ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

千早茜「クローゼット」/辻村深月「青空と逃げる」

こんばんはー。風が強いですねぇ。春って感じ。日中は温かいけど、朝晩冷えるから、
着るものに困ります。仕事の時は朝早いんで・・・。
ところで、唐突ですが、私、明日からしばらく海外脱出してきます~。
どこに行くかはまだ内緒♪帰って来たら、旅行記・・・アップ・・・するつもり。たぶん。
気力があれば。
予約本も溜まりまくっているので、どこまで読めるやら。旅行にも二冊は持って行く
つもりですが。


読了本は今回も二冊です。


千早茜「クローゼット」(新潮社)
千早さん新刊。一作前の作品を読み逃していた気がするんだけど・・・結構コンスタントに
新作が出るから、なかなか追いつかない^^;
服飾美術館で働く修復師や学芸員たちと、そこでボランティアとして働くことに
なったユニセックスなフリーター青年が主な登場人物。かなりマニアックな世界で、
服飾芸術の奥深さに興味津々で読みました。私はそんなにファッションに造形が深い
訳じゃないですけれど(というか、全然深くない。むしろ何の知識もない)、やっぱり
女性なんで、綺麗なお洋服やドレスを眺めるのは好きですし、ワクワクします。
確か、以前パリに行った時に似たような服飾系の美術館があって、行った覚えが
あります。とても豪奢な気分に浸れたっけ。あれは古い時代のものばかりだった気
がするけれど、本書に出て来る美術館には、18世紀のものから現代デザイナーのお洋服まで
幅広く所蔵されています。ファッション系のお仕事についている方なんかは、こういう
場所なら一日いても飽きないでしょうね。京都服飾文化研究財団という所がモデルだそうです。
そんな美術館で洋服の修復師として働く白峰纏子は、幼少時のトラウマが原因で男性
恐怖症になった。男性と閉ざされた空間で二人きりになると、発作が発症し、パニック
になってしまう。そうした纏子の性質を受け入れ、友達でいてくれるのは、美術館館長
の青柳の養女、晶。晶だけは、どんな時も纏子の理解者であり、味方でいてくれた。
そんな纏子の前に現れたのは、ボランティアとして働くことを許された美しい青年、芳
(カオル)。始めはカオルの存在に恐怖を感じていた纏子だったが、次第に彼の存在を
認め始めて行く。一方、芳の方では、纏子が幼少期に出会った思い出の少女なのでは
ないかと思い始め――。
読み始めは、芳と晶の物語なのかと思いましたが、蓋を開けてみると、芳と纏子の
物語でしたね。いくら何でも、こんな偶然あるか!?と二人の繋がりには若干
腑に落ちない気持ちにもなりましたが、纏子のトラウマを克服する為には、こういう
形にする以外にないでしょうからね。終盤に判明する、デザイナーのタダノの正体には
驚かされました。これはさすがに、いくら何でも偶然が過ぎる気が・・・^^;;
私の中で、晶のビジュアルは完全に菜々緒さんでしたね。幼少時の姿とのギャップには
びっくりでした。
世間にあまり知られていない私設美術館で、ひっそりと美しい洋服たちを守る修復師や
学芸員たちの、静かな情熱に心を打たれました。男なのに、女性の美しい服が着たいと
熱望する芳のアンビバレントな心情にも共感出来ましたし。だからって、フリーターで
ふらふらしているのはどうかと思いましたけどね。晶たちの美術館と出会って、
やりたいことが見つかってよかったです。これから、芳と纏子の関係がどうなって行く
のか、気になります。


辻村深月「青空と逃げる」(中央公論新社
辻村さん最新作。簡単に言えば、ある事情を抱えて、世間から逃げる母と子の物語。
主人公の本条早苗は、劇団員の夫・拳と小学5年の息子・力の三人家族で、幸せに
暮らしていた。しかし、ある日夫の拳が、深夜に車で事故に遭ったと病院から連絡を
受ける。夫は怪我で済んだが、運転していたのは同じ演目に出ていた女優の遥山真輝だった。
そのことから、不倫と騒がれ、マスコミに追いかけられる日々が始まった。そんな矢先、
拳が病院から姿を消した。拳がいなくなったことで、マスコミは早苗と力の元へも
しつこくやって来た。更に、拳と事故に遭った遥山真輝が事故の後自殺してしまった
ことで、彼女の事務所の人間からも拳の居場所を聞く為追い回される羽目に。そして、
早苗は力の夏休みの間、力を連れて友人のいる四万十へ渡る決意をしたのだった――。

 

東京から高知県の四万十、兵庫県の家島、別府、そして宮城県の仙台へと続く、
親子の逃避行。それぞれの土地で母子が出会う人々は、みんないい人ばかり。事情を
抱えた二人に対して、下衆な詮索をしたり、白い目で見たりすることもなく、温かく
受け入れて無条件に助けてくれる。けれども、現地の人々と仲良くなり、土地に
馴染んだと思えた頃に、二人を追う影が迫り、突然の別れを告げなければならなく
なってしまう。どの土地の出会いも素敵なものばかりだったので、お世話になった
人々にろくに別れも告げられずに次の土地へ行かなければならない二人が、やるせ
なく、やりきれなかったです。そして、二人をそんな状況に追いやった諸悪の根源
である夫(父親)に怒りしか覚えなかった。
途中に明かされる、早苗が四万十へ逃げる決意をした本当の理由を知った時は、
いきなりミステリー的要素が出て来てびっくりしました。そういうことだったのか、
と納得出来るところもありましたが。ずっと、不倫した夫が叩かれるのは納得出来るけど、
その妻と子が叩かれることに違和感を覚えていて、なんで早苗と力が逃げなきゃ
いけないんだろう、と腑に落ちない気持ちでいたので、二人が逃げることになった
理由には溜飲が下がりました。
あと、拳の無責任さにずっと憤りを覚えていたのだけど、終盤明かされる真実を知って、
いろんなことが覆された気持ちでした。拳の人間性が、昔と変わっていないことが
わかって嬉しかったです。
遥山の息子が力の前にやって来て、理不尽な言葉を投げつけた時はすごく腹が立った
のだけど、力が母親の為にやり返した場面は、スカッとしました。そして、
遥山の息子が、母親の件でやりきれない辛い思いを抱えていたこともわかって、
同情すべき点もあるな、と思えました。母親の自殺という痛みも一生抱えて
行かなければならない訳だし。彼も被害者のひとりなんですよね・・・。

 

個人的には、別府の砂湯で早苗が働くところが好きでした。始めは慣れない仕事も、
早苗がとても真摯に取り組んで、慣れようと頑張っていたから。たくましいな、と
思いました。マスコミが取材に来た時は、嫌な予感しかなかったけど、案の定な
展開で。仲良くなった仲間たちと、あんな別れ方をしなきゃいけないのが悲しかった。

 

仙台では、具合が悪くなった早苗を、力が助けるところが印象的でした。力も、
この逃避行の間にいろんな人と出会っていろんな経験をしたことで、ぐんぐん逞しく
成長したと思う。私の姪っ子が3月まで小学5年生だったけど、力よりもずっと
幼い感じだもんなー。でも、この辺りの年齢が一番、子供の成長が著しい時期
なのかもしれないですね。
気になったのは、家島で知り合った可愛い女の子、優芽ちゃんとはその後連絡
取り合ったのかな?というところ。東京に戻って落ち着いたら、手紙でも出すのかな。
あと、コミュニティデザイナーのヨシノさん、シングルマザーの多い島で仕事をした
って描写が出て来たので、あれ、もしかして?と思ったら、やっぱり、『島はぼくらと』
に出て来た女性だったのですね。名前になんとなく引っかかりがあったんですよね。
どんなキャラだったかとか、忘れちゃってるけどさ(またか)。

 

あと、結局遥山真輝の自殺の原因って何だったんだろう?事故を起して将来を
悲観して?でも、死亡事故だった訳でもないしねぇ。いろいろ、悩むことが
あったんだろうか。あのタイミングで自殺しなくても、と思わなくもなかったです。

 

早苗と力の逃避行の行方が気になって、中盤からはほぼ一気読みでした。辻村さんの
作品はいつもそうなんだけどね。バラバラになった家族だったけど、最後は希望の
持てる終わり方でほっとしました。力が最後に選んだ場所は、意外でもあるけれど、
当然といえば当然な場所でした。いろんな問題も抱えたままだろうけど、強く
生きて欲しいな、と思いました。彼には、全国各地に味方がいるからきっと、
大丈夫でしょう。
早苗も、今回の逃避行を通して、とても強くなったと思う。一度家族がバラバラに
解体したからこそ、母子ともにより強く成長出来たのかもしれません。