ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

朱野帰子「わたし、定時で帰ります。」/京極夏彦「虚談」

どうもこんばんはー。
なんだか真夏みたいな陽気ですね。今年は夏が早く来そうだなぁ・・・。
まぁ、来週は少し気温下がるみたいですけど。
夏の前に梅雨もありますしね。気温の変化が激しいので、体調にはくれぐれも
気をつけてくださいね。


今回も二冊ご紹介。


朱野帰子「わたし、定時で帰ります。」(新潮社)

 

新聞広告で見かけて、面白そうだと思ったので予約してみました。朱野さん自体は、
長編は一作読んだだけで、あとはアンソロジーで何作か読んだくらい。結構話題に
なってる作品みたいで、新聞広告でも何度か見かけましたし、書店でも話題の本として
平積みになっているのを見かけました。働き方改革が叫ばれる世の中で、会社員の
働き方を見直す風潮にあるからかもしれませんね。
新人の頃から、絶対に残業をしないと心に決めている会社員の結衣。しかし、どんなに
体調が悪くても会社を休もうとしない女子社員や、産休明けで仕事に燃える
先輩女子社員、仕事が出来ないくせに深夜まで残業する同僚、仕事一筋で
結衣よりも仕事を選んだ元彼など、同じチームのくせのあるメンバーたちに
加え、問題ありの上司・福永がやってきて、結衣の定時退出は次第に難しくなって行く。
結衣の最終目的は、チーム全員を定時に帰すこと――果たして、結衣の目的は達成
できるのか。
私も結衣と同じで、やるべき仕事はさっさと片付けて、さっさと帰りたい
人間なので、彼女の徹底した定時退社という主義主張には、激しく共感出来ました。
逆に、今の時代に、体調悪くても絶対休もうとしない三谷さんや、大した仕事も
しないで会社に泊まり込む吾妻みたいな人間には、嫌悪感しか覚えなかったです。
三谷さんみたいな人がインフルエンザに罹ったら、ほんと迷惑なだけですね。
まぁ、私も社員時代は風邪ひいても仕事休んだことなかったですけど・・・
(でも、さすがにインフルだったら休むと思う。しかし、私、インフルエンザに
罹ったことがないんです・・・)。
正直、結衣の会社の人間には、ほとんど共感出来なかったですね。新人の
来栖の、二言目には『会社辞めたい』発言にもうんざりしたし。今の若い子って、
ちょっと嫌なことがあると何のためらいもなく、すぐに仕事辞めちゃったりする
みたいですもんね。堪え性がないというか。もちろん、年齢関係なくしっかり
している人もたくさんいるとは思うんですけども。
産休明けで復帰した賤ケ岳のキャラはちょっと珍しいタイプですね。最近は
しっかり産休取って、復帰してもまたすぐに二人目妊娠で産休、みたいな
タイプが多いのかと。確かに、産休明けで自分のいる場所がなくなっていたらと
思うと、ちょっと怖いところはありますけど。女性の役職目指して頑張るのは
いいと思うんですけど、それを他人(結衣)にも強要するのはどうかと。
あとは、やっぱり仕事一番で、彼女よりも仕事を優先させる晃太郎のような
考え方の人とは、一緒にいたくないなーと思いましたね。男は仕事、って
考えも別にいいとは思うんだけど、毎日遅くまで残業で、ほとんどプライベート
な時間が取れないとかは、さすがに配偶者としては、ちょっと・・・
趣味が仕事って感じですもんね、晃太郎は。
昔は、そういう男性ばかりだったんでしょうけどね。女性も働く今の時代では、
なかなかこういう考え方だと、良好な夫婦関係を築くのは難しそうです。
ただ、仕事ができる男性自体は、かっこいいと思います。みんなに
残業させて、自分はさっさと帰るような、責任感のない福永みたいな
上司は最悪。福永の言動には、本当に腹が立って仕方がなかった。そんな
福永をことあるごとにフォローして、甘やかしてダメな部分を増長させた
晃太郎にもムカつきましたが。
本当に仕事ができる人って、全部を自分で背負い込むのではなくて、
適材適所を見極めてうまく人を使って、きちんと時間内に決められた
ことを終わらせられる人だと思う。福永みたいに、人に押し付けて自分は
何もしないってのは一番ダメだと思うけど。
もっとスカっとするお話かと思ってたんですが、正直出て来る社員たちが
それぞれにクソ過ぎて、イライラムカムカする感情の方が強かったな。
あと、結衣の新しい婚約者、巧も、最初の頃はいい彼氏だと思えたんですが、
だんだん物語が進むにつれて本性が現れて、最後は印象最悪に。あのラストは
酷いよなぁ・・・。二人の新居に・・・。某元アイドルを思い出しちゃったよ。
結衣はもっとキレてよかったと思う。でも、あそこの段階でわかって良かったの
だとも思う。一緒にいたのが晃太郎だったのも良かった。これで、元サヤに
戻るのかな?晃太郎の本当の気持ちもわかったし。
結衣以外では、晃太郎の弟の柊のキャラは良かったな。彼にもちゃんと
社会復帰してもらいたいです。
残業嫌い派人間としては、終始結衣頑張れ!結衣負けるな!と応援しながら
読んでました。
最近の、働き方改革にも通じる内容になってると思う。働き方について、
仕事について、いろいろと考えさせられる作品だと思います。
話題作みたいだし、そのうちドラマ化とかされそうですね。


京極夏彦「虚談」(角川書店
○談シリーズ最新作。今回は、虚実が怪しい話ばかりを集めた連作集。いつもと違うのは、
作家の『僕』が、すべての作品の語り手になっているという点。今まで、このシリーズで、
こういう形で共通した人物が登場したのは初めてじゃないかな?各作品のタイトルが
『ちくら』以外すべてカタカナの言葉なのも珍しい(逆に、『ちくら』だけがなぜひらがな?
という疑問が残りますが)。
どこまでが虚でどこまでが実なのか、どのお話もそのあわいが曖昧で、まさしく『虚』談って
感じ。このシリーズらしく、ちょっとぞくりとさせる怪談風でもあります。
全部で9編入っていますが、どれも似てるようでいて全然違ったお話です。
対話形式のものが多いけれど、語り手自身の経験談も。この語り手が京極さんご自身
のようにも取れるところが興味深い。元デザイナーで作家という経歴だし、墓参りが趣味
だとか、ちょこちょこ御本人っぽい描写が出て来る。極めつけは、親しい人が語り手のことを
『ナッちゃん』と呼んでるシーンもあるし。綾辻さんの深泥ヶ丘シリーズみたいな感じかも
(あれも、主人公は京都在住の作家で、綾辻さんご本人が反映されてるっぽいので)。

 

では、一作づつ感想を。

 

『レシピ』
スイートポテトにココナッツミルクを使うというのは初めて聞きました。美味しいのかな?
彼氏の家の台所にいつも死んだ筈の知らない女がいたら、そりゃー、現在の彼女は逃
げ出すでしょう。

 

『ちくら』
『レシピ』同様、当人以外の周りの人には見える女(幽霊?)が出て来ます。その人といつも
一緒にいる為、周りはその人の愛人か後妻だと勘違いするが、本人だけはその女を
認知出来ない。取り憑いた本人にだけ見えない幽霊、という設定は面白いな、と思いました。

 

『ベンチ』
語り手が小学生の頃家に出入りしていた謎のおじさんの話。語り手の家族に自分が信仰
している新興宗教を強要するところに虫唾が走りました。仏壇すら壊され捨てられ意気消沈
している祖母が可哀想だった。おじさんの末路は自業自得に思えました。

 

『クラス』
還暦を過ぎた御木さんの元に、中1で死んだ妹が年を取って現れるという話。幽霊も年を
取るのかな・・・とか思ってたら、終盤次から次へと意外な事実が判明して行く。一体、
どこから嘘なのか、わけがわからなくなりました。

 

『キイロ』
これはなかなかに印象的な話。学校裏の崖の道の途中にある、木の洞の中にガチャガチャの
消しゴム人形を入れ、『キンゴロー様』と祀って遊ぶ子どもたちの話。そのことを知った
語り手が、ちょっとした出来心で『キンゴロー様』に施したいたずらが思わぬ事態に発展して行く。
最後はちょっと拍子抜けでしたけど。みんな嘘ついてるし(苦笑)。

 

『シノビ』
天井裏に忍者がいると話す寒川さんのお話。忍者薀蓄は何が何だか。住んでる家の天井裏に
忍者がいたら怖いなぁ。嫌だなぁ・・・。

 

『ムエン』
語り手の元に奇妙な手紙が届いた。ペンネームではなく、本名宛だった。怪しいとは思った
ものの、電話で連絡を取ってみると、会って話がしたいという。自分とあなたは先祖が同じ
なのではないかとのたまうのである。後日会って話を聞いてみると、詳細を語り出した――。
こんな胡散臭い話、信じる方が無理ですよね。結局一体この人、何がしたかったんですかねぇ。

 

『ハウス』
ノンフィクションライターの木村さんの家で聞いた彼女の話には、一つだけ嘘が混じっていると
いう。一体どこが嘘なのか。
木村さんの嘘が何なのかは、当てることが出来ました。まぁ、それ以外にないだろうな、と
思ったので。ただ、冒頭の『ハウス』が、ああいう意味だとは・・・。

 

『リアル』
語り手が、昔から見るリアルな夢の話。行ったことのない一軒家で、人を殺してしまう。なぜ
殺したのか、わからない。しかも何年も前にもう一人殺しているようだ。ひとりは、庭に埋めた。
もう取り返しがつかない――。
リアルな夢、私もたまに見ます。人を殺す夢は見たことないかなぁ。誰かが死ぬ夢は見たこと
あるけど。嫌なもんですね、ああいうのは。リアルな夢から覚めた時って、確かに夢と現実が
しばらくわからずにぼーっとしてしまうかも。まぁ、言ってみれば、夢の話は全部が嘘話ですからね。
この作品集らしい一編なのかも。