ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋吉理香子「ジゼル」/坂木司「鶏小説集」

こんばんは。明日からついに12月ですね。師走ですよ、師走!早いですねぇ。
相方は、早々にあちこちから飲み会の誘いが入っているようです。私は職場の
忘年会くらいですけども。ま、忘年会っていっても焼肉ですし、お酒は職場の
人間誰も飲まないので、単なる食事会なんですけどね(苦笑)。

 

今回も二冊ご紹介。

 

秋吉理香子「ジゼル」(小学館
秋吉さんの最新長編。秋吉さんの作品はいつもさくさく読めるのだけど、これは
ページ数そんなに多くないのに、結構時間かかりました。読みにくいとかは全然
なかったんですけどね~。クラシックバレエを題材にしたミステリーです。
バレエは、昔、友人の知り合いが習っていて、発表会によく誘われて観に行った
ことはあるけれど、本物のバレエ団のバレエは、モンテカルロバレエ団を観に
行ったのが人生唯一のバレエ鑑賞です。本物って言っていいのか、それって感じ
ですよね・・・だって、モンテカルロバレエ団って、男だけのバレエ団なんです
もん(笑)。お笑い要素たっぷりで、とっても楽しかったですけどね。まぁ
クラシックバレエとは全然別物でしたよね・・・。でも、小学生の頃バレエマンガに
ハマった経験がありまして、バレエの世界には昔から憧れがありました。『ジゼル』
ラ・シルフィードといったバレエの定番公演の名前も、そのマンガから知り
ましたっけ(ちなみに、星合操のユニコーンの恋人』)。そんな『ジゼル』が
今回の作品のメインテーマ。
東京グランド・バレエ団の創立15周年記念公演が、ずっと封印されて来た『ジゼル』
に決まった。15年前に起きたプリマ殺傷事件以来、『ジゼル』の公演は東京グラン
ド・バレエ団では禁忌とされて来た。団員たちは渇望してきた『ジゼル』を踊れる
ことで色めき立った。そんな記念すべき公演で、如月花音は準主役である復讐の
女王、ミルタ役に大抜擢される。芸術監督であり主演ダンサーである蝶野幹也の元、
早速稽古が始まった。しかし、ある日の稽古後、準主役であるヒラリオン役の太刀掛
蘭丸が財布を忘れて夜の稽古場に戻ると、15年前に死亡した筈の姫宮真由美が
ジゼルの衣装を着て踊っている姿を目撃してしまう。蘭丸の見間違いなのか、
それとも本当に幽霊なのか――更に、団内で不審が出来事が相次いで起きて行く。
これは、死んだ姫宮の呪いなのか――。
仲間だと思っていた人間が、役柄を巡って醜い嫉妬で態度をころりと変えるところに
は、空恐ろしいものを感じました。相変わらずドロドロした人間関係を描くのが
お上手です。嶺衣奈の部屋のベッドにローズマリーが敷き詰められるシーンが出て
来るのだけど、花屋さんでそんなにローズマリーって売ってるものなんだろう
か・・・。複数の花屋を回ったとしても、そんなに花束に使う植物じゃないって
感じがするのだけど。どちらかと言うと、ハーブとして食材で使う植物って印象
なんですけど・・・。それに、うちにも庭にたくさん植わっているけど、ローズ
マリーの香りって、そんなに良い香りかな?ひと枝でも結構匂いがキツいから、
大量にあったら良い香りって印象にはならないような。
連続殺人の犯人は、なんとなくそうかな?と思っていた人物だったので、それほど
驚きはなかったです。ただ、犯人と言っていいのか微妙な真相だったので、
ちょっと拍子抜け。ただ、最後読むまで真由美の幽霊は何だったのか腑に落ちない
気持ちでいたので、最後のカーテンコール(エピローグ)部分で明かされた事実には
唖然。そういうことだったのかー、と思わされました。ちょっと後出し感満載
でしたけど。もうちょっと、遠回しな伏線なんかがあったらもっと良かった気も
するけど。華やかなバレエの裏側のドロドロした人間関係にぐいぐい引き込まれ
ました。若干途中で中だるみした感じもありましたけど、最後は思わぬどんでん
返しもありましたし、面白かったです。ちゃんとしたバレエ観に行きたくなり
ました。生の『ジゼル』観てみたいなー。

 

坂木司「鶏小説集」(角川書店
以前読んだ『肉小説集』の鶏肉版。鶏肉をテーマにした5作が収録されています。
各作品同士も、微妙に繋がっていたりして、今回の主役は前のあの作品に出て来た
あの人かー!みたいな楽しみがありました。あと、一作目の主人公が、心の中で
同じ塾の生徒の中に、ハムサンドばっかり食べていてあだ名がハムってやつがいる、
と独白するシーンがあるのですけど、これって『肉小説集』の最後の作品に出て来た
男の子のことかな?と思ったのだけど。名前とか出てこないから憶測でしかないけ
ど。ちょっとしたこういう繋がりがわかると嬉しいですよね。
前作は豚肉をテーマにしてても、さほど豚肉食べたくなる話が出てこなかったの
だけど、今回は出て来た鶏料理が食べたくなるお話も多かったです。特に、複数の
お話で登場する、コンビニの揚げチキン(あげチキ)は、ついつい買いに走りたく
なってしまいました(笑)。明日仕事帰りに買って帰ろうかな(笑)。

 

では、各作品の感想を。

 

『トリとチキン』
塾で知り合ったハルとレンは、育った環境が全く違うが、なぜか不思議と一緒にいる
とウマが合った。ある日、レンを招いてハルの家でバーベキューしながら花火を
観ることになった。レンは出て来る料理を次から次へと平らげ、ハルの家族とも
仲良くなった。それ以来毎年花火の日にはレンを招いてきたが、ある年ハルの家から
花火が見えなくなってしまい――。
隣の芝生は青く見えるというやつですかね、これは。みんなないものねだりなん
ですよね。でも、他人の家はよく見えるけど、やっぱり自分の家で家族といるのが一番
落ち着くものなんじゃないのかなぁ。家庭によるか。それに、この後の話に出て来る
レンの父親のことを考えると、レンの家での居心地の悪さにも納得できるものが
ありましたしね。

 

『地鶏のひよこ』
自分の息子を好きになれないとわかってしまった橋本。なんとか表面上は相手や妻に
それを気づかれないよう取り繕ってきた。ある日、深夜のコンビニで息子の友達の
父親、浅野と出会い、話をするうちにコンビニの駐車場で一杯やることに。話をして
いくうちに、橋本はついその場の勢いで自分の息子が好きではないことを話して
しまう。拒絶されると思ったが、意外にも浅野は橋本の告白に同意してきて――。
好きでもない子供に、将来面倒見てもらって、育てた分の費用を回収しようという
浅野の考えにゲンナリしました。そういう考えがにじみ出ているからこそ、息子から
軽蔑されてるんじゃないのかな。自分の子供が好きじゃないと言ってしまう橋本も
どうかとは思うけど、親子や兄弟姉妹でも、どうしたってそりが合わない関係って
あると思う。それでも折り合いをつけて息子を認めようとする橋本には好感持て
ました。ちなみに、橋本の息子は一作目に出て来たレン。

 

『丸ごとコンビニエント』
コンビニでアルバイトする田中は、クリスマスシーズンに入り、他のバイトと交代で、
外でチキンやケーキを売っていた。予約販売のみのローストチキンを取りに来る
客も続々とやって来ていた。しかし、予約のチキンが一つキャンセルになって
しまう。代金はもらっているから、働いているみんなで分けて食べることにした
のだが、切る道具がなく困っていた。そんな中、サンタの恰好をして鉈を持った
不審者が現れ――。
コンビニのローストチキンが生焼けって、ありえないんですけどー^^;販売
しちゃった他のチキンは大丈夫だったんだろうか。なにかにつけ仕事をサボろうと
するおっさん(長内だからおっさん)にイラっとしました。小心者の貧乏神店長が
最後勇気を振り絞ってコンビニ強盗に立ち向かう姿は、若干ホラーめいていました
けれど、感動的でした。
 
『羽のある肉』
中三の二学期、ツイてない俺は、何の因果か一番面倒な委員、新聞委員に任命されて
しまった。初の委員会の日、またしてもツイてあい俺は、三年の女子とコンビを
組んで花火大会の取材に行かねばならなくなってしまった。面倒だと思ったが、
話してみると、彼女―村岡美咲とは、好きな漫画が同じで、意外と話があった。
花火大会の前に打ち合わせをすることになり、彼女と花火大会の会場となる河原で
合うことになるのだが――。
二回合っただけでああいう展開になるのはちょっと驚きでした。ちなみに、美咲は
一作目のハルの妹。一作目で、美咲がハルに花火大会は彼氏と行くことになったと
告げて驚かれるシーンがあるのですが、こういういきさつがあったとは。まぁ、
最後は可愛らしい展開で、おばちゃんはこそばゆくて仕方がなかったよ(笑)。

 

『とべ エンド』
『皆殺しレクイエム』という漫画を連載中の戸部エンド。最近出たばかりの三巻の
内容に関して編集部からダメ出しが出て、ショックを受けていた。そもそも戸部が
漫画を描くことになったのは、高校を卒業して一人暮らしをしたばかりのころ、
突然家におしかけて来た、中学・高校時代のいじめっ子のせいだった。彼は昔戸部
が話した鶏ハムの話を覚えていて、それを腹いっぱい食べさせろと要求してきたの
だった。仕方なく安い鶏むね肉を購入し、ネットで検索して鶏ハムを作り始めたの
だが――。
この間アンソロジーで読んだ、主人公がいじめっ子のパシリになって昼食のパンを
買いに走らされる乙一さんの短編を思い出しました。いじめっ子の言いなりに
なって、鶏ハムを作ったり漫画を描いてあげたりする戸部に最初はイラっとした
ものの、最後は相手がそこまで悪いヤツじゃないことがわかって、読後は不思議と
さわやかでした。鶏ハムといえば、芥川賞を獲った羽田圭介さんが毎日食べていると
おっしゃっていて印象に残ってます。私も似たようなのは作ったことあるけど、
こんなに時間かけて作るやつじゃないからなぁ。ちゃんとしたやつ、食べてみたく
なりました。バキ君とはどうなったのかなぁと思ったら、その後は一度も来てない
と知ってちょっとがっかり。でも、多分彼の漫画は読んでいて、応援してくれて
いるのでしょうね。

 

鶏肉は安価だし味も大好きなので、私もしょっ中料理で使います。料理のバリエー
ションも多いし、一番使用頻度は高いかも。
相方の一番好きな料理はチキン南蛮だしね(うちは大体ムネで作ります)。
今回は読んでて何度もお腹が空いてしまった(笑)。
次回はぜひ牛肉バージョンでお願いします(笑)。