ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

七月隆文「ケーキ王子の名推理2」/道尾秀介「満月の泥枕」

こんばんはー。今日は暑かったですねぇ。いきなりの猛暑はキツイ・・・。
今年の夏は暑くなりそうですね・・・。

 

今回も読了本は二冊です。

 

七月隆文「ケーキ王子の名推理2」(新潮文庫nex
シリーズ第二弾です。七月さんの作品は読んだり読まなかったりなのですが、この
シリーズは前作がなかなか面白かったので、続けて読んでみました。スイーツ好き
としては、いろんなスイーツが出て来るだけで楽しいです。
無類のスイーツ好き女子高生、未羽は、4月で二年生になりましたが、仲良しの
友達とはクラスが離れてしまいます。けれども、ひょんなことから、クラスの
美少女・椎名悠希と仲良しに。その傍ら、未羽は颯人がバイトしているケーキ屋の
店主青山からバイトをしないかと持ちかけられ、引き受けることに。慣れない仕事に
失敗続きの未羽だったが、颯人の指導もあり、徐々に慣れて行く。そんな中、店に
青山に会いに外国人の美女が現れる。
彼女は、青山とただならぬ因縁があるようで――。
相変わらず、ラノベのような、マンガのような王道の展開。まぁ、私はそういう
ベタなのが好きなんで、楽しめましたけど。人によっては、薄っぺらいと感じる人
もいるのかも。
今回初登場で未羽と仲良しになった悠希のキャラはなかなか良いですね。意外な趣味に
驚きましたけど・・・。意外といえば、青山の因縁の美女・カロリーヌも同じ趣味を
持っていて、もっと意外性がありましたけど^^;ただ、フランス人の若い女性って
ことを考えれば、それほど驚くことでもないのですけどね。フランスでは日本の
コレ系の物が非情に流行っているので。
あとは、青山さんの過去にビックリだったなぁ。明るく優しい青山さんに、あんな
暗い過去があったとは。元カノからの手紙の暗号は、解説されてもさっぱり意味不明
だった^^;颯人ってほんとに頭いいんですねぇ。
最後に、未羽が颯人のお店のバイトを辞めようかと言った後の、颯人の返しが
いいですね~。一見クールに見えても、ほんとは優しいってところがニクイねっ。
第三弾も楽しみです。

 

道尾秀介「満月の泥枕」(毎日新聞出版
ミッチー最新刊。最近、テレビ出演が忙しそうだったので、ちゃんと本書いてる
のかな?と疑問に思っていたのですけど(←おい)、ちゃんと書いてたんですね。
失礼しました(笑)。
ちなみに、レギュラー出演してるテレビ番組のミッチーコーナーの推理クイズ
(瞬間探偵だっけ?)、わかったためしがありません(笑)。レギュラーなのに、
いまいち番組に溶け込んでなさそうなところが面白くて、結構観てます。この間、
我孫子さんが同時出演だった時のバトルが面白かったなー。我孫子さんも結構
面白い人だったから、また出て欲しいです。我孫子さんの推理クイズも観てみたい
しね。
おっと脱線。本書ですが、いかにも道尾さんらしい登場人物とストーリーで、
ぐいぐい読まされました。主人公は、オンボロアパートで姪の汐子と暮らすダメ男
の二美男。汐子は、二美男の亡くなった兄の子供で、兄の死後、後妻が引き取りを
拒否した為、二美男が引き取ったのだ。
二美男も過去に娘を亡くし、離婚して一人になった。一人もの同士、二人の生活は
上手く行っていた。そんな二美男たちの前に、一人の少年が現れ、公園の池に沈んで
いるかもしれない死体を探す手伝いをして欲しいと頼まれる。大金が手に入るかも
しれないと踏んだ二美男は手伝いを引き受ける。人手が足りないと思った二美男は、
アパートの住人たちを仲間に引き入れ、ある壮大な計画を打ち立てる。その出来事が、とんでもない騒動に巻き込まれるきっかけになるとも知らずに――。
個性的なアパートの住人たちは、一見のほほんとしているように見えるけれど、
みんなそれぞれに鬱屈を抱えて生きている人ばかり。騒動のきっかけとなった
嶺岡家の人々もそれぞれにキャラが立っています。特に、嶺岡道陣のキャラは
濃かったですねぇ。剣道の達人ってことで気難しい老人なのかと思いきや、意外と
軽いところもあったりして、面白い人物でした。紙袋に入れてアレを持ち歩いている
姿は、想像するとめちゃくちゃシュール。
最初に、死体となっている疑いをかけられた人物なんですけどねぇ・・・(苦笑)。
池にあるかもしれない死体の顛末は、意外とあっさり解決してしまい、その時点でまだ
半分もページが進んでいなかったので、一体これからこの話はどこに向かうんだろう、とかなり疑問を覚えながら読んでいました。まさか、ああいう展開に発展するとは。
岐阜の洞窟での、パンダ男たちとの追いかけっこのシーンなんかは、ちょっとした
冒険活劇を読んでいるかのようで、ハラハラドキドキ、緊迫感があって面白かった。
特に、ヘルメットを使って危険な希硫酸プールを渡るシーン。そんなんで渡れるか!
ってツッコミを入れたくもなったのだけど、滑稽さが際立っていて危険なシーンな筈
なのに、なぜか笑えました(苦笑)。
緊迫感はあるのだけど、登場人物たちのどこかのんびりとした雰囲気のせいでか、
それほど深刻な感じにならないんですよね。追っ手がパンダの被り物してたりとか
(苦笑)。
どこかコミカルっていうか。三国祭りの騒動の辺りもそうだけど、全体通して、
ほんとに、ザ・エンタメ小説!って感じでした。
アパートの住人たちと二美男との関係も良かったです。普通は、同じアパートに
暮らしていても、ここまで仲良くはならないと思うけど・・・。みんな、訳ありな
何かを抱えている、ってところで、お互いに通じ合えるものがあったのかもしれない
ですけどね。このあたりは、『片目の猿』のローズ・フラットのメンバーたちの
関係を思い出しました(ああいう共通点があるわけではないけどね)。ちなみに、
主人公の身の上に関しては、『笑うハーレキン』の主人公を思い出しました。
子供を亡くして一度絶望に叩き落された男って部分で共通しているかな、と。
嶺岡家の騒動とは別に、もう一つ、二美男が汐子を手放すことになるのかどうかという問題でも最後までハラハラさせられました。実の娘じゃないからと言って汐子を
手放しておいて、再婚して子供が出来そうにないからって引き取りたいと言って来た
汐子の継母には腹が立って仕方がなかったです。二美男が相手の情にほだされて、
汐子を手放してしまったら嫌だな、と思いながら読んでいたのですが・・・だから、
終章は一喜一憂しながら読みましたね。結局、汐子の方が、二美男よりも一枚も
二枚も上手ってことなんですよね。達観しているというか、ほんと、大人。時々
子供っぽい行動をすることはあるけど(小学生なんだから当たり前だけど)、
基本、精神年齢が二美男の比じゃない^^;汐子のキャラクターは、本当に愛おし
かった。
汐子と二美男の会話はとても好きだったな。汐子の大阪弁も可愛いし。
二美男のキャラクターは、最初はいい加減でしょうもない奴って印象だったけど、
彼の過去の出来事のことを知り、そのことでずっと負い目を感じて生きていたことが
わかって、印象が変わりました。バカでどうしようもないキャラクターを作って、
演じて生きるのは辛かったと思う。でも、一緒にいるうちに、汐子が彼の生きる
希望になっていたんじゃないのかな。
娘を亡くした男と、母親に捨てられた子供。お互いに、必要不可欠な存在だったん
じゃないかと思う。汐子を引き取っていなかったら、二美男の人生はどうなって
いたんだろう。それを考えると、ちょっと怖い。ただ、死なないだけの日常だった
んじゃないのかな・・・。
嶺岡家の騒動に巻き込まれて、アパートの仲間たちは、みんなそれぞれにほんの少し、
人生に光が見えて来たんじゃないでしょうか。
いつも思うけど、道尾さんの作品には、必ず『光』に関わる小道具が登場する。
本書でも、真っ暗闇の中に浮かび上がる、美しい蛍石の光の幻想的な光景が出て
来ます。もちろん、物理的な光だけではなく、登場人物の未来への光もちゃんと
感じさせてくれる終わり方になっているところが道尾流。道尾さんは、結局人への
目線が優しい。ダメな人生でも、ちゃんと最後に光を当ててくれようとする。
そういうところが、好きなんだよね。
道尾さんの良いところがたくさん詰まった作品だと思います。ミステリ的な驚きも
最後にちゃんと用意されています。あの人物にあんな過去があったとはね・・・。
二美男も、ゴミ箱からよく気がついたなぁ。そんな伏線、全く覚えてなかったよ
・・・^^;
ラストシーンの、二美男と汐子の会話に胸を打たれました。汐子が出す結論はもう、
明らかですよね。きっと、そうだといいな、と思いました。