ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋吉理香子「婚活中毒」/彩瀬まる「くちなし」

こんばんは。寒さが厳しいですねー。月曜に降った雪がまだところどころ道路に
残っていて、出かける時も注意して通らないと危険です。あまり車が通らない日陰
なんて、まるまる残っていたり。
この間、車で出かけた時に、前と後ろに子供を乗せた電動自転車のお母さんが凍結した
道路で滑って、思いっきりすっころんだところに居合わせました。相方が慌てて
車から降りて自転車を起こしてあげていましたが・・・子供たちはヘルメットを
かぶっていたから大丈夫だったみたいだけど、お母さんの方は後から青あざとか
大変だったんじゃないかなぁ・・・。
みなさんも道路凍結には気を付けてくださいねー。

 

今回も二冊。

 

秋吉理香子「婚活中毒」(実業之日本社
秋吉さんの婚活ものだったら、絶対黒くて面白いはず!とタイトルから読むのを楽しみに
してました。
事実、その通りでした(笑)。独身の婚活組には耳の痛いお話ばかり。私も
アラフォーで結婚が遅かったクチなんで(汗)、身に覚えのあるセリフや感情が
ちらほらと。相方と出会う前はほんとに一生結婚なんか出来ないと思っていた
もんなぁ・・・。人生、どこで何が起きるかわからないですね、ほんとに。
四作の婚活話が収録されています。どれも皮肉たっぷりで、黒さ満載でした(笑)。

 

では、一作づつ感想を。

 

『理想の男』
彼氏にふられ、結婚を急かす母親にせっつかれ結婚相談所に登録したアラフォーの
沙織。相談所から理想の条件にぴったりの男性を紹介され、順調に交際がスタート
した。しかし、ルックスも性格も収入も良いこんな男性がなぜ今まで結婚できなかった
のか訝しむ沙織は、彼が過去に相談所で紹介され付き合った女性について調べてみる
ことに。すると、彼が付き合った三人の女性すべてが亡くなっていた。これは一体
どういうことなのか――。
いやぁ、黒い。三人の女性が死んでいた理由にはぞぞー。彼の本性が最後に判明
するのかと思いきや、まさかのオチ。そっちだったかー!って感じでした。
こんな女に目をつけられてしまった彼が哀れ。

 

『婚活マニュアル』
三十歳で独身だった友人が脳溢血で孤独死したことに怯えた圭介は、婚活しようと
思い立つ。圭介が目をつけたのは、てっとり早く気軽に婚活出来そうな街コン。
パソコンで検索して、初心者向きというBBQ街コンに参加することに。すると、
美人と太った女の子がいるテーブルにつくことに。当然圭介は美人の愛奈狙いで
行動した。その結果、めでたく愛奈とカップルに。
しかし、付き合って行くにつれ、愛奈の金使いの荒さが明らかになって行き――。
男の人って、ほんとこういう女の子に弱いですよねぇ。しかし、地味で太っていて
冴えない女の子だからって、いい子とは限らないわけで。完全に、圭介は女性たち
の策略に踊らされたってことですね。女って怖いわー・・・。

 

『リケジョの婚活』
テレビのお見合い番組『ミッション縁結び』に出ていた、次回参加者男性に一目惚れ
したリケジョの恵美。婚活なんかに興味はなかったが、その男性目当てに参加を決意。
当日は、自らがリサーチした婚活データに基いて行動し、相手からも好感触だと
思っていた。しかし、告白した結果、相手の男性が選んだのは別の女性だった――。
以前、月九で杏ちゃんと長谷川博己さんが主演していたリケジョ婚活のお話を思い
出しました。ヒロインの性格は全然違うけど^^;なんでもデータ主義なところは、
いかにも理系で理屈っぽい子だなーって感じ。『ミッション縁結び』は、完全に
ナイナイの婚活番組のパクリですね(苦笑)。
お相手男性の家に行った時、甥っ子にあげたおもちゃのロボットが、あんな機能を
備えていたとは。完全に犯罪だと思いますけどね・・・。こういう女性を妻に
したら、夫は苦労しそうだなぁ・・・。

 

『代理婚活』
益男の息子孝一は、三十を過ぎて恋愛に興味がなく、仕事一筋に生きている。そんな
息子を心配した妻の郁子は、親が子供の婚活を代理に行う、代理婚活のパーティに
参加することにしたと言う。嫌がる孝一を連れてしぶしぶ参加する益男だったが、
そこで美しい娘を連れたセレブな母親に心を奪われてしまう。息子の気持ちそっち
のけで母親とコンタクトを取ることに夢中になる益男だったが――。
これは唯一ほっとするオチですね。息子がまともな青年で良かった。表面だけでは
見えない、内面まで見透かせる目をちゃんと持っているのですから。益男にはいい
薬になったんじゃないかな。

 

どれも皮肉な結末だけど、考えさせられる部分もあって、とても面白かったです。このシリーズ
もっと書いて欲しいなー。

 

彩瀬まる「くちなし」(文藝春秋
彩瀬さんの最新作(?)。先日発表された直木賞候補にも挙がっていましたね。
残念ながら受賞はなりませんでしたけれど。
7作の短編が収められています。彩瀬さんの短編集って、大抵それぞれの作品で
ほんのすこしリンクがあったりするのだけど、今回は完全にそれぞれが独立した
作品集。ただ、ほとんどの作品が、ちょっと非現実的な要素があり、いびつな
物語って点では共通しているかも(若干そういう要素がない作品もありますが)。
この独特の感性は、他の作家にはないものです。やっぱり、彩瀬さんは非凡な才能を
持った作家さんだなぁと思います。遅かれ早かれ、いずれは直木賞獲るんじゃない
かな。

 

では、各短編の感想を(多いので、あらすじは省略)。

 

『くちなし』
主人公が、不倫相手に別れようと言われて、代わりに腕を所望した時は、は?と目が
点に。それを受けて、不倫相手の男も、自分の腕をいとも簡単にちぎり取ってるし。
なんとも言えない不快感を覚える作品です。恋人同士や夫婦同士、離れている間に
腕や指を交換し合うのが日常の世界。うう、気持ち悪っ。ちょっと、皆川博子さんの
世界観に近いものを感じました。

 

『花虫』
運命の相手同士にだけ見える花がある。設定はとてもロマンチック・・・かと思いき
や、その原因がなんともグロテスク。生れた時から虫に自分の身体が乗っ取られて
いるとか、考えただけでも怖気が走る。でも、虫だなんてわからないままの方が
みんな幸せだったんじゃないのかな・・・。主人公の祖母の葬式は、こういう形で
死にゆくのも幸せなのかな、と思えました。

 

『愛のスカート』
これは奇抜な要素のない恋愛短編。主人公の片想いが切ない。こういう男を好きに
なるのは不毛だなぁ。それでも、好きにならずにはいられないんだろうな。
デザイナーの男が作った愛する女性の為のスカート、どんなものか見てみたくなり
ました。最後に、男が余った端切れで主人公の為に作ってくれたシュシュに、
ほんの少しの救いを感じました。

 

『けだものたち』
蛇や大犬、虎や蜘蛛といった異形の姿に変化する女たちの話。繁殖期には男を食べて
しまうこともあるとか、カマキリか!と思いました^^;昼と夜、男と女の生活する
時間が違うってところもポイント。夫婦になったら、一緒にいる時間がほとんど
なくなってしまう。これで夫婦生活を続けて行くのは大変だろうな。結局、男と女は
相容れないものってことなんでしょうか。
女性の方が、ずっとグロテスクだと思いました。

 

『薄布』
目隠しをした美少年を愛でる主婦・・・なんか、嫌悪感しか覚えなかったです。
北から来た子供たちを愛玩動物のように扱う大人たち。児童ポ○ノみたいで。
息子の悲痛な叫びに胸が苦しくなりました。息子にもっと目を向けてあげて欲し
かったな。

 

『茄子とゴーヤ』
これも、奇抜な設定のない、中年女性の日常。事故で30年連れ立った夫に先立たれ、
生活がだらしなくなった女が、床屋で髪を茄子色に染めるお話。茄子色って、確かに
あんまり見たことないですよねぇ。でも、深い色だから、意外と髪の色にはいいのかも。
ゴーヤは苦手なんで、出て来るお料理はあんまり食べたいと思わなかったんだけど、
いろんな使い方が出来るものだなーと感心しました。ぶっきらぼうな床屋と主人公の
何気ない会話がなんだかいいな、と思いました。

 

『山の同窓会』
これはもう、なんかファンタジーとかSFの世界だなって感じ。恒川(光太郎)さん
の世界って感じかな。何度も卵を産み死にゆく女。金色の背びれを持つ巨大な
肉食魚と闘う男。海獣になる男。卵を産まず、同じ姿のまま生き続ける
ヒロイン・・・。長編でいくらでも膨らませられそうな設定ですね。海獣になって
しまったニワ君がどうなったのか気になりました。