなえ
いなかった訳で。運命ってわからないものですね。
そういえば、表紙にも本文中にもちょこちょこと登場するヘタウマな味のある猫の絵。
最後に明かされるのですが、描かれた人は、まさかの人物でした。ふふ。なんだ
かんだ言って、仲いいなぁ。とても微笑ましい気持ちになりました。