ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕「秋霧」/柚木麻子「さらさら流る」

どもども。昨日夕方のニュース番組を見ていたら飛び込んで来た安室ちゃん引退の
ニュース。ビックリしましたねぇ。その前に、ちょうどラジオ聴いてて、パーソナリティの方が
安室ちゃんの話してたばかりだったから、余計にタイムリーでビックリしました(引退の話はもちろん
まだ出てなくて、単にファンって感じの話をしていただけなのだけど)。
私自身はライブに行くほどのファンって訳じゃないけれど、やっぱり、カラオケ全盛期世代
だったから、アムロちゃんの曲はよく歌ってたし、テレビでもよく聴いてました。
あと一年あるとはいえ、なんだか寂しいですねぇ・・・。まだまだ現役でやれそうなのにね。
勿体ないけれど、すぱっと引退!って云えるところは、潔くてかっこいいなぁと思う。
いつまでも、みんなの憧れの歌姫でいて欲しいですね。


今日も二冊ご紹介。


大倉崇裕「秋霧」(祥伝社
大倉さんの山ミス(山サス?)最新刊。
『夏雷』に出て来た便利屋の倉持、『凍雨』に出て来た深江、『生還』に出て来た
釜谷と原田と、大倉さんの山岳ものに出て来るキャストがフル登場。しかも、警視庁いきもの係
シリーズの日塔もチョイ役で出て来てニヤリ。ドラマとは大分雰囲気違いますけどね^^;
ファンにとっては非情に嬉しい一作になっている・・・のは間違いないのですが、正直、私は
読み始めた時は倉持にも深江にもピンと来てませんでした^^;
ふたりとも、それぞれに過去に何かありそうな描写だったので、アレ?と思って、自分の記事を
読み返してみて、やっと思い出したという(アホ)。
さすがに、釜谷と原田のことは覚えてましたけれどね。メインで主役を務めるのは、倉持と深江。
便利屋の倉持に、余命わずかの伝説的経営者から「天狗岳に登って動画を取ってきて欲しい」
という奇妙な依頼が舞い込む。
山登りに慣れた倉持に取っては簡単な仕事に思われたが、山行から帰ると不審な人物に狙われ、
拉致されてしまう。一方、山で世捨て人のような静かな暮らしをしていた元自衛隊特殊部隊の
深江は、警視庁の儀藤から、神出鬼没の職業殺し屋、『霧』の始末を依頼される。『霧』
を追っていた深江は、その過程で崩れかけた小屋の中で不審な男女に捉えられた倉持を
助けることに――。
煽り文句の山岳サスペンスというと、ちょっと語弊があるような気もしますね。
山登り中に殺し合いがあったりする訳ではないので。もちろん、山登りのシーンもあるのですけれど。
事件のからくりがちょっと複雑で、人物関係を把握するのが大変でした。『霧』の正体に関しては、
思った通りでした。これは、結構わかっちゃう人多いんじゃないのかなぁ。一体どういう経歴で
生きてきたんだろ・・・。
まぁ、先は読めちゃったのだけど、最後までハラハラさせられる展開で、ぐいぐい読まされました。
何より、倉持と深江が意外といいコンビで、特に最後二人のシーンが良かったですね。
最後の山のシーンで、倉持があっさり下山しちゃうのにはずっこけたけど^^;
足手まといなのはわかるけど、そこは一緒に頑張れよ・・・とツッコミたくなりました(苦笑)。
便利屋一緒にやることになったら面白いけどな。深江がいたら、どんな危険な仕事も引き受け
られそうだし(笑)。この二人VS殺し屋『霧』の再バトルなんかも読んでみたいです。


柚木麻子「さらさら流る」(双葉社
柚木さん最新作。今回も、なかなかにハードな題材を持って来た意欲作と云えるでしょうか。
いろんな作品にチャンレジする方ですねぇ。ただ、私はもうちょっと軽めの題材の作品の
方が好みだなぁ。アッコちゃんとか、ダイアナみたいな。
今回の題材は、一言で言えばリベンジポルノでしょうかね。厳密に言うとちょっと違う
かもしれないのですけども(流出させた本人はリベンジのつもりはなかった訳なので)。
主人公は広告会社に勤める28歳の井出菫。ある日、菫はポスターで起用する予定の
人気モデルの問題写真の流出しているらしいと小耳に挟み、それが事実かどうかを
自宅のネットで検索していると、偶然自分がかつて付き合っていた彼氏に撮らせたヌード
写真がネットに上げられていることを知ってしまう。大学で出会った彼、光晴は、表向きは
明るい人気者だったが、付き合ってみると菫には理解出来ない暗い一面を持っている青年
だった。育ちの違いから来ると思われるそのナイーブな性格に最後にはついていけず、
6年前に菫から別れを告げていた。6年も経った今、なぜあの写真がネットに流出しているのか。
これは、光晴の菫に対する報復なのか――菫は、親友の百合の助けを借りて、流出経路を
調べ始めつつ、彼と付き合うきっかけになった、飲み会の帰りに渋谷から暗渠を辿って
菫の自宅まで二人で歩いた時のことを思い出していた――。
今はスマホ普及率が高くなって、手軽に誰もがネットに接続出来る環境になったことで、
こういう問題がよく取りざたされるようになりましたよね。本書の中で、被害者である筈の
菫は、流出させたであろう光晴に対して怒りを覚えながらも、なぜか自責の念にかられてしまう。
なぜ裸の写真など撮らせてしまったのか。もちろん、一番悪いのは流出させた人物なのだけれど、
こういう問題が出て来る度に、世間の人々は、『撮らせた方も悪い』という目で見る場合が多い。
かくいう私も、そう思う一人かもしれないです。もちろん、撮らせた時は恋人としてこの先も
ずっと付き合って行くと思っている時期でしょうし、その場のノリでラブラブな写真を残して
おきたいと思う気持ちも理解は出来なくはないけれど・・・でも、やっぱり、破廉恥な裸の
写真を撮らせるっていうのは、ねぇ。ちょっと、考えが足りないな、とは思ってしまいます。
でも、菫に起きた出来事を聞いて、手のひらを返したような態度を取った先輩には、嫌悪しか
覚えなかったんですよねー・・・。自分もそういう態度になるかもしれないのにね。
菫の場合は、心が離れかけているかもしれない彼氏に懇願されて、仕方なく撮らせ、すぐに思い
直して削除を願い出た、という経緯もあるのだけど、結局光晴はその場では削除したフリを
しながらも、SDカードの方に保存していて、それを菫に黙っていた。そういうことをされてても、
その場ではわからないですよね。結局、こういう問題は、自衛するしかないのかな、と思います。
相手の良心を信じて撮らせて、別れた後に報復として裸をネットに晒す。卑怯なやり方だし、
人間性を疑わざるを得ないけれど。そういう写真さえ撮らせなければ、そんな事態にはなりようが
ない訳だし。ただ、本人が知らない間に撮られていた場合は、どうしようもないですね・・・。
ネットに上げられた写真を削除するのに、一件5万もかかるとは知らなかったです。ネットという、
世界まで繋がっている広い世界で、拡散された写真を全て削除するなんて、気が遠くなる話で、
不可能ですよね・・・。やられてしまったら、諦めるしかないのでしょうか。この作品のキモと
なるのは、写真を拡散されてしまった菫が、どうやってその現実を向き合い、立ち直って行くのか、
というところ。菫が取った手段は、意外なものでした。ちょっとズレてる気がしないでもなかった
けど、菫にとっては、それが一番自分にとってやるべきことだったのでしょうね。勇気がいること
だったと思う。素敵な家族に守られてぬくぬくと育って来た菫にとって、かつての恋人にされた
仕打ちは、青天の霹靂のようなものだったと思う。でも、このことがあって、彼女は、少し強い
女性になれたのではないかな。起きてしまった過去を悔いてもどうしようもない。未来に向けて
この先も生きていかなければならないのだという決意が見えた気がしました。
それにしても、元カレの光晴には全く好感が持てなかったですね。伊藤君ほどのダメンズまでは
いかないかもしれないけど、こんな男に人生めちゃくちゃにされたなんて、菫が可哀想だと思いました。
ただ、写真流出の経路に関しては、もっと間に悪い人間がいた訳ですけど。でも、あの状況を作った
のは光晴本人だし、やっぱり自業自得、起こるべくして起こったというようにしか思えなかったです。
まぁね、菫のように、家族から愛されて何不自由なく育った人間に、光晴のような歪んだ家庭環境で
育った人間が近づけば、やっぱりそこは何かしらの歪んだ感情が生じてしまうのは仕方がないのかも
しれませんけどね・・・。もともと、根底的に合わない二人だったのでしょう。
周りにも元カノの写真を流出させた男と認識されてしまったし、光晴はこれからどうやって生きて
行くんでしょうかね・・・猛省して、真っ当に生きて行って欲しいですけどね。
いろいろ考えさせられる作品ではありましたけど、正直、だから?って感じもあったなぁ。大した
盛り上がりもなかったんで・・・。菫と百合の関係が、ちょっと近すぎて引いてる自分がいました。
こういう親友がいて羨ましいという気持ちもないではないのだけど・・・うーん。百合が菫に甘すぎる
感じがしちゃって。なんか、一歩間違うとアッチ系の関係になりそうなような^^;西澤(保彦)さんの
作品だったら、間違いなくそうなってただろうな(笑)。
埋設してあったり、蓋をしてある水路のことを暗渠って言うんですね。暗渠ってたまに小説とかでも
使われる言葉だけど(暗渠のような○○とか)、そもそもの意味をよくわかってなかったです。
勉強になりました(アホ)。