ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三「わざと忌み家を建てて棲む」/石川智健「小鳥冬馬の心像」

こんばんは。すっかり秋めいて来ましたね。相変わらずすっきり晴れる日は少ない
けれど。野菜が高くて嫌になっちゃいます。
雨が多かったせいか、我が家の薔薇さんたちも葉っぱが落ちて元気がありません。
一応秋の剪定をして肥料をあげたりしているけれど、今年の秋薔薇はイマイチ
綺麗に咲かないかもしれないなぁ(T_T)。綺麗に咲いたらまた記事にしたいの
ですけれどねー。


読了本は二冊ご紹介。四冊読み終えているのだけど、半分づつ。


三津田信三「わざと忌み家を建てて棲む」(中央公論新社
三津田シリーズ最新刊。表紙が怖っ^^;;相方夜勤で家で一人で読むの怖いなぁと
戦々恐々としていたのだけど、読んでみたら思ったほどには怖くなかった。
序章の、読み進めるかどうかを読者に注意喚起する文言の部分が一番ぞっとしたかも。
前作(『どこの家にも怖いものはいる』)でも同じような文言が出て来ましたっけね。
今回も、あまり気にせずガンガン読んじゃいましたけどね(苦笑)。
三津田さんご本人のルポ風になっているので、ついつい、どこまでフィクション?と
思ってしまうけど、基本的には全部フィクションですよねぇ?(当たり前か)
全国から曰くのある物件を寄せ集めて作り上げた奇妙な集合住宅、烏合邸に
住んだ人々の体験記を手に入れた河漢社の三間坂秋蔵は、手に入れた書簡を
三津田に託す。それを読んだ三津田は、体験者たちが体験した怪異に独自の解釈を
加える。しかし、次第に三津田自身の周囲にも怪異の手が・・・!
それぞれの体験談は、そこそこ怖いです。特に、冒頭の『黒い部屋』に住んだ
親子の体験記はぞっとしたな。こんな忌み家になぜわざわざ住むのかというと、
一定期間そこに住んで体験日記を書くことで、高い報酬をもらえるから。しかも、
仕事も紹介してもらえて、住む場所も提供してもらえるとなれば、貧しい母子に
とってこの上もなくありがたいお話、という訳。でも、住み始めてすぐに奇妙な
怪異に悩まされることになる。次第に母親の様子もおかしくなって行く、という。
母親の最後の方の妄想だらけの日記が非情に怖い。いる筈のない娘まで登場するし。
後に、三津田がこの母子の日記に合理的な解釈を与えるのだけど、この部屋が
『黒い部屋』と呼ばれる理由にはぞーっとしましたね。こんな家になぜ満足そうに
住めたのか・・・母親の精神状態の方が怖くなりました。
続く、『白い屋敷』に住んだ作家希望の男の体験記は、一日ごとに藁舟の上に乗っている
人形が増えて行く過程が怖かった。
その後の『赤い医院』を訪れた女子大生の録音テープと『青い邸宅』の調査に
立ち入った超心理学者の記録は、さほどの怖さはなかったです。三津田の解釈も
いまいち感心するものではなかったし。
そもそも、問題の烏合邸に関する最終的な解釈がなんとも肩透かし。なんじゃ、そりゃ、
って感じでした。今まで読んで来たのは何だったんだよーって叫びたくなりました。
三津田と三間坂による幕間部分は、かえってない方が怖さが助長されたんじゃ
ないだろうか・・・。『黒い部屋』に関する解釈は面白かったのだけど。
ホラーはホラーと割り切って、敢えてミステリ的な解釈はいらないのかも。
まぁ、三津田さんの作風が、ホラーとミステリの融合ってのをウリにしてるから、
わざわざそういう構成にしているのだとは思うのだけどね。
ちなみに、読んでる間も読んだ後も、私の周りで特に怪異はおきてません(笑)。


石川智健「小鳥冬馬の心像」(光文社)
以前にアンソロジーで読んで割りと気に入った引きこもり探偵小鳥の話が一冊の本に
まとまったということで、読むのを楽しみにしていました。続き読みたいと思っていたので。
読んでみて、アンソロジーのあの一作が、長編(連作短編形式ではありますが)のプロローグ
部分だったのだとわかりました。
しかし、こんな大それた展開になっていくとは。一話完結タイプの、普通の連作短編で良かったと
思うんだけどな。長編っぽくしたことで、冬馬のキャラの良さが消えてしまったような。
アンソロジーでも思ったのだけど、彼の知恵を当てにして彼のもとへやってくる刑事の
青山の打算的な性格もあまり好きになれなかった。もちろん、友達として冬馬のことを
心配している部分もあるにはあるのでしょうけども。冬馬が精神的に消耗している時でも、
無理に推理させようと促したり。表面上では心配しつつも、やっぱり捜査に協力して欲しい
というのが見え見えで、あまり好感は持てなかったです。
冬馬の面倒を見ている従妹の冴子のキャラもちょっと掴みどころがなかったなぁ。青山と
コンビを組む女刑事・新妻に対していやに懐いているから、何か裏があるのかと思ったら、
単に女刑事という存在に対して憧れがあったってだけだったし。ユリっ気でもあるのかと
勘ぐってしまったじゃないか^^;冬馬に対しては完全に身内感覚で面倒見てる感じ
だから、恋愛に発展することはなさそうですけど。青山の想いに気づいているのかは
よくわからないけど、そっちもなんとなく望み薄なような。
連続殺人事件の犯人に関しては、意外といえば、意外な人物でした。オーソドックスな
騙しの手法ではありますが。スマホのあのくだりが伏線になっていたとは気づかなかったなぁ。
事件の真相は、ただただやりきれない。犯人がしたことは間違いなく悪いことでは
あるけれど、被害者たちは自業自得な部分もある。だからって殺されていいとも
思わないのだけど・・・。でも、こういう犯罪が罰せられずに野放しになっているから、
次々この手の犯罪がなくならないのかもしれず・・・。犯人が幼い頃に、誰かがもっと
ちゃんと犯人のことを救ってあげてたら、こんなことにはなってないだろうに、と
悲しくなりました。
出版社の著者の言葉を読むと、冬馬のキャラは、石川さんご自身のお母様の鬱病
きっかけで生れたようです。病気になってしまった時、本人にも家族にも云えること
だとは思いますが、無理に治そうとするのではなく、病気ごとその人を受け入れることが大事
なのだそうです。冬馬も、青山や冴子という理解者がいることで、少し生きやすくなると
いいな、と願います。