ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎/「ホワイトラビットa night」/新潮社刊

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伊坂幸太郎さんの「ホワイトラビット a night」。

 

その夜、街は静かだった。高台の家で、人質立てこもり事件が起こるまでは-。仙台で
発生した人質立てこもり事件。SITに所属、宮城県警を代表する優秀な警察官も現場に
急行し、交渉を始めるが…。予測不能の籠城ミステリー(紹介文抜粋)。


伊坂さん最新刊。泥棒の黒澤再登場。黒澤は好きなキャラなんだけど、どの
作品に登場したキャラだったんだっけ?と忘れている自分が情けない。出版社
HPの伊坂さんインタビューに答えが載っていました。ラッシュライフですね、はい。
ちょっと前に出た『首折り男のための協奏曲』にも出て来ましたね。ええ、実は、
あの時も同じこと思ってましたよ。黒澤って、どの作品に出て来たんだっけ?ってね(←えー!)。
ラッシュライフ』は、とにかく構成の妙で読ませる作品って記憶がとてもあって、
大好きな作品だったのですけれど。緻密に張り巡らされた伏線が最後に一気に回収
されるタイプの作品がとても好きなので。んで、本書もまさしく、そういうタイプの
作品。『ラッシュ~』とはまた全然違った雰囲気の作品ではありますけれど。
仙台で起きた、ある人質立てこもり事件の顛末を描いたミステリー。そこに黒澤がどう
関わって行くのか。先に読まれたKORさんが、何を書いてもネタバレになりそうと
おっしゃっていましたけれど、その通り。そのからくりは非情に入り組んでまして、
終盤明かされるこの立てこもり事件の真相にはあっと言わされました。
これをあの人物がとっさに考えたというのだから・・・むむぅ。さすがとしか。
まぁ、こんなにうまくいくかな?とはもちろん、最後に思ったけれども。それは、
神の視点の人物(まぁ、普通に考えて、=作者でしょうが)自身がツッコんでる
訳で、重々承知の上の作品なのでしょうからね。
そう、珍しくこの作品、神の視点がちょこちょこ登場するのです。伊坂作品で
こういう形で神の視点が度々登場して、ちゃちゃを入れるのって、あまり前例が
ないと思うのだけど(ちょっと調べてみたところ、『SOSの猿』がそうだったらしい)。
作者の遊び心なのかな?ちょっとしたツッコミにくすりとしたり。そんなに作品に
必要な要素でもない気がするけれど。伊坂さんなりの、ファンサービスなのかな。
作中には、オリオン座とユゴーレ・ミゼラブルが度々重要な要素として
登場します。オリオン座は私も冬になるとよく眺めるとても好きな星座のひとつ
ではあるので、ちょっと嬉しかった。オリオン座薀蓄は知らないことが多かったけれど。
レ・ミゼラブル』は、学生時代に読みました(表紙折り返しに、この作品の解説で、全巻
通して精読している人は限りなく少ないとの説明書きがあるけれど、私、その貴重な一人
ですから!と秘かにツッコミたくなりましたw)。
ま、確かに文庫で5冊くらい(しかも一作が分厚い)あるから、なかなかの強者
ではありましたけどねぇ。でも、読み始めると、これが相当面白いんだな。ジャンバルジャン
めっちゃいいヤツだし。超感情移入して読めること請け合い。終盤、娘のコゼットとの仲違いが
悲しくなるけれどね。しかし、これを読破に5年はさすがにかかりすぎのような・・・(作中の
ある人物が、5年かけて読破したとのたまうのです)。
相変わらずキャラがひとりひとり立ってますね。その中でも、やっぱり黒澤は特別
だな。ピンチに立たされても動じることなく泰然としているというか。その場で
最善の事態処理を考えられる頭の良さもあるし。人情味のあるキャラって訳でも
ないのに、妙に人に頼られたり。どんなピンチになっても、黒澤がいれば大丈夫、
みたいな心強さがあるんですよね(この辺りは、陣内に通じるものがあるかも)。
時系列が行ったり来たりするので、ちょっと混乱するところもあるけれど、非情に
良く出来た作品だと思います。
立てこもり事件の犯人、兎田の妻、綿子ちゃんが痛めつけられるシーンは、ちょっと
読んでて辛かった。伊坂さんって、こういう理不尽な拷問シーンをわざわざ挿入させる
ことが多いんですよね。作品に必要なのかもしれないけれど、無意味な暴力には
げんなりしてしまう。まぁ、それだけに、兎田ガンバレ!とも思いましたけどね。
立てこもり事件に立ち向かう警察側にもドラマはあります。特に、夏ノ目課長の
身の上と、ラストにはぐっと来るものが。そこは、なあなあで終わらせてくれ
なかったんだなぁ、伊坂さんって思いました。もちろん人質になった母子の方の
問題も。でも、それでいいのでしょう。彼らがこれから生きて行く上では。
ひとつ気になったのは、オリオオリオが隠したお金はどうなったのか、という点。
今もどっかに隠されたままなのかなぁ。

 

よく考えると、主要登場人物がほぼ全員犯罪者という、なんともすごい作品ですが
(読めばこの意味がわかるハズ)、好感も共感も一切出来ない犯罪者は、綿子ちゃん
誘拐事件の犯人グループくらいでした(こちらは、嫌悪しか覚えなかった)。
それ以外の人物の犯罪には、大概情状酌量の余地があるので。
最後はスカっと読み終えられました。面白かったです。
また黒澤が出て来るお話読みたいな。