ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小林由香「罪人が祈るとき」/山白朝子「私の頭が正常であったなら」

どうもどうも。お久しぶりでございます。無事旅先から帰国致しました。
旅行記はあげる気まんまんなんですが、読書記事との兼ね合いもあるから
どうなるかな・・・^^;なんかちょこちょこハプニングもあったし、書くネタは
満載なんですけどね(笑)。
とりあえず本記事からさくっとあげちゃいますねー。旅行中に二冊読んだのだけど、
一冊はエッセイ集なんで後回し。山白さんは、旅行後に一日くらいで読みました。

 

小林由香「罪人が祈るとき」(双葉社
ジャッジメントで話題になった小林さんの二作目。『ジャッジ~』は大切な人を
殺された遺族が、犯人に合法的に復讐出来る『復讐法』のお話でしたが、今回の
テーマはいじめによる復讐でしょうか。壮絶ないじめを受けて自殺を決意した
高校一年の祥平は、死ぬ前に自分を一番いじめていた竜二を殺してから死のうと
計画を立てる。すると祥平の前にペニーと名乗るピエロが現れ、祥平の話を聞いて
殺害計画を手伝ってやると言われる。計画を練る為、度々ペニーと会っていると、
祥平は次第にこのピエロに心を許して行く。一方、いじめによって息子を自死
亡くした会社員の風見は、息子の遺書に書かれていた、いじめの首謀者を探し
出そうとしていた。遺書は、名前の部分が息子の血によって判読不可能になって
おり、かろうじて読み取れるのは『中』と『二』の文字のみだった。そこから、
息子の高校の名簿で二つの文字が使われる人物を絞り出し、そのうち一人の女生徒に
引っかかりを覚え、話を聞きに行こうとするのだが――。
いじめが根本にあるので、読んでいて辛いところもありました。いじめを受けている
祥平の辛さも、いじめによって自分の子供が自殺してしまった経験を持つ風見の
辛さも、痛いくらい伝わって来ました。祥平が、どうせ自殺するなら、自分を
ここまで追い詰めたいじめの首謀者を殺してから死のう、と思うところも、
気持ちとしては共感出来ました。誰も味方がいないと思っていた祥平の味方を
してくれたペニーを心の拠り所に思うところも。だからこそ、ペニーが竜二を殺害
して逮捕された後の、祥平の言動には心を動かされました。
正直、ペニーの正体にはほとんどの人が当たりをつけられると思う。そういう意味
では、ミステリとしてはさほど驚きがある訳ではないと思う。冒頭で意味深に出て
来る、11月6日に毎年自殺者が出るという11月6日の呪いの設定も、さほど
効果的な意味をなしているとも思えないし。ただ、終盤ペニーが法廷で明かした、
ある事実には驚かされましたが。死刑になりたいが為にこの事実を隠していたん
だろうな・・・。
いじめによって傷ついた少年と、いじめで家族を喪った男が出会い、復讐という
共通点を抱えることで芽生えるお互いへの想いに、胸がしめつけられる思いが
しました。
いじめという問題を取り上げた作品には、いつもやるせない重い気持ちにさせられ
ます。
なぜ軽々しく他人を傷つけられるのか、そこの心理がどうしても理解出来ないから。
いじめの内容が年々残酷になっている現代では、こういう事件がいつ起きても
おかしくないと思う。SNSなんかでの攻撃もやり口が陰惨だし。自分がやったことで、
人が死ぬかもしれないとか、全然考えないんだろうな・・・。
ペニーの最後の慟哭と祈りが、あまりにもやりきれず、悲しかったです。
せめて、ペニーの願い通り、祥平は強く生きて、生を真っ当して欲しいな、と思い
ました。

 

山白朝子「私の頭が正常であったなら」(角川書店
待望の山白さんの新作。8作の短編が収録されていますが、どれも良かった。『幽』
に掲載された作品が多いせいか、ちょっとぞくりとさせられるものが多かったですね。
恐怖と残酷と切なさが同居した、不思議な読み心地。子供が亡くなるお話が多いな、
と感じたのだけど、読書メーター見てたら、共通テーマが『喪失』なのだとか。
言われてみれば、どれもそうか、と思わされました。

 

軽く、各作品の感想を。

 

『世界で一番、みじかい小説』
妻との二人暮らしの自宅に、中年男の幽霊が出るようになった。妻にも視えている
ようだが、なぜ突然自分の家に出没するようになったのか――。
淡々とした奥さんの反応が面白い。二人に幽霊が視えるようになった理由には
びっくり。
こういう理由で幽霊が視えるようになったって話は初めて読んだと思う。相変わらず、
着眼点が面白いなぁ。ミステリ的にも秀逸な一作。

 

『首なし鶏、夜をゆく』
クラスで孤立している風子が、理由あって外で首のない鶏を飼っていると知った
マキヲは、自分の部屋で飼わせることを提案する。風子の鶏は、彼女が一緒に暮らす
叔母によって首を切られたという。叔母は風子のことを虐待していた――。
首の無い鶏にエサをやる場面とか、想像すると、ほんとシュール。これが一番山白
さんらしい作品って感じがしました。風子がのみこんだビー玉がああいう効果を
もたらすとは。
マキヲと首なし鶏が風子の首を探すラストは物悲しく、やるせなかった。

 

『酩酊SF』
小説家の私は、ある日後輩から奇妙な話をされる。後輩の彼女が、突然、お酒を飲んで
酩酊した時だけ、時間の混濁が起きるようになったというのだ。後輩は彼女の特殊な
技能を使って、競馬で一儲けするようになったが、ある日彼女が後輩の不穏な未来を
見てしまい――。
酩酊した時だけ時間の混濁が起きる、という設定が面白い。どこまでも自分本位な
後輩に嫌悪感しか覚えなかった。あんな事件まで起こしたのに、彼女がそれでも彼を
見捨てないところがちょっと理解出来なかったですね。

 

『布団の中の宇宙』
10年本を出していなかった友人作家のTが、久しぶりに本を出版した。素晴らしい
作品に感動した私は、メールで感想を送った。すると、Tさんから返事が来て、
食事に行くことに。
食事の席で、Tさんは、作品が書けたのは、リサイクルショップで購入した布団の
おかげだと言う。そこで彼が手にいれた奇妙な布団の話を始めたのだ――。
オチも含めて、京極さんの○談シリーズにありそうなお話。こんな布団には寝たく
ないなぁ・・・。

 

『子どもを沈める』
私は高校時代、少しやんちゃな時代があった。当時の友人三人が、相次いで自分の
子どもを殺したという。うち二人はその後自殺し、残りの一人からある日手紙が
届いた。私が結婚したと知り、手紙を出したのだという。その内容は、恐るべき
ものだった――。
これは、一番怖いお話でしたねぇ。因果応報としか言いようがないのですが。自分が
産んだ子どもの顔が、かつて自分がいじめた子とそっくりだったら・・・。こんな
復讐怖すぎる。
自業自得なんだけどね。主人公だけは、最悪の決断をしなくてほっとしました。

 

『トランシーバー』
震災で喪った三歳の息子の声が、トランシーバーから聴こえて来た。ヒカルとの交信
の後、いつも気分が良かった。それが妻と息子を喪った俺にとって、唯一の心の
安らぎの時間だった。
しかし、月日が経って、俺にも付き合う女性が出来た。トランシーバーの件も
含めて、俺を受け入れてくれていた。そんなある日、自宅が火事になり、
トランシーバーが燃えてしまい――。
アンソロジーで既読でしたが、改めて読んでも切ないお話。震災はいろんなものを
奪い去って行く。それでも、残された者は前を向いて生きて行かなければいけない。
悲しくも強いメッセージが込められた作品だと思う。

 

『私の頭が正常であったなら』
別れた夫が、月一度の娘との面会の日、私の前から娘を奪い去り、娘ごと車に轢かれ
死亡した。娘が死んでから、私の精神は異常を来した。薬が欠かせなくなり、
一緒に住む母と妹からは常に心配されていた。ある日、日課の散歩をしていると、
子どもの声が聴こえて来た。一緒にいた妹には聴こえないらしい。しかし、翌日も
同じ場所で子どもの声が聴こえて来た。付き添いの母には聴こえないらしい。
私は、この声の出処を探す決意をするのだが――。
こういう辛い経験をすると、自分の精神が正常かどうかの判断がつかなくなって
しまうのかもしれないですね。でも、主人公のおかげで救えた命があったことが
彼女にとっても救いになったと思う。子どもを虐待するような親は本当にいなく
なって欲しい。子どもは親を選べないのだから。

 

『おやすみなさい子どもたち』
大型クルーズ船に乗って子どもたちの面倒を見ていた私は、突然船が座礁し、
救命ボートに乗り移る際、海に投げ出されてしまった。次に目を覚ますと、目の前に
金髪の天使がいて、死んだ者に走馬灯のフィルムを見せているのだと説明される。
しかし、私が見たのは他の人のフィルムだったらしい。私自身のフィルムを
見つける為、天使と共に捜索に乗り出すのだが――。
人間は死ぬ直前に走馬灯のように様々な記憶が瞬時に頭に浮かぶと言いますが、
こういうからくりがあったからだと思うと、面白いですね。私が死ぬ時も、
アナが走馬灯を見せてくれたらいいのにな。