ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

深水黎一郎「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」/名取佐和子「金曜日の本屋さん」

どうもこんばんは。
なんだか、梅雨が戻って来てしまったようですね。東京は、今月に入って
雨が降らなかった日が一日もないのだとか。
石垣島の太陽が恋しいなぁ・・・まぁ、あそこまで暑くなくてもいいけど^^;
野菜がまた高くなりそうだ。


読了本は今回も二冊ご紹介~。


深水黎一郎「ストラディヴァリウスを上手に盗む方法」(河出書房新社
ついこの間読んだ野球小説は残念な感想になりましたが、こちらは深水さんらしい
作品で面白かったです。
なんといっても、表題作は芸術探偵シリーズ。瞬一郎も海野警部もばっちり登場して
活躍してくれてます。タイトル通り、ストラディヴァリウスを盗むその大胆な方法
には目が点。なんか、私のようなバイオリンに造形が深くない人間には、こんな
方法使うこと自体が、バイオリンに対する冒涜のように感じてしまったのだけど
・・・演奏する側の人間が、その価値を知った上でこういう方法を選んだという
のが一番の驚きでした。まぁ、犯人自体にはいろいろツッコミたい部分もあったの
ですけど、こういう方法でバイオリンを盗むことが出来るんだ、というところは
目からウロコの思いがしましたね。瞬一郎の同門(?)の麻巳子ちゃんのキャラは
なかなか良いですね。天才的なバイオリンの才能を持ちながら、天然キャラ。
また登場してもらいたいものです。
次のワグネリアン三部作は、ワーグナーフリークの三人が一人づつ主役を務めます。
一作目は、主人公森山が、恋人になんとかしてワーグナーの良さをわかってもらおう
と四苦八苦する話。恋人がこんな面倒くさい人間だったら、嫌だなー。確かに、自分の
好きなものを相手も好きになってくれたら嬉しいけど、強要するものじゃないし。
どこからも上から目線なところにイラっとしました。でも、ラストで判明する事実に
ニヤリ。相手の方が一枚も二枚も遥かに上だったってことで。
二作目は、主人公の弥梨亜(ねりあ←スゴイ名前・・・)が就職活動に挑戦しては、
ワーグナー狂が災いして失敗する話。でも、オペラを観に行った時のある人物への善行が
幸いして、ハッピーな結末へ。弥梨亜がどんな言葉に対してもワーグナーと関連づけて
会話をしてしまうところが、先日読んだ『午前三時のさよならゲーム』に出て来た、
『生涯徒爾一野球観戦居士』の主人公と重なりました。野球がワーグナーになった
だけじゃん^^;こういう人間と会話するのは疲れるだろうな^^;
三作目は、カルトクイズ番組のワーグナーがテーマの回に出演する主人公が、
とんでもないワーグナー狂たちと闘う話。同じ回に出演するライバルたちの中の
最強の敵が、一作目と二作目の主人公、森山と弥梨亜。なるほど、ここで
つながるのね、って感じでした。んで、最後にこの三話目の主人公の名前が
明かされます。まさかの実在の人物、という(いや、個人的には知らないですけど)。
ワーグナーファンの間では有名な方なんでしょうね^^;この三部作のすごい
ところは、これが掲載されたのが、日本ワーグナー協会(そんなものがあること
すら知らなかったですが)が年一回出している研究誌に載ったというところ。
そして、論文やワーグナーの舞台等の批評中心の学術誌であって、小説が掲載される
こと自体が初めてのことだったのだというのだから、その凄さは推して知るべし。
深水さんって、一体何者なんでしょうか^^;
ラストに収録されている『レゾナンス』は、正真正銘の作者の処女作なのだそう。
ヴァイオリンを習う少年が、真冬の豪雪地帯で、レッスンの帰りに雪の樹氷地帯に
迷い込み、ヴァイオリンに対する思いに開眼する話(?)。ミステリ色はまるで
なく、文芸的な作品。これは正直、何が書きたいのかよくわからなかった。
処女作だけに、自分の音楽に対する思いを書きたかったのかなぁという感じでした。
ヴァイオリンでまとめた作品集という感じでしょうか。表題作が読めただけでも
読んだ甲斐がありました。欲を言えば、芸術探偵ものでまとめて欲しかったけどね。


名取佐和子「金曜日の本屋さん」(ハルキ文庫)
新聞広告かなんかで気になった作品。本屋さんが舞台というのは、それだけに
食指が動いちゃうんですよねぇ。でも、もう三作くらい出ているみたいです。
文庫だからどうかと思ったけど、図書館に入ってくれてて良かったです。
ネットで『読みたい本が見つかる本屋』だと謳われている北関東の小さな駅ナカ
にある本屋、<金曜堂>が舞台。病気で入院している父親が読みたいという本を
探す為、<金曜堂>を訪れた大学生の倉井史弥。そこで出会ったのは、底抜けに
明るい女店長の南、併設されている喫茶を任されている端正な顔立ちの栖川、
金髪角刈りでヤクザのような口調の和久。父親が探す本を見事に探してくれた
南に惹かれた史弥は、ここでバイトをしてみようと思い立つ。新米バイトとして
仕事を始めると、思わぬ出来事に巻き込まれて――。
金曜堂が、『読みたい本が見つかる本屋』だと言われる所以は、地下にありました。
小さな街の駅ナカの本屋とは思えない数の蔵書が地下に隠されている、という。
もちろん、店長の南さんの本に対する知識があってこそ、でもあるとは思います
けれど。なかなか魅力ある設定だなぁと思いました。ベタだけど、こういう本屋が
あったら嬉しいですね。南店長の、特定の客に向けた棚作りには恐れ入りました。
本屋さんの鑑とも云えるかも。
取り上げられている本は、読んでない本がほとんどでしたが、どれも読んで
みたくなりました。庄司薫さんの作品は、以前から気になってはいたのですが、
有名な『赤頭巾ちゃん気をつけて』くらいしか知らなかったので、今回この
作品がシリーズもので、四部作だということを初めて知りました。一作目から
読んだ方がいいのかな。全部読んでみたいけれど。
梨木さんの『家守綺譚』が取り上げられたのは嬉しかったですね。私も大好きな
作品なので。あの世界観は、誰が読んでもハマる作品ですよねぇ。
本好きだったら楽しめる要素がいっぱい入っているので、とても楽しく読め
ました。続きも借りて来ようっと。