ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

似鳥鶏「モモンガの件はおまかせを」/辻村深月「かがみの孤城」

こんばんは。梅雨入りしたと思ったら、いきなりの猛暑(までは行ってないか。でも30度超え!)。
身体がついていかないです^^;
そういえば、昨日は満月でしたね。赤みがかっていて、ストロベリー・ムーンと呼ばれる珍しい月
だとネットに出てましたが、私が12時過ぎに観た限り、あんまり赤くはみえなかった
なぁ。もっと早い時間の月だったら赤くみえたのかな?御覧になった方いらっしゃるでしょうか。


読了本はまた二冊。
投稿出来てない記事がたまってしまっているので、上げておきます。


似鳥鶏「モモンガの件はおまかせを」(文春文庫)
動物園シリーズ第四弾。今回も、動物ものと思ってほのぼの作風を期待すると、
かなりの重いテーマに面食らわされる内容となっております(似鳥さんの十八番ですね)。
動物を飼うことの責任、動物を売買することの責任。動物を扱うってことは、イコール(=)
その動物に対して死ぬまで責任を負うってことなのだ、と改めて痛感させられる作品でした。
一応一話完結なのですが、前のお話が後のお話の伏線になっていたりして、一作通した
連作短編形式になっています。
一話目は、動物園御一行で河川敷に行ってバーベキューをやることになり、
買い出しに駆り出された桃さんと服部君が、道で迷った挙句、誘拐事件に
発展するお話。お馴染みのメンバーたちでバーベキューというのんびりした休日の筈が、
犯罪絡みに発展する辺り、このシリーズらしい。犯人が連れていた柴犬の様子から、
ああいう推理が導き出されるとは、さすが動物のことに関してはプロフェッショナルな
人たちだなぁと感心。子供たちとすれ違ったのが桃さんたちでよかった、と思いました。
第二話は、楓ケ丘動物園にボランティアでやって来る中学生の長谷井君の友達のネコが
何者かに連れされたことから、ペットショップの悪質な手口が判明していくお話。
悪質なペットショップが存在するという話は聞いたことがあるけれど、こういう実態を
知ってしまうと、安易に可愛いだけでペットを買ってしまう飼い主がいることに対する
危機感を覚えてしまいます。多くのペットショップはきちんとされているのだとは思うけれど・・・
確かに、一つのケージに何種類かのイヌやネコを一緒にして展示しているのは見たことが
ありました。ほんとは良くないのですね・・・。スコティッシュフォールドは耳が垂れて
いるところが可愛いと思っていたし、ティーカッププードルや手のひらサイズのチワワは
あのミニさ加減が可愛いと思っていたし・・・知らないって怖いことだ。
第三話は、道で歩いていたら、桃さんの頭にフクロモモンガが突然降って来て、そこから出て
来たと思しきアパートの部屋を覗くと、部屋の住人と思しき死体が転がっていた。
しかし、住人が殺されたのは二ヶ月以上前なのに、モモンガの餌や水は与えられていた・・・
なぜなのか?というお話。モモンガの餌や水が住人の死後も与えられていた理由には、
なるほど、と思わされました。しかし、飼い主には怒りしか覚えません。いくら、
前の彼女が置いていったからって・・・前の彼女も含めて、無責任過ぎる。七森さんの
犯人に対する怒りの言葉に全面的に共感でした。
第四話は、最近お疲れ気味の鴇先生を気遣う桃さんが、鴇先生が彼女の実家に頼まれた
仕事と称して、地方の集落で人間を襲う『怪物』を駆除しに行くお話。
怪物の正体にはぞぞーっとしました。『体長1メートル以上、体重50キロ
以上の正体不明の大型動物』・・・日本にこんなものがいるとは思わないですもんねぇ・・・。
怪物が小屋の中から忽然と消失した理由にはあっと言わされましたね。
これぞミステリ、って感じ。蓋を開けてみれば、あっけない真相ではあるのですけど。
こんな怪物を持ち込んだ奴らには、心底嫌悪しか覚えなかったです。
似たような悪徳業者の話は聞いたことがあるような気もしますが・・・
巷ではこういうトンデモない輩が増えているのでしょうか。嘆かわしいことです。
それにしても、鴇先生が○○まがいのことをしていたとは、びっくりしました。
毎度の鋭い推理は、こういうことから来ていたんですね。納得。
桃さんに気遣われて、ちょっぴり女らしい仕草を見せる鴇先生が可愛らしかった。
二人の仲がもう少し進展するといいのになーと思いました。



辻村深月かがみの孤城」(ポプラ社
辻村さんの最新長編小説。ポプラ社からの刊行ということで、待ち望んだ青春小説
です。主人公は、中学二年生。この年齢というと、『オーダメイド殺人クラブ』
を思い出してしまうのですが。今回も、クラスのヒエラルキーの最下層にいる女の子、
安西こころが主人公。彼女は、ある出来事によって引きこもりになってしまい、学校に
行けなくなってしまった子なのですが。そんな彼女が、ある日いつものように
両親が仕事でいなくなって自宅の部屋で一人きりでいた時、突然部屋にあった
姿見が光り出した。かがみの表面に触ろうとした次の瞬間、鏡の中に引き込まれて、
気がついたら目の前に狼のお面を被った小さな女の子が出現し、お城のような場所に
連れて行かれていた。怖くなったこころは、その場では一旦鏡の中に逃げ帰り、
部屋に戻る。しかし、次の日、両親が出かけて身支度を整えた9時頃、再び鏡が
光り出し、こころは思い切って再び不思議な鏡の世界に行くことを決意する。
すると、再び狼面の女の子が待っていた。城には、彼女以外にも何人かのこころと
同じような年齢の少年少女たちが集められていた。彼らは、こころと同じように
学校に行けない子供たちのようだった。狼面の幼女は、城でのルールと目的を
彼らに話しだす――彼女曰く、来年の三月三十日までに、城の中に隠された
『願いの部屋』を開ける『願いの鍵』を見つけた者一人が、たったひとつなんでも
願いを叶えてもらえる権利を得るのだという。集められた七人は、それぞれに
部屋を与えられ、自由に城に行き来し、鍵探しを始めるのだったが――。
クラスの中で孤立し、学校に行けなくなってしまった孤独な少年少女が、
それぞれの思惑を抱えて、かがみの城で過ごす10ヶ月間を描いた感動作です。
いや~、久々にキターー!!!って感じの作品でしたね。こういうのを待って
たんですよ!めっちゃのめり込んで読んじゃいました。総ページ数は554ページ。
でも、あっという間の時間でした。それぞれの人物に共感しながら読めたし、
こころの境遇には、ただただ激しい怒りばかりを覚えました。こころが不登校
なった出来事を読むまでは、彼女が学校にも母親がお膳立てして予約したフリー
スクールに行かないのも、甘えにしか思えなかったのだけれど、事情を知って
からは、甘えだなんて思っていた自分が恥ずかしくなりました。あんな出来事が
あったら、そりゃ学校なんか行きたくなくなるよ。直接関わった女子たちの
言動には、全く、ほんの一欠片ほどの理解も出来なかった。なぜ、あんなことが
出来るのだろうか。同じクラスの同級生に対して、あんな酷いことが。
担任もクズすぎ。こころの話を全く聞こうとせず、相手の言うことだけ信じて。
手紙に返事書けとか、あり得ない。こころのショックが伝わって、胸が痛くて
仕方がなかったです・・・。
でも、城に行くようになって、ほんの少し心が強くなったこころが(シャレじゃ
ないよ^^;)、母親に事情を打ち明けて、母親がそれを受け入れてくれた時は、
こちらまで胸がすく思いがしました。母親の、『担任にこころのことを信じてもらえなかった
どうしよう』という怖さも、すごく共感出来ました。学校側は大抵、ヒエラルキーの上の
方の子の言うことの方を信じてしまう傾向にあるのですから。
でも、こころの為に、立ち上がろうとする母親の気持ちに胸を打たれました。
途中から、もう、母親同様、こころ頑張れ!こころ負けるな!って願いながら読み進めて
いました。あんな理不尽な状況に、負けて欲しくなかった。こころは何ひとつ、悪いことなど
していないのに。あんな些細などうでもいいことで、いじめが始まってしまうこと自体に
空恐ろしい気持ちになりました。自分の子供が、あんな風に標的になったとしたら・・・
私だって、絶対こころの母親と同じように戦うと思うな。自分の大事な子供を守るため
なら。こころの母親が、一緒に戦ってくれる人で良かった、と心から思いました。

 

実は、城に集められた七人が、あの1月の始業式の日、保健室で出会えなかった
理由には、かなり早い段階で気がついてしまいました。むしろ、マサムネが、
ああいう結論を出したことの方にずっこけた、というか。へ、そっち?みたいな。
いろんな伏線を併せてみれば、どうしたって○○が違うって結論にしかなりえない
と思うんですが・・・。
あと、喜多嶋先生の正体、狼面の幼女の正体も、想像した通りでした。だから、
ミステリ的な驚きというのは、ほとんどなかったです。
でも、そんなことは瑣末なことです。この物語の強さには何のマイナスにも
なってない。城に集められた七人の心の結束が、何より胸に響いたから。
彼らそれぞれの結末が、とてもうれしく、心を温めてくれたから。七人、
それぞれに問題のある子たちばかりだけれど、彼らそれぞれの事情を知ったら、
みんなそれぞれに愛おしかった。
孤独と闘う彼らの辛い現実に反して、かがの城での仲間との温かい交流が、
彼らそれぞれの心を少しづつ強くして行く。最後、みんなであの人物を助ける
シーンは、とても感動的でした。
ラスト、みんなからアレがなくなってしまったのはとても悲しかったけれど、
どこかで出会えれば、絶対に大丈夫ですよね。マサムネもきっとフウカを見つけられたと
思いたい。スバルもきっとあの職業に就いて、マサムネの言葉を真実にしている筈(それに
至るような伏線が出て来たような気がしたのだけど、探せず確認出来なかった^^;
気になるところには、付箋でもつけとかないとダメね)。
彼らの未来はきっと、明るい。みんな揃って再会出来るといいな、と思いました。
辻村さんらしい、重くて痛くて、そして心を深くえぐられるような青春小説でした。
辻村さんはやっぱり巧いなぁ。読み応え十分でした。良かったです。