ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

歌野晶午「ディレクターズ・カット」/「猫が見ていた」

こんばんは。なんだか夏が逆戻りって感じですね。明日も10月とは思えない暑さに
なるのだとか。今年は異常気象の日が多いなぁ。
我が家のメダカ稚魚さんたちは、毎日すくすく育ってくれています。ただ、中の一匹だけ、
身体が真っ黒でちっちゃくて、泳ぎもうまくない子がいて。他の子は一日一日身体が大きく
なっているのに、その子だけ小さいまま。動きもにぶくて、ほぼ一日水底でじっとしています。
もしかしたら、その子だけは、長く生きられないのかもしれないな・・・と悲しく思いつつ、
毎日見守っているところです。ちなみに、その子にだけ名前があって、黒子(くろこ)。
もちろん、身体が黒いから(笑)。・・・私のネーミングセンス、どうなんでしょうか・・・。


読了本は今回も二冊ですー。メダカにかまけて、読書サボリ気味です^^;;


歌野晶午「ディレクターズ・カット」(幻冬舎
歌野さん最新作。相変わらず、クソみたいな人物しか出て来ない話、書きますね(苦笑)。
系統的には、密室殺人ゲームシリーズに近い感じかな。
若者たちの暴言や迷惑行為をドキュメンタリーにした情報番組の人気コーナー『明日なき暴走』
を手がける下請け制作会社のディレクター長谷見は、視聴率稼ぎの為、実は裏で知り合いの
若者たちに頼んでやらせ映像を撮っていた。その若者の一人、楠木小太郎が、ある日通り魔に
遭い、怪我をしたと長谷見に連絡してきた。小太郎は、通り魔の襲撃を長谷見の仕業だと
思い込んだようだが、長谷見には身に覚えがなかった。小太郎から詳しく話を聞いた長谷見は、
この通り魔の犯人を独自で捕まえ、その映像が撮れれば、視聴率もアップし、自らの地位も上がると
目論み、犯人捜しを始めることに。しかし、調べて行くと、犯人に関する恐るべき事実が判明し――。
ミステリ的には、ラストのどんでん返しの意外性もあり、面白く読めました。構成の巧さはやはり
さすがです。最後の章で、タイトルの意味にもニヤリ。
が、とにかくキャラ造形や会話文が酷かった。あまりにも全員がクソ過ぎて。好感の持てる
人物が一切出て来ないという。特に、冒頭の、若者たちが飲食店でやらかす騒動の顛末には
ほとほと嫌気がさしました。こんなクズたちの標的になってしまったファミレスが気の毒で
ならなかったです。ちょっと前に、ちょくちょく問題になっていた動画投稿サイトで非常識行為を
投稿して警察沙汰になっていた若者たちを思い出しました。コンビニのアイスコーナーに
土足で入って笑ってたやつとかね。自分たちの行為が、他人にどれだけの迷惑をかけるか
なんて、考えもしないんでしょうね。自分たちが気持ちよければ、面白ければ、それでいいっていう。
こういう人たちって、頭に障害でもあるのかな、と思ってしまう。ほんとに、理解不能です。
小太郎や新夏の言動なんて、まさにそんな感じ。嫌悪しか覚えなかったです。
視聴率の為なら何でもやる長谷見のキャラも最悪でしたね。その為なら、やらせも厭わない。
業界の闇を体現したような人物でしょうか。実際のテレビ制作サイドの人たちからクレームが
来るんじゃないかとひやひやしました^^;まぁ、ちょこちょこ、テレビでのやらせはニュースで
上がったりしているから、中にはこういうことをしている人も実際にいるのかもしれない
ですけどね・・・。
でも、ドキュメンタリーを作るんだったら、やっぱり真実をちゃんと伝えて欲しいと思いますね。
ある程度の演出は仕方がないのかもしれないけれど・・・わざわざ真実を捻じ曲げてまで
面白おかしくしたって、ドキュメンタリーの意味がないと思うのだけどね。
連続殺人犯に関しては、同情の余地もなくはない。あんな職場で働いていたら、そりゃ鬱屈も
たまると思うよ・・・。ああいう陰湿な職場いじめにも心底うんざりしました。
だからって人殺しは絶対に許しがたい行為だけれど。少なくとも、小太郎や新夏や長谷見よりは、
理解出来る部分がありましたよ。彼らに関しては、全くもって、言動すべてが理解不能でしたから。
ミステリとして面白くは読んだのだけど、ほんとに読んでて嫌気がさす話でしたね。
まさしく、イヤミスって感じでした。


「猫が見ていた」(文春文庫)
猫に纏わるアンソロジー集。この間もこんなの読んだばっかりだけど^^;作家さんって、
ほんと猫派が多い気がするなぁ。寄稿陣もなかなか豪華。目当ての作家さんのが
やっぱり面白かったかな(湊さん、有栖川さん、加納さんあたり)。

 

では、一作づつ感想を。

 

湊かなえ「マロンの話」
この間、湊さんのエッセイ集に出て来たマロンちゃんの息子、ミル君が語り手。マロンちゃんが、
亡くなっていたとは・・・切ない(ToT)。
あのエッセイ集の延長のようなお話でしたね。湊さんが、いかに心身を削って作家活動を
しているのかもよくわかります。マロンちゃんを飼い始めた経緯は意外でした。最初は外猫
だったんですね。娘さんのグッジョブぶりが微笑ましかった。ミル君を飼い始めた経緯もいつか
書いて頂きたいですね。

 

有栖川有栖「エア・キャット」
あのクールな火村センセが、猫の前ではデレデレってところが微笑ましい。センセが事件の被害者の
書庫にあった漱石の『三四郎』を手に取る以前に、自宅の部屋に『三四郎』と書かれたメモが
存在していた理由にもニヤニヤ。先に名前を考える派かぁ(笑)。

 

柚木裕子「泣く猫」
確執があり距離を取って17年間会わなかった母が亡くなった。位牌と一晩過ごす為母の部屋に
いると、訪問客が。母と同じ店で働く女性だという。彼女から話を聞いていると、母が可愛がっていた
という猫がやって来て・・・。
母親が一人孤独に亡くなったことは自業自得にも思えるけれど、猫につけていた名前を知った時、
胸が苦しくなりました。きっと後悔していたんだろうなぁ。娘にとっては、身勝手に感じるだけ
であろうとも。

 

北村薫「「100万回生きたねこ」は絶望の書か」
よく考えると私、「100万回生きたねこ」をちゃんと読んだことがないです。だから、あの本
を絶望の書と捉えるかどうか、というこの作品の根幹の部分を検証する知識がないんですよね^^;
読書メーターでは面白い解釈だと捉える方が多かったようです。ちなみに、このお話は
『中野のお父さん』シリーズ。相変わらず慧眼のお父さん。お父さんの『本の読み方に
ひとつの正解はない』という言葉に深く頷く私なのでした。

 

井上荒野「凶暴な気分」
不倫している自分の恋がうまくいかないからって、他人の猫を攫って監禁する主人公には
嫌悪しか覚えなかったです。むしゃくしゃする気持ちはわかるけれど、それをぶつける相手は
間違ってるでしょう、と言いたくなりました。まぁ、だからといって、ヒカリ(猫)の飼い主
にも全く好感持てなかったんですけどね。確かに、何かイラっとさせるタイプというか。
でも、彼女の小説をあんな風にこき下ろすのも間違っていると思う。いろんな意味で、冷静さが
足りない主人公だな、と思いました。

 

東山彰良「黒い白猫」
黒い白猫という、相反する形容詞をつけられた猫の存在が面白かったです。相変わらず中国名
(舞台は台湾ですけど)には苦戦。毎度ルビ振って欲しい・・・(わがまま^^;)。
凄腕の刺青師であるニン姐さんのキャラがとてもかっこよくて素敵でした。主人公の少年との
関係が良かったですね。しかし、若い女の子が顔に刺青を入れるって、相当の覚悟が要りますね。
彼女はその後どうなったんですかねぇ。

 

加納朋子「三べん回ってニャンと鳴く」
私、課金ゲームとかって一切したことがないので、こういうものに熱中する人の気持ちが全然
わからないのですけど、世の中にはこのお話の主人公に共感出来る人がたくさんいるのだろうなぁ
と思いながら読んでました。
美容師の女の子と主人公のやり取りがとても良かったです。ラストも加納さんらしくほっこり。
これで、二人の距離が縮まったりすれば良いのでしょうけど・・・オタクキャラ一辺倒の
主人公にとって、そういう展開にはなりえそうもないのが悲しいところですね(苦笑)。
ゲームのことはわからないけど、スマホゲームの中のハッチのことは、私も飼ってみたい!と
思いました。殺伐とした平凡な毎日の中で、こういう存在がいるって大事なことなのかもしれない
ですね(今の私のメダカのように)。