ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋吉理香子「鏡じかけの夢」/森晶麿「葬偽屋に涙はいらない 高浜セレナと4つの煩悩」

こんばんはー。今年ももう上半期終わりですね。はっや・・・。
それにしても、今日の早朝の日本☓ベルギー戦はショックでした。仕事があったので
前半は泣く泣く諦めて、後半からの観戦だったのですけれど、後半開始早々2点を
取ったのには驚かされました。ただ、その時点での2-0には、正直嫌な予感しか
しなかったです。日本の一番嫌なパターンになるんじゃないかと。そして、1点
返された時点でその思いはさらに強くなり、同点に追いつかれた時は、嫌な予感が
確信に変わりました・・・こればかりは、あたってほしくなかったなぁ。
でも、もしかしてベルギーに勝っちゃうかもしれない!とほんのいっときだけど、
夢を見させてもらいました。開催前は三戦全敗も十分ありえると思っていただけに、
日本代表の快進撃にはたくさんの感動をもらいました。ありがとう、お疲れ様でしたと
伝えたいですね。
ベルギーはほんといいチームだった。これからはベルギーとフランスを応援しよっと。


今回も二冊ご紹介っと。


秋吉理香子「鏡じかけの夢」(新潮社)
最近お気に入りの秋吉さんの新作。曰くつきの鏡をめぐるゴシックホラー集。
鏡面を磨くと願いが叶うという大きな骨董品の鏡に魅入られた主人公たちが、
欲におぼれて身を滅ぼして行くという、ダークな結末のお話ばかりを集めた連作短編集
です。どのお話も救いがなかったなぁ。鏡に願いを唱えた人物はことごとく、破滅の
道を辿ってしまう。なんか、ホープダイヤの呪いを思い出しましたねぇ。鏡が
ヴェネツィア産ってのも、いかにも曰くありそうな出自だし。ヴェネツィアから
日本に流れて来た鏡が、持ち主を何人も変えながら、最後は再びヴェネツィア
地に流れ着く。こういう構成も巧いですね。
鏡にはいくつもの仕掛けも施されていて、それがまた魔力を持つ鏡としての
恐ろしさを増長させている。ただ、最後まで鏡自体に本当に魔力があるのかどうかは
わからないまま。鏡に力があると思い込んだ人間の欲望によって、ただ自滅しただけの
ようにも捉えられるところがこの作品の巧いところでもあると思う。
鏡を磨くだけで欲しいものが手に入るのであれば、私だって必死に磨いちゃうと
思うなー。でも、欲望に目が眩んだ末に手に入るのは、悲劇的な結末へと向かう破滅への
道だけ。人間、ほしいものは地道に努力して手に入れるに越したことないってことで
しょうかね・・・。
個人的に印象に残ったのは、ラスト二作かな。四話目の『奇術師の鏡』は、
傷痍軍人のエセ奇術師が、浮浪児を弟子にして、彼を人気者の奇術師に
仕立て上げて行くお話。最初クズにしか思えなかった主人公の男でしたが、弟子の
少年に芸を教えて行くうちに、本当の師弟関係を築いて行くところが良かった。
それだけに、結末があまりにも悲しい。最後に少年の未来を繋ぐような行動を
取ったところは感動的でした。
ラストの『双生児の鏡』は、一番皮肉な結末と云えるでしょうか。爆撃で故郷の
ボローニャを追われてヴェネツィアにやって来た双子の姉妹は、サーカス団の団長から
団員にならないかと誘われる。しかし、舞台に立てるのはどちらか片方だけ。始めは
交代で一人づつ舞台に立つ予定だったが、初日に舞台に立った姉は華やかな舞台に
魅入られたのか、その後も妹と交代しようとせず、舞台に立ち続ける。日陰の存在に
なった妹は、願いが叶うという鏡にある願いごとをする――ラストで明かされる、
姉の真意を知って、胸が苦しくなりました。皮肉すぎる結末がただやるせなかった。
双子を引き取ったサーカス団の団長や、妹が恋した男の正体にもゲンナリ。すべての
ことに裏があったってことですね。
それにしても、ひとつの鏡にこんな相反する仕掛けが施されているというのも
珍しいですよね。聖母と悪魔。この鏡を作った職人は、一体どんな依頼でこの
鏡を作ったのでしょうね・・・作った時のエピソードも読んでみたいな、と
思いました。
この鏡は、これからもいろんな持ち主の元を転々として、人々を不幸にし続けて
行くのだろうなぁ。その行く末が気になるような、知らない方がいいような。
秋吉さんらしい、皮肉で残酷な短編集でした。


森晶麿「葬偽屋に涙はいらない 高浜セレナと4つの煩悩」(河出書房新社
葬偽屋シリーズ第二弾。二作目が出るとは思わなかったなぁ。前作の内容そんなに
覚えてなかったんだけど、なかなか斬新な設定で面白かった覚えがあったので、
続編も借りてみました。
偽の葬儀を行う『葬偽屋』を営む殺生歩武の元で働く元OLの高浜セレナが主人公。
今回も、様々な葬偽が出て来ました。一話目でいきなりセレナが歩武の元を
去り、ブラック企業に就職したのには驚きました。しかし、いくら再就職が
難しい時代だからって、セレナが再就職した会社はひどすぎですね。お金にならない
残業ほど虚しいものはないと思うけど。でも、こういう中小企業はまだまだ
たくさんあるんだろうなぁ。
でも、あんな決意で歩武の元を去ったのに、一話目の最後であっさり葬偽屋に
戻ったのには拍子抜け。親の歩武への干渉を避ける為に身を引いたのでは
なかったの?とツッコミたくなりました(苦笑)。
二話目では、葬偽で使う<殻>を制作する黒村の過去が描かれます。ゲイの
黒村に、あんな過去があったとは。依頼人に○○○ー○した時はびっくりしたな。
三話目は、画家が作った特殊な図書館が出て来るお話。膨大な美術書ばかりが
並んだ書架は圧倒されるだろうなー。行ってみたい。偏屈な館長とは会いたく
ないけど^^;
四話目は、料亭の女将が依頼人。自分が死んだ時に子どもたちがどう反応するのか
確かめたいという依頼に、セレナも歩武も乗り気になれないが、高額な依頼料に
惹かれ、結局引き受けることに。そんな傍ら、セレナは母の危篤という知らせを
受け――母親のことをあれだけ毒親だとか言いつつも、やっぱり病に倒れたと知ると、
過去に受けた愛情を思い出してしまうセレナ。父親からの電話で、いちいち最後にお金の
無心があるところにイラッとしました。結局、セレナを金づるとしか思ってなさそうな
ところが何とも。ラスト、親子の愛情を再認識したみたいな展開になってるけど、多分
セレナの両親の性格だと、結局何も変わらないような気がするな。なぜ歩武が母親の
手助けをしたのかちょっと理解出来なかった。毒親はどこまで行っても毒親だと思う。
セレナは、どうしようもない両親とはきっぱり決別するべきだと思うんだけど。
どこまで行っても、親は親、なんでしょうね、セレナにとっては。その辺りの甘さで、
そのうち痛い目に遭わなきゃいいけどね(すでに今までさんざん遭ってる筈なのだ
けれど・・・)。
なんとなく親子の感動的なラストっぽく描かれているのだけど、個人的にはちっとも
すっきりしなかったです。
歩武とセレナの仲がちょっぴり進展したっぽいところだけは良かったかな。一話目で
セレナが出て行っちゃって、ほんとはすんごく寂しかったんだろうね、彼。その辺りの
心境がちょっと出て来たら良かったのにな。
歩武の美術薀蓄は今回も楽しかったです。