ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介「スケルトン・キー」/大倉崇裕「琴乃木山荘の不思議事件簿」

こんばんは。ようやく秋めいて来ましたね。これからまた少し暑くなるみたいですけど、
さすがにもう35度とかにはならないですよね。もう暑いのいいよ・・・。
北海道は余震が続いていますね。停電はほぼ解消されたようですが、まだまだ節電が必要
だそうですし。道内にいる方はどれだけ不安でしょう・・・。
一日も早く、落ち着いた暮らしが出来ますように。


今回も二冊ご紹介。


道尾秀介「スケルトン・キー」(角川書店
我らがミッチー最新刊。なんだか、久しぶりに、初期の道尾作品を彷彿とさせる
トリッキーな作品を読んだ感じがしました。主人公がサイコパスという、なんとも
心理的に読むのがキツイ作品ではありましたけれど。
児童養護施設で育った主人公の坂木錠也は、同じ施設で育ったひかりさんから
自分のような人間は<サイコパス>だと教えられていた。そのため、錠也は週刊誌
記者である間戸村のスクープ映像撮影を手伝って、スリルを味わうことで心拍数を上げ、
狂気を抑え込むことで心の平衡を保っていた。ある日、長年会ってなかった施設仲間の
<うどん>から突然電話があり、会って話したいと言われる。翌日会ったうどんの話を
聞き、錠也の心の平衡が崩れ始める――。
幼馴染のうどんの話を聞いた後の錠也の言動には、正直ついていけないところが多かった。
ためらいもなく人を殺して行くことがショックでもありましたし、語り手としての錠也は、
それほど普通の人から逸脱している感じがしなかったから。どちらかというと、冷静に
自分の精神と向き合っている印象があったので。そこが、サイコパスと言われる
所以なのかもしれないのですが・・・。
だからこそ、後半の反転には素直に驚かされました。違和感ばかりを感じていた理由も、
それで腑に落ちました。騙されたことは間違いないです。やられた、というしかない。
ただ、はっきりいえば、これってミステリーの手法としては反則技ですよね。例の
十戒に入っていたんじゃなかったっけ?まぁ、面白ければそんなの今となっては
関係ないのかもしれないですけど・・・。しっかり伏線張られているし、徹底して
フェアな書き方もしてあって、これはこれでありだとは思うので、私としては
文句つけるつもりは毛頭ないのですけども。ただ、昔からのミステリ好きとかには
叩かれそうだなぁと思ったり。本格ファンはどう評価するのかな、これ。
ひかりさんが説明したシュードネグレクトの画像とか、道尾さんらしい要素で
嬉しかったですけどね。これも錯覚のひとつですよね。ちょっと、ラットマンを
思い出しました。こういう右脳と左脳のシステムひとつとっても、人間って不思議な
生き物だなぁと思いますね。
個人的には、錠也よりもうどんの方がよっぽどサイコパスっぽいなぁと思いました。
しかし、同じ施設で同じ時期にサイコパス二人が意気投合って、そんな偶然ある!?
とちょっとツッコミたくなりました。
結構エグいシーンが多かったので、ところどころ読むのがしんどかったりもしたのですが、
久々にトリッキーな道尾ミステリが読めて嬉しかったです。
ラストはもっと徹底してダークな結末にも出来たはずですが、光を感じさせる終わり方
に持って行ったところが道尾さんらしいな、と思いました。
とはいえ、ヤツはまだ生きているわけで。いつか、錠也の前に再び姿を現す日が来る
のかもしれない。どうなるのやら。
サイコパスがいっぱい出て来るんで、どのキャラにも嫌悪感しか覚えなかったのだけど、
間戸村のキャラだけが救いだったかな。最初はスクープさえ取れれば錠也は使い捨て
でもいい、みたいな印象だったのだけど、最後はいい仕事してくれました。捨て身の
覚悟で錠也を助けに行ったのはかなり意外だった。いい人だったのね(苦笑)。
ところで、この表紙は若干ネタバレ気味ではないですかね?まぁ、読み終えた人じゃ
なきゃ、この意味わかんないとは思いますけどね(苦笑)。
ちなみに、タイトルのスケルトン・キーとは、軸が円筒状で、先端に小さく平坦な矩形上
の歯(合い形)がついている単純な鍵のこと。昔ながらの鍵ですね。ただ、現在では『合い鍵』
の意味で使われることが多いそうです。透明な鍵かと思ったよ(笑)。解説されてみると、
タイトルの意味も腑に落ちますね。


大倉崇裕「琴乃木山荘の不思議事件簿」(山と渓谷社
大倉さんお得意の山ミステリ最新作。標高2200メートルの山小屋『琴乃木山荘』で
働くアルバイト、棚木絵里が主人公。オーナーの琴乃木や年齢不詳のベテランアルバイト、
石飛とともに、山荘に持ち込まれる不思議な謎を解決する。
山ならではの事件ばかり7編が収録されています。山小屋から見えた人魂の正体や、
雪が積もった密室状態の離れの部屋で倒れていた男の謎、駐車場に停めた車の位置が
変わっていた謎、登山道の指導標が三年連続で故意に動かされていた謎など、持ち込まれる
謎自体は些細なものが多かったのですが、その裏には人間の悪意が潜んでいるものも
あり、読後感は様々でした。日常の謎と銘打っているとはいえ、殺人が絡んでいるケース
もありますしね。
最初から訳ありっぽい主人公の絵里ですが、ラスト一編で彼女が抱える鬱屈に関しても
語られます。そこにあったのは予想外に重い真実でしたが、その事実を乗り越えて彼女
自身の迷いが吹っ切れたところは良かったと思いました。ラストの石飛さんの発言が
かなり意味深で、え、どっちの意味!?とやきもきしちゃいましたけど(笑)。
ひとつひとつのミステリー度はそんなに高くないですが、山荘で起きる日常の謎なら、
これくらいライトな方が読みやすくて良いのかも。割とあっさり解決しちゃうんで、
ちょっと拍子抜けしたところもありましたけど。朴訥な石飛さんのキャラクターが
いいですね。年齢不詳のアルバイトってところはどうなのかとも思うけど^^;;
オーナーの穏やかなキャラクターも好きでした。
あと、山岳遭難救助隊の原田さん登場が嬉しかったです。結構いろんな大倉作品(山もの
限定だけど)に出没しますよね、原田さん。顔が広いな(笑)。
石飛さんは絵里のことはどう思っているのかなぁ。気になる。最後に絵里はまた
琴乃木山荘に戻って来ると決意しているから、続きがありそうですね。
大倉さんの山ミスの中では、一番軽く読める作品じゃないかな?山ミスに馴染みの
ない人でも読みやすいかも。