ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾ルカ「わたしの忘れ物」/近藤史恵「わたしの本の空白は」

こんばんはー。いやー、あっついですねぇ。梅雨真っ只中の筈なのに、この
暑さは一体なんなんでしょうか。てか、今週一日も雨予報がないのだけれど・・・
後から梅雨明けしてました宣言パターンかしらん。
ところで、今日はいよいよ運命の決戦ですね!!引き分け以上でいいからとかなんとか、
なんだか楽観視している報道も見かけるけれど、W杯一次リーグ突破はそんなに甘いもんじゃ
ないと思う。昨日のドイツみたいなこともあるし。気を引き締めて、絶対勝って決めて
ほしいですね。頑張れ、ニッポン!!


本日も二冊ご紹介。なんだかタイトル似ててシリーズものみたいな二冊ですけど、
単なる偶然です(笑)。乾さんのは読んで大分経つし。実は、この二冊の間に
一冊読んでた本があったんですが、どうにも乗り切れずに期限切れで返却の憂き目に
あってしまいました。W杯が面白すぎるのがいけなかったんだ、そうだ、きっとそうだ
・・・(←挫折したとは認めたくないもようw)。


乾ルカ「わたしの忘れ物」(東京創元社
久しぶりに乾さん。最近は新作がちょっと追いつかないでいたのだけれど、
本書は東京創元社からの新刊だったので、気になって予約してみました。
結果、読んで大正解。この作品、以前同じ東京創元社から出た『メグル』
微妙にリンクしていました。始めに、主人公の恵麻が大学の奨学係の女性から
アルバイトを紹介される時点で、あれ?と思ったのだけど、やっぱりこの
紹介した事務の女性が、『メグル』に出て来たミステリアスな美女のユウキ
さんでした。『メグル』は、H大の奨学係のユウキさんから、奇妙なアルバイトを
紹介される学生たちの連作集でした。
今回は、同一主人公による連作短編形式なので、長編のようにも読める形に
なっています(前回は、毎回主人公が変わりました)。一作を通して、ある
仕掛けが施されていて、ラストであっと言わせる展開に発展していきます。
一作ごとに心に染みるオチになってはいますが、ラスト一編ではまた違う
大きな感動と切なさが待っていました。後から考えると、ちょこちょこ
伏線は出て来ていたのだけれど。
前々から、乾さんはミステリに向いていると思っていたけれど、本書を読んで
改めて自分の考えは間違っていなかったと思いました。いろいろと気になって
いた要素が、最後に明かされるある事実によって、ほぼすべてがすっきり
しました。まぁ、腑に落ちない部分がないとは言わないけれど、多分そこを
ツッコむと作品自体が成り立たなくなってしまうので。
本書は、ある日ふと足が向いたH大の学生部庁舎で、奨学係の女性から半ば強引に
アルバイトを紹介される女子学生のお話。気が弱い恵麻は、断ることも
出来ずに言われるままにアルバイト先を訪れる。紹介されたアルバイトとは、
大型商業施設内の忘れ物センター内での事務補助だった。そこには、年若き
女性主任の水樹と、人好きのする高身長の青年、橋野の二人が勤めていた。
恵麻は、二人と共に忘れ物センターに届けられる忘れ物の処理の仕事を
始めるのだが――とこんな感じ。届けられる忘れ物には、それぞれに理由が
あって、落とし主との間には隠されたドラマがありました。それをズバリと
言い当てる主任の水樹さんの慧眼には舌を巻きました。水樹さんご自身にも
いろいろと影がありそうではありましたが、そこに関してはあまり深く切り込んで
描かれてはいなかったですね。母親と二人暮らしで貧乏ってことくらいしか。
父親とのエピソードの部分で、少し過去が明らかにされたくらいで。彼女の
ことはもう少し内面を知ってみたかったです。
忘れ物センターのもう一人のメンバー、橋野のキャラも良かったです。
人当たりがよくて、柔らかい雰囲気で、好感が持てました。恵麻に対する温かい
目線も良かったですね。恵麻と忘れ物センターの二人の職員との関係がとても
好きでした。
ヒロインの恵麻は、自分は存在感のない、存在価値のないセロファンみたいな
存在だと自嘲しています。そんな恵麻が、忘れ物センターの忘れ物処理という
仕事を通して、成長していく物語・・・かと最終話の前までは思って読んで
いたのですが。まぁ、一概にそれも間違いではないのだけれど、ラスト一話で、
恵麻に関して驚くべき秘密が明らかになります。まぁ、こういう騙しの手法は
いくらでも先例があるのだけれど、やっぱり驚かされましたね。
作中で、かつての親友で現在モデルとして活躍している美影への複雑な感情
が度々出て来ていたのですが、それがああいう形でつながっているとは。
第一話でのユウキさんの恵麻に対する態度もいろいろと腑に落ちるものが
ありました(最初から名前を知っていたりとか)。
もっと早く、親友同士、心の内を伝えあえていたら良かったのに。どうしようも
なくやるせなくなりました。でも、美影の最後の言葉で、恵麻の気持ちも
報われたんじゃないのかな。
構成がとても巧いな、と思いました。ユウキさんとの再会も嬉しかったです。
ユウキさんの『あなたは行くべきよ。断らないでね』のセリフがまた聞けるとは。
多分、ユウキさんにこう言われて断れる人はいないだろうな(苦笑)。
今度は、忘れ物センターの水樹と橋野それぞれが主体の物語も読んでみたいな、と
思いました。


近藤史恵「わたしの本の空白は」(角川春樹事務所)
近藤さんの最新作。しかし、近藤さんは新刊が出るペースが早いですね。連載
いっぱい抱えているのか、来た仕事は全部受けているのか・・・驚異の出版ペース
ですよねぇ。なんか、2~3ヶ月に一作は新作を読んでいるような^^;まぁ、
どの作品も水準以上の面白さはあるので、たくさん読めるのはファンとしては
ありがたいことですけれど。
ただ、今回の作品は、読み終えてあまりすっきりしたとは言い難いなぁ。というか、
後味が悪かった。この後味の悪さが近藤さんらしいと云えなくもないけれども。
ストーリーは、ある日目覚めたら記憶がなくなって病院のベッドで目覚めた女性の話。
設定はまぁ、ありがちではありますよね。目覚めた女性は、自分が何者なのか、なぜ
ここにいるのかまったく覚えていない。戸惑っていると、女性の夫だという男が
現れる。でも、女性はどうしてもこの男性に自分が愛情を抱いていたとは思えない。
しかし、病院から退院を余儀なくされ、男性と共に自宅だという家に帰ることに。
そこでは、義母と義姉が同居していた。自分が何者か思い出せないまま彼女は
その家で暮らし始める。すると、彼女はある美しい男性の夢を見る。彼女は、
漠然と自分が愛しているのはその男性ではないかと感じるのだが――。
タイトルから、本に関するお話なのかな?とちょっと期待したのだけど、全然
違ってました^^;記憶がなくなった自分を本に例えて、なくなった記憶を
本の空白部分に例えているってことですかね。
記憶がなくなったヒロインの南が、夫だというシンヤと生活を共にする中で、
少しづつ夢の中で出て来る美しい男性について思い出して行くのですが、
南はどうしても夫のシンヤではなく、夢の男性の方に愛情を抱いてしまう。
一体この男性は誰なのか、というのが作品のキモだとは思うのですが。
夫に対する違和感や嫌悪感、夢の中の男性への熱烈な思慕、妹の小雪が語る
南のシンヤに対する感情と現在の感情とのズレ・・・いろいろな腑に落ちない
要素が、一応最後に明かされる事実ですっきりはするのですが。
うーん、まさか、ここまだ後味の悪い真実だとは。途中、夢に出て来た男、
晴哉に金持ちの渚が近づいて親密になる辺りで、ちょっと嫌な予感はしたの
だけど。もうちょっと純愛のお話なのかと思っていたので、ちょっとこの結末
にはゲンナリしたなぁ。まぁ、晴哉みたいな男ってどこにでもいそうですけどね。
結局晴哉が南に執着するのって、南がシンヤと結婚したからなんでしょうね。
できれば、最後は何年後かに南がニュースで晴哉と渚の名前を目にする、みたいな
展開だったらもう少しスカッとしたかもしれないんですけどね。この二人が、今後
どんなことをやらかすのか、知りたいような、知りたくないような・・・。
登場人物誰一人好感持てる人物がいなかったってのもね。シンヤの姉のユミ
は最初は印象最悪だったけど、一番正直な人でまともな人だったのかもとは
思うけど。別に好感持てた訳じゃないしなぁ。南の妹の小雪はいい子だったけど。
なんか、もやもやしたまま終わっちゃった感じ。南が、新しい生活で前を向いて
生きられるようになればいいな、と思います。