ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

似鳥鶏「100億人のヨリコさん」/<アミの会(仮)>「アンソロジー 惑 ーまどうー」

こんばんはー。秋ですねー。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋。
私はやっぱり読書の秋・・・といいたいところですが、読書ペースはあんまり変わらず^^;
っていうか、今月はいろいろ忙しくてむしろダウン気味です^^;
メダカ飼育にすっかりハマってしまって、時間があるとつい本をほっぽりだして
メダカ水槽を眺めてしまいます。先日、買って来た時に入っていたちっちゃいプラ容器から水槽に
お引っ越しさせて、苔取り要員としてヤマトヌマエビ2匹(エビ男とエビ太)も買って来て、
生活環境を整えてあげましたらば、翌日から早速メスが卵を産み始めました。孵化にはまだ
一週間以上時間がかかるようですが、チビメダカに会えるのが楽しみで仕方がない
今日このごろなのでした。えへ。


今日も二冊ご紹介ー。


似鳥鶏「100億人のヨリコさん」(光文社)
似鳥さん最新刊。また、なんとも変わったお話でしたねぇ。そして、似鳥作品らしく、
呑気な作風に反して、徐々にとんでもなく壮大なパンデミック系のお話に変貌して
行く、というお決まりの展開になって行くので、最後には目が点状態に^^;
4月から三年生になる貧乏大学生、小磯は、今まで快適に住んでいた学生寮
二年までしか使えない為、春休みの間に、あるのかどうか疑問視されている謎の貧乏寮、
富穰寮に移ることに。そこは、ボロボロの外観&内装に加え、いろんな昆虫や動物が
跋扈し、見慣れないキノコが生える異界の地であった。その上、そこに住み着く学生たちは
みんなひと癖ある人物ばかり。中には学生ではない人間まで。しかし、小磯が最も驚いたのは、
天井や窓の外に出現するという、血まみれの女、ヨリコさんだった。ヨリコさんの突然の
登場にビビる小磯は、この怪奇現象に不審を覚え、寮の仲間たちに相談し、彼らと共に、
彼女がなぜ出現するか調べ始める。
すると、彼女の出現には、ある脳科学的な見地から説明がつけられることがわかった。
彼らがさらに調べを進めていると、学生寮とは関係ない一般の人までヨリコさんを見た
という目撃情報が出始める。更に、次々とねずみ算式にヨリコさん目撃情報が増え、
全世界に広がってしまう。しかも、ヨリコさんを見たことで事故や自殺が相次ぎ、
全世界がパニック状態に。この現象を止められるのは、ヨリコさん発生の原点である
富穰寮の仲間たちだけ。彼らは、ヨリコさんの正体を突き止め、この現象の元凶と
なっているであろう、ある人物に会いに行くのだが――。
学生寮のメンバーたちとわいわいやっているところはとても面白かったのですけども、
いろいろとツッコミ所は満載のお話です。あるいち大学の貧乏学生寮の中の怪奇現象を、
全世界にまで発展させる必要性があったのか、そこが一番疑問でしたが・・・^^;
ヨリコさん自体の説明も、ちょっと苦しかったかなー・・・別に、怪奇現象をわざわざ
脳科学で説明しなくても。何か、いろいろやりすぎちゃった感があって、終盤は若干
引いて読んでました^^;なんでこう、話を広げすぎちゃうのかな、この人は。
貧乏学生寮の学生たちの実態だけで十分面白いのに。着流しの先輩やら、車椅子の
中国人やら、なぜかいつも白衣を来ている男やら、フランス語を話すベナン人やら。
なぜ住んでいるのかわからない生活保護受給者の親子までいる始末で、みんなどういう
経緯でこの寮に住み始めたのか、非情に興味があります(どの人物も謎のままですが)。
一番好きだったのは、達観した言動の小学生、ひかりちゃんかな。母親の奈緒さんの
育て方がなんともユニークでねぇ。こんなこと教えていいのか!?ってなことも
教えちゃうから面白い。いい親子だなーと思いました。
みんなで怪しげな食材だらけの鍋を囲むところがほのぼのしてて好きだったなー。
終盤のパニック小説めいた展開がなければ、もっと高評価だったのに。ヨリコさん
怖すぎだよ^^;結局、ヨリコさん自身のこともよくわからないし、彼女を出現させた
原因となった人物の詳細もわからず仕舞い。一体何だったんだよ・・・。
似鳥さんにしては、最後のツメが甘いなぁって感じがしました。単に、パニックホラー
小説が書きたかったのかしらん。そこに、お笑い要素を入れるところが、似鳥さん
らしいのかもしれませんが。
今回もあとがきは面白かったです。ハナモゲラ語はよくわかんなかったですけどね(苦笑)。


<アミの会(仮)>「アンソロジー 惑―まどう―」(新潮社)
女性作家だけで結成された<アミの会(仮)>によるアンソロジーの新作。同時発売で
もう一冊出たようなのですが、そちらは予約に乗り遅れてまだまだ回って来るのは先に
なりそうです。女性作家だけで結成された会と述べましたが、今回も男性作家もゲストとして
寄稿しています。タイトル通り、『惑う』をテーマにした作品集です。それぞれに全然違った
角度から書かれているので、バラエティに富んでて面白かったです。個人的に読めて嬉しかった
のは、ラストを飾る今野敏さんの竜崎シリーズスピンオフ。竜崎のあの賢妻、冴子さんが
主人公という、珍しい作品。冴子さんはやっぱりすごい!と思わされた一作でした。

 

では、軽く各作品の感想をば。

 

大崎梢「かもしれない」
発想を転換してみると、今までとは違ったものが見えてくる、という趣旨の童話を読んだ
主人公の昌幸が、かつて優秀な同僚が会社で起こした重大なミスについて、もしかしたら違った
見方が出来るのかもしれない、と再考察してみるお話。発想を変えると、意外な事実が次々と
見えて来る、という過程が面白かったです。最後は同僚もハッピーエンドで終わりそうですしね。

 

加納朋子「砂糖壺は空っぽ」
これは、オーソドックスな仕掛けの作品ですが、すっかり騙されてました。『トオリヌケキンシ』
に収録されててもおかしくないタイプの作品で、あの病気以降の加納作品の流れを汲んだ
お話と云えるでしょうね。ラストはとてもやるせない。ミエちゃんが主人公の告白を拒絶した
のには彼女側の理由があったせいだった訳だけれど、主人公の正体を知っていたらどうだった
のだろうか。同じ学校に通えていたら、違った青春が過ごせただろうと思うと、切なかったです。

 

松尾由美「惑星Xからの侵略」
いくら小学三年生だって、こんなアホな茶番に騙されるかなぁ?どんだけ世間知らずな
小学生なんだ、と思いました^^;巻き添えになった主人公のナオが可哀想。それに、一歩
間違えば耳の鼓膜が破れる可能性だったあった筈。犯人の身勝手な動機には腹が立ちました。
しかし、肝心のナオがその犯人に骨抜きにされてるんだからなぁ(呆)。

 

法月綸太郎「迷探偵誕生」
どんな謎でも100%解決してしまう名探偵多岐川深青の卓越した推理力の裏には、20年前に
交わされたある契約が関わっていた。20年経って、多岐川の前に再び現れたのは――。
うーん、なんともヘンテコな話。20年ぶりに多岐川が持ちかけた契約の内容には目が点。
なんでわざわざ!?と思いました。でも、いつ自分が失敗するか怯える毎日ってのも嫌です
もんねぇ。精神的に参りそうだ。多岐川の精神も限界に来ていたってことなんですかね。
でも、新たな契約でまた違った悪夢を見る日々が始まりそうですが・・・。

 

光原百合「ヘンゼルと魔女」「赤い椀」「喫茶マヨイガ
毎度、童話や民話を基調とした光原作品、今回はマヨイガ伝説をテーマにした三作。
ヘンゼルとグレーテルのヘンゼルが、自分に懸想する妹に困惑する「ヘンゼルと魔女」が
面白かった。兄の情けない姿を見て、ラストであっさり妹が心変わりするところには
ずっこけたけど(笑)。「喫茶マヨイガ」は、掌編ですが、久しぶりに潮ノ道シリーズが
読めて嬉しかった。

 

矢崎存美「最後の望み」
余命わずかの老人の元に、最後の望みを叶える為に死神が現れる。老人の望みは、「娘の
自殺を止めたい」だった――。
いろいろ設定にツッコミ所のある作品なのだけど、死神によって最後の願いを叶えてもらった
後の老人の気持ちの変化に心が温まりました。死にゆく人が、安らかに眠れるのであれば、
こういうシステムがあるのはありがたいことかもしれないです。私が死ぬ時にも現れて
くれないかしらん。でも、何を願うか決められなさそうですけど^^;

 

永嶋恵美「太陽と月が星になる」
父の再婚相手から冷たい仕打ちをされる娘が、義母が溺愛する妹を自分の思う通りに
手懐けて、義母への復讐を図るという話。これ、収録作品中、一番救いがない。でも、
作品としては、一番インパクトがあると思う。永嶋さんの作品って、前もとことん救いが
なかったような。姉も妹もとにかくどす黒い。ラストのオチがまたすごい。こんな家族
嫌だよぅ・・・(涙)。

 

今野敏「内助」
先述したように、隠蔽捜査シリーズに出て来る竜崎の妻、冴子さんが主人公。テレビで
流れていた、火事で焼死体が見つかったというニュースを見て、デジャヴを感じた冴子さんが、
気になって事件のことを調べ始めるお話。やっぱり、冴子さんはすごい人だということが
判明。なんという慧眼!そして、その推理をバカにせずに、ちゃんと捜査の参考にするところが
竜崎の良いところ。しかも、バカ正直に妻の意見とか言っちゃうし(笑)。なんだかんだ云って、
このシリーズは他の人物を主人公に据えても、最終的には竜崎の株を上げる結果になってる
ところがいいんだよね。作者がほんとに竜崎のキャラクターを愛しているんだろうな(笑)。


同時刊行のもう一冊の方には乙一さんなんかもゲスト寄稿しているそうなので、早く回って
来て欲しいなー。楽しみです。