ミステリ読書録

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桜庭一樹/「じごくゆきっ」/集英社刊

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桜庭一樹さんの「じごくゆきっ」。

 

かわいいかわいい由美子ちゃんセンセ。こどもみたいな、ばかな大人。みんなの愛玩動物
そんな由美子ちゃんの一言で、わたしと彼女は、退屈な放課後から逃げ出した。あまずっぱ
じょっぱい、青春譚――「じごくゆきっ」。
ぼくのうつくしいユーノは、笑顔で、文句なく幸福そうだった。あのときの彼女は、いま
どこにいるんだろうか。ユーノのお母さんの咆哮のような恐ろしい泣き声。僕はユーノにも、
その母親にも追い詰められていく――「ロボトミー」。
とある田舎町に暮らす、二人の中学生――虚弱な矢井田賢一と、巨漢の田中紗沙羅。紗沙羅
の電話口からは、いつも何かを咀嚼する大きくて鈍い音が聞こえてくる。醜さを求める女子
の奥底に眠る秘密とは――「脂肪遊戯」。
7編収録の短編集(紹介文抜粋)。


久しぶりにラノベ以外の桜庭作品が出ました。GOSICKシリーズなんかは出ていたようです
けれど、なんとなく食指が動かなくって読んでないんですよね。だから、桜庭作品自体を
読むのがもう数年ぶりじゃないでしょうか。
とはいえ、本書は短編集でして、収録作品は結構昔に発表されたもののようです。中には、
10年くらい前のものもあるらしく。なるほど、当時の桜庭作品の勢いを感じる短編が
ちらほらと。しかも、中には砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないの続編も入っているそうで
・・・って、実は、私、読んでた時はまーーーったくピンと来てませんで。後から読書
メーターの他の方の感想見て知りました。だって、10年の前に読んだ本のことなんか
覚えてないよぅ。それに、あの作品で印象的だった海野藻屑とかの名前が出て来る訳でもないし。
ぶっちゃけ、続編だと知った今でも、どこがリンクしているのかさっぱりわかってない^^;
一話目の『暴君』とラストの『脂肪遊戯』が当該作品らしいのだけれど・・・。他の方の
感想読むと『暴君』に出て来た『ピンクの霧』とかって表現が鍵になってるみたいなの
ですが。うーむ。ダメだ。わからん。自分の記憶力のなさが情けない。しかし、みなさん、
よくそんな前に読んだ本の内容覚えていられるよなぁ。すごい。いや、私がアホなだけなのか?
・・・はぁ。
ま、まぁ、それは置いておくとしても、どの作品も一筋縄ではいかない、問題作ばかり。
桜庭ワールド全開で、ついて行ける人だけついて来い!って感じが、なんとも「らしい」
感じがして、ああ、桜庭さんだなぁとしみじみ思わされました。文章も独特だし、
相変わらずネーミングセンスもすごい。桜庭さんのネーミングセンスこそ、元祖DQN
なんじゃなかろうか。今回のDQNネームNo.1は、なんといっても、田中紗沙羅でしょうね
・・・たなか・しゃさら。しゃさらって!呼びにくいよ!舌噛みそう^^;;
巨漢の美少女ってところも、ザ・桜庭一樹!ってキャラですしね。太ってしまった
理由はちゃんとあるのだけれども。
『暴君』にしても、『脂肪遊戯』にしても、長編でも十分面白くなりそうな要素を
たくさん持ってますね。伏線らしきものも回収されないままだったりしてるし。
陸があの後どうなったのかも気になるし、紗沙羅が痩せた後どういう人生を歩んだ
のかも気になるし。長編で読みたいなぁ。
二話目の『ビザール』は、二人の男性でゆれ動くOLの話。おっさんと、普通の青年と。
将来のことを考えると普通の青年と付き合っていればいいんだろうけど、趣味や気が
合うのは断然冴えないおっさんの方で・・・っていう。しかも、途中でおっさんの方は、
ある奇禍に遭って、頭の方に障害を負ってしまう。最後はちょっと煮え切らない。
主人公の決断はなんとなくわかるんだけど・・・なんだか、なぁ。若い女性なんだから、
当たり前ではあるのだけども。私は、おっさんを選んで欲しかった・・・。なんだか、
やりきれなくて、切ない気持ちになりました。
『A』は近未来が舞台。かつて一世を風靡した人気アイドルの精神を、現代の美少女の
身体に宿らせ、今はなくなってしまったアイドル文化を再び甦らそうとする、という話。
作られたアイドルの末路はあっけなかったですね。人間の尊厳を無視して人体実験みたいな
ことをしようとした罰が当たったのかも。
ロボトミーの気味の悪さもすごかったですね。特に、娘を溺愛する母親の言動
には、ドン引き。でも、主人公のDVにも引きましたけど。普通の青年かと思っていたので、
あの激変には驚きました。典型的な、DV男のタイプって感じ。ユーノがSNSで漏らした
本心にぞっとしました。やっぱり、彼女も裏ではこう思っていたんだなぁ、と。
表題作の『じごくゆきっ』の設定は、一番桜庭さんらしい感じがしました。美しい
教師と、彼女を崇拝する女生徒との逃避行。その結末は、あっけなかったですけど。
こんな教師がいたら困っちゃいますよねぇ。ま、女同士だから警察沙汰にはならなかった
ですけど・・・。二人が逃避行の間に着るブランド服が、ピンクハウスってところに
時代を感じました(苦笑)。うちの姉も若い頃ピンクハウスが大好きで、めちゃくちゃ
たくさん持ってたんですよねぇ。今って、もうブランド自体がなくなっちゃったのかな?
いや、確か、女優の森尾由美が未だにテレビで着ていた気がする。懐かしいなー。
続く『ゴッドレス』は、『ロボトミー』とは反対に、父親の気持ち悪さが全面に出ている
作品。ゲイの父親が、不細工な新しい恋人と娘を結婚させて、恋人をずっと自分のものに
しようと画策するという。あ、あり得ない・・・娘の意志なんてまるで関係なし。娘は
自分の所有物、くらいにしか思っていないところに背筋が寒くなりました。いくら体外受精
で生れた子供だからって。こんな父親と一緒にいたら、本当に気が狂ってしまいますよ。
相変わらず、気持ち悪い話考えるの巧いなぁ、と思いました。父親の恋人を殺した犯人
に関しては、もしかして?と思わなくもなかったけれど、実際こういうオチだとは
思いませんでした。ミステリ的な驚きはこの作品が一番だったかも。

 

久しぶりの桜庭ワールド、若干引いたお話もありましたけど、まぁ、桜庭さんだからね、
って感じで、楽しめました(なんつー、微妙な表現)。『暴君』『脂肪遊戯』の、
青春の痛さ、苦さ、青さに懐かしい気持ちになりました。紗沙羅のキャラが良かったですね。
文章とか設定とかキャラとか、相変わらず賛否両論分かれそうな独特さはありますけど、
ファンなら間違いなく楽しめる一作じゃないでしょうかね。