ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柚木麻子「デートクレンジング」/倉知淳「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」

どうもこんばんは。いやー、今日は暑かったですね。そろそろ梅雨入りだというのに、
この真夏のような暑さは何なんでしょうか。今年はほんとに夏が長そうだなぁ。
そういえば、一言メッセージで書いたように、岐阜の花フェスタに行って来ました。
一泊目は長野の昼神温泉に宿泊して、翌日岐阜へ。花フェスタでバラまつりを観てから、
下呂温泉に宿泊、最終日に2つの洞窟を巡るというプランでした。残念だったのは、
今年のバラは開花が早かったそうで、花のピークがほとんど終わってしまっていたことと、
雨が降って天候が悪かったこと。ただ、最終日の洞窟の時だけは良いお天気だったので
良かったですけれど。旅行で雨だとちょっとテンション下がりますよねぇ。でも、楽しい
旅でした。えっと、旅行記は・・・あはは。あはは~~~・・・(フェードアウト)。


読了本は二冊ご紹介。

 

柚木麻子「デートクレンジング」(祥伝社
柚木さん最新作。共依存の女性二人の物語。いやー、痛かったですね、今回も。
柚木さんの書く女性って、どうしてこう思い込みが激しくて相手に求めるものが
多いんでしょうかね。特に、女性同士の友情の場合はそれが顕著なような気がする。
私自身、そこまで友達に多くのものを求めたことがないので、ちょっと共感できかねる
お話だったなぁ。
主人公は義母が営む喫茶店で働く35歳の佐知子。佐知子には、女子大の家政科に
通っている時に知り合った、実花という親友がいる。美しく行動力のある実花は、
学生時代から佐知子の憧れで、アイドル的な存在だった。そんな実花が35歳に
なって突然婚活を始めると言い出した。アイドルグループ『デートクレンジング』の
敏腕マネージャーとして精力的に仕事に打ち込んでいた親友のことが好きだった佐知子は、
実花の行動に戸惑う。実花の婚活を心から応援できない佐知子と実花の友情に、次第に
亀裂が入り始め――。
学生時代は美しい容姿と行動的な性格で、常に佐知子の憧れだった実花。卒業してからも
華やかな芸能界で仕事をし、ひとつのアイドルグループを頂点に導く活躍をしていたが、
ある出来事をきっかけに挫折を味わい、女性としての幸せを求めるようになっていた。
一方佐知子は、平凡な容姿と平凡な性格で、卒業後に勤めていた企業の社員食堂で
現在の夫と知り合い、結婚。平凡に平凡を重ねる人生だが、35歳になった現在、
仕事で挫折を味わった実花にとって、既婚者で安定した生活をしている佐知子は、
人生の勝ち組に見えおり、佐知子に夫の知り合いを紹介してほしいと頼むほど切羽
詰まっていた。
女性同士の友情が、結婚や出産を期に崩れて行く、というのはとてもよくある話
だと思います。結局、人間って隣の芝生は青く見えるんですよね。自分にはないものを
羨ましがるというか。結婚したからといって、みんなが幸せって訳でもないけれど、
独身者にとっては結婚したってだけで、自分と比べて勝ち組に見えてしまう。逆に、
既婚者から見ると、好きなことをして自由に過ごしている独身者が羨ましく見えたり。
そういう部分では、私自身結婚が遅くて、どちらの立場も経験しているので、実花の気持ちも
佐知子の気持ちも、共感できる部分はありました。
ただ、ヒロインの佐知子が勝手に実花をアイドル視して、いざ彼女が自らの幸せを追い
求めて自分の理想とは違う行動を始めたら、それは実花がやることじゃない、みたいな
決めつけで反発するっていうのは、ちょっと自分勝手過ぎじゃないかと腹が立ちました。どんなに
美人でも、35歳過ぎたら婚活市場で価値が下がるっていうのは世間の定石だし、実花が
焦る気持ちはすごくよくわかる。結局、普通に結婚相手と出会って自然に結婚できた
佐知子には、その辺りの女性の焦りっていうのが理解出来ないんでしょうね。平凡な
結婚が、35過ぎた独身女性にとってどれだけ羨ましいのか、なんてことは。本人は
意識してなくても、深層心理では結婚に焦る友人に対して優越感を覚えていることが
透けて見えてしまって、佐知子には最後まで好感が持てなかった。
実花は実花で、自分を崇拝してくれていた佐知子を利用していたところもあって、
そんな佐知子が自分に反旗を翻すような言動を取ったことにショックを受ける。お互いに
言動が幼い感じがして、ゲンナリしました。こういう友情関係って、本当にこじれると
厄介ですね。女同士の面倒な友情関係はとても良く描けていると思うけれど、正直
一人の友達にここまで執着するっていうのが、個人的には理解できなかった。友達は
友達、自分は自分で生きて行けばいいじゃないって思っちゃうタイプなんで。
ラストは、とってつけたような前向きな終わり方で、それもちょっと拍子抜け。
うーん・・・。この手の女同士の友情ものは、さすがにもういいかなぁ。柚木さんの
中の永遠のテーマなのかもしれないですけれど・・・。ここまでドロドロさせるともう、
食傷気味というか。デートをぶっつぶせ!というテーマも、説明されてもちょっと
ピンと来なかったし。デート断ちして自分を取り戻すと言われてもね・・・。アメリ
では共感できるのかもしれないけど、日本だし。みんな、そんなにデートとかしてないと
思うけどなぁ(そういう意味じゃないって?^^;)。なにかこう、ちょっと世間と
ズレてる感じがして、いまいち入っていけなかったです。
実花の婚活仲間である芝田のキャラには本当にイライラさせられたな。佐知子に対する
言動もそうだし、独身男性を前にした時の態度にも。そんな性格だから結婚出来ない
んだよ・・・とツッコミたくなりました(苦笑)。
佐知子の夫と義母のキャラは好きでした。佐知子はいい夫を見つけたよねぇ。普通は、
佐知子の実花に対する異様な執着心を知ったら、もっと引くと思うけどな。義母の
サバサバした感じも素敵でしたね。佐知子が一番粘着質な性格のような。
柚木さん好きなんだけどね。最近の作品は、ちょっと自分の求めてるものと違って
来ているような・・・。それでもまぁ、新刊が出たら読んじゃうんですけどね。


倉知淳「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」(実業之日本社
最近、かなりコンスタントに作品が出てますよね、倉知さん。寡作なイメージ
なんで、作品出るだけで嬉しいんですけど。
タイトルからして、倉知さんらしさ満載ですよねー。ワクワクしました。
六作からなる短編集です。ラストを飾るのは猫丸先輩もの!もう、これだけで
読む価値アリの一作だと思います。

 

では、一作づつ感想を。

 

『変奏曲・ABCの殺人』
クリスティの名作からのオマージュでしょうかね。って、元ネタはタイトルとざっくりした
内容しか知らないんですけど(ミステリ好きにあるまじき・・・^^;)。
アルファベットAの頭文字がつく町で、Aがつく名字の人が殺され、Bという頭文字の
町でBがつく名前の人が殺され、Cがつく町でCがつく名前の人が・・・とアルファベット順に
殺人が続いて行く、という。ABの事件が起きた為、便乗してCの殺人を犯した上で、目的の
Dの殺人を決行しようと目論んだ主人公でしたが、皮肉な結果に。
こんな偶然あるんかい、とツッコミたくなりましたが、面白かったです。

 

『社内偏愛』
マザ・コンの設定が面白かったです。社内のすべてを取り仕切るマザーコンピューター
(略してマザ・コン)に愛されてしまった平凡な平社員、寺島のお話。実際、こんな風に
すべての権力を握るコンピューターから偏愛されてしまったら、困りますよね。ただ、
ラストみたいな反応も困りますけど(苦笑)。

 

『薬味と甘味の殺人現場』
パティシエ志望の女性が自宅マンションで殺されていた。死体の周りには三つのケーキが
並べられ、口には一本のネギが差し込まれていた。犯人はなぜ遺体にそんな装飾をしたのか――。
天地刑事が推理する、三つのケーキとネギの解釈にはなるほど、と思わされました。それが
真実かどうかは結局わからず仕舞いですが、犯人の心理として説得力はあるな、と思いました。

 

『夜を見る猫』
有給休暇を取っておばあちゃんの家に滞在している由利枝は、おばあちゃんちの猫のミーコに
メロメロになっていた。夜、由利枝が床についていると、ミーコが座ってある方向をじっと
見つめているのに気付いた。翌日も、同じように。おばあちゃんに聞いてみると、由利枝が
来る前の日も同じようにしていたらしい。ミーコは一体何を見つめているのだろう――。
なんとなくミーコの視線の先にあるモノは予想できたんですが、由利枝がその解答に行き着く
過程の思考には感心させられました。普通は猫が一点を見てたからって、そこまで考えないよ
なぁ、と。倉知さんらしい、猫愛たっぷりの一作で面白かったです。

 

『豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件』
昭和19年12月。帝國陸軍特殊科学研究所・伊-拾参號実験室である実験の被験者の一人
である景浦二等兵が頭を殴られて殺されていた。実験室には凶器となるものは見当たらず、
現場は密室状態。死体の周りには豆腐がぶちまけられていた――。
時代設定や舞台設定的に若干の読みづらさはあったのですが、ミステリとしては面白かった
です。刀根少佐の推理があまりにも荒唐無稽なので面食らっていたのですが、ちゃんと
現実的な解決も用意されているので、溜飲が下がりました。

 

『猫丸先輩の出張』
会社の重要なデータを受け取りに日帰りの出張に行くことになった浜岡。関東平野の北に
あるその研究所では、厳重なセキュリティが施されていた。そこで浜岡は、この研究所の
キャラクターねこめろんくんのきぐるみを着た大学時代の先輩、猫丸と再会した。研究所の
諸井室長からデータを受け取った浜岡は、帰りがてら施設内を案内してもらっている途中で、
ある不可解な事件に出くわすのだが――。
不可解な水入りバケツ落下事件の謎を、猫丸先輩があっという間に解決してしまうところは、
さすがの一言。浜岡の人生最大のピンチを猫丸先輩が救ってくれて良かったです。
浜岡は困った人に貸しを作ってしまったと青くなってましたけどね(苦笑)。なんだかんだ
いって、猫丸先輩は優しい人なんですよね(たぶんw)。