ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

原尞/「それまでの明日」/早川書房刊

イメージ 1

原尞さんの「それまでの明日」。

 

渡辺探偵事務所の沢崎のもとに望月皓一と名乗る金融会社の支店長が現われ、赤坂の料亭の
女将の身辺調査をしてくれという。沢崎が調べると女将は去年亡くなっていた。顔立ちの似た
妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのか、それとも妹か? しかし当の依頼人
忽然と姿を消し、沢崎はいつしか金融絡みの事件の渦中に。切れのいい文章と機知にとんだ会話。
時代がどれだけ変わろうと、この男だけは変わらない。14年もの歳月をかけて遂に完成した、
チャンドラーの『ロング・グッドバイ』に比肩する畢生の大作(紹介文抜粋)。


ほんとーーーに久しぶりに原尞さんの沢崎シリーズの新刊が出ました。新聞の新刊広告
見て、我が目を疑ったくらいびっくりしました。なんとなんと、14年ぶりの新刊だそうで。
そんなに出てなかったんだ~!って感じですが。前作が14年前なんで、自分のブログでも
記事書いてないかと思ったんですが、ブログ初めて割とすぐに一つ前の作品は記事にして
いました。
初期の頃は、前年までに読んだ本も思い出しながらちょこちょこ記事にして毎日ブログをUP
してたんですよね~。今じゃ考えられないけど^^;
で、待望の新刊です。前作までの作品を読んだのが昔過ぎて、基本的な設定とか全然
覚えてないんだけど、沢崎のキャラはやっぱりハードボイルドでいいですね。といっても、
基本的にハードボイルドがそんなに好きな訳ではないのだけれど。でも、このシリーズは
一作目から大好きで、新刊が出る度追いかけています。
ただ、文章はさすがに今読むと、時代を感じさせられますね。いい意味で、原さんの
文章が変わっていないとも云えるのだけれど、この作品から読まれた人には、ちょっと
古臭いと感じられてしまうかも。前作から14年経っているけれど、作中の時代設定は
一体いつになっているのだろう?とずっと疑問に思いながら読んでいたのですが、最後の
最後で、この作品が何年に起きた出来事なのかがわかります。まさか、こういう終わり方は
予想していなかったので、読み終えてしばし呆然としてしまった。やっぱり、あの出来事は
原さんの心にもいろんな影を落としたのだろうなぁ・・・。でも、沢崎の今回の依頼人とは
冒頭の邂逅が最初で最後と再三強調されて書かれているけれど、海津君に関しては、
そういう記述が一切ないですよね。だから、沢崎の言葉通り、海津君が東京に戻って来て、
二人が再会出来る日がきっと来ると信じたいです・・・。
沢崎が引き受けた依頼の件や、金融会社の強盗事件など、いくつかの要素が絡み合って
構成されているのですが、そういう事件の顛末よりも、それに伴う沢崎を中心とした
人間ドラマの方が面白かったです。望月と名乗る沢崎の依頼人や好青年の海津と沢崎との
やり取りは特に好きでしたね。沢崎がどちらの人物からの好意も、淡々と躱すところがニクイ。
かと思いきや、留守番電話サービスのオペレーターの女性の身の上相談に自ら乗って
あげようとする人間味も持っているし(ただし、結局、その相談のシーンは最後まで出て
来なかったですけど。ラストシーンでちらりと彼女のことが出て来るけれど、その前には
相談に乗ってあげているのだと信じたい・・・)。
沢崎と新宿署の錦織警部とのやり取りも良かったですね。お互いに罵り合い邪険に
扱いつつ、実は認め合ってる、みたいな関係に見えて。
ルポ・ライターの佐伯との関係もいいですね。沢崎と会った彼の息子さんが、どういう
影響を受けるのが考えるとちょっとワクワクします。実現するといいな。
時代設定を考えると、登場人物がやたらにタバコを吸うのがちょっと引っかかると言えば
引っかかりました。今の禁煙の風潮を原さんご自身が苦々しく思っていて、敢えてそういう
シーンをたくさん書いたのかなぁともちらっと思ったのだけれど。
あと、沢崎のキャラは大好きなのだけど、ラストシーンで、ヤクザからもらった西洋ラン
(胡蝶ランかな?)をゴミ箱に捨てたのだけは、ちょっと許しがたかったです。沢崎も
花に罪はないとは言っていたけれど・・・せめて誰かにあげるとかさ。あ、あと、タバコを
(車からだったかな?)ポイ捨てするところも嫌だったけど。
まぁ、何にせよ、このシリーズの新刊が読めただけで嬉しい。一応原さんの中には、次の
作品の構想もあるそうなので、のんびり気長に待っていたいと思います。